世界で最後の花 絵のついた寓話

2023-11-13 10:07 | by 中村(主担) |

 今日も世界のどこかで戦争や紛争が続いています。人間はなぜ、悲しく愚かな過ちを繰り返してしまうのか・・・戦争を繰り返す人類への皮肉と平和への願いを込めて、今から84年前の第二次世界大戦開戦時に作られた本が、村上春樹氏の新訳で復刊しました。

『世界で最後の花』
ジェームズ・サーバー作/村上春樹訳 
ポプラ社 2023年6月


 “第十二次”世界大戦の後、文明は破壊され、町も村も消えてしまって、人々はただそこに座り込むばかり。ある日、それまで一度も花を見たことのなかった若い娘が、世界で最後に残った花を見つけて、一人の若者と共に育て始め・・・

 ページをめくっていくと、温かな希望が胸を満たしていき、また不穏な影が心をよぎります。失われたものの大きさを分かっていながら繰り返される悲劇。人間の愚かさとその中にある逞しさが、シンプルな絵と言葉で表現されています。

 私たち一人ひとりが、他者を思い、一輪の花の清らかさを独り占めせず共有したいと思えれば、世界は変わっていくと信じたい。けれど私たちが考えることをやめてしまった時、そこに花が咲くことはもうないかもしれません。

 (東京学芸大学附属竹早中学校 司書 中村誠子)

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