(1997 財団法人 日本視聴覚教育協会)
篠原 文陽児 (東京学芸大学)
目次
1. はじめに
2. マルチメディア出現の背景
3. マルチメディアの文教施策の展開
4.ハイパーメディアの意味と特長
5. ハイパーメディアの教育的意義
6. ハイパーメディアの開発
7. マルチメディア教材開発の手続き
8. マルチメディア教材の開発研修カリキュラム
9. おわりに
引用文献及び参考文献
著者注
日本の教育におけるマルチメディアに関する研究は、文部省が1988年度予算において、財団法人日本視聴覚教育協会の「ニューメディア教材の研究開発事業」に対して財政的援助をしたことに端を発する。この事業は、国際基督教大学の中野照海教授を主査に、「マルチメディア」というよりもむしろ当時発展が期待されていた「ハイパーメディア」の進展を視野に入れ、3ケ年間実施された。その研究成果が、ハイパーメディアの特長の一つである「無構造性」を生かした博物館的なハイパーメディア教材「文京文学館」と、もともと構造のはっきりした「理科」を「総合化」の概念で「緩やかな構造」にした「ハイパー・サイエンスキューブ」である。
一方、1990年頃から、通信システムの急速な発展に伴って「マルチメディア」という言葉が産業界で使われるようになり、NHKのハイビジョン番組「人と森林」をマルチメディアとして利用する「ハイパーメディア『人と森林』」、大阪大学グループによる「ハイパーメディア『交通安全教育』」など多くの教材が開発されていった。そして、前記の文部省事業では、マルチメディアとハイパーメディアがほぼ同義とのおよその了解のもと、教育実践に携わる教師を研究同人に加え、1991年から「ニューメディア教材の開発事業」として新たに3ケ年間継続された。その結果、ハイパーメディア教材「ハイパー・サイエンスキューブU」「ハイパーメディア利用マニュアル」「理科『ハイパー気象』」「日本語教育『ハイパー買い物タウン』」が、引き続き開発され評価された。
また、文部省は、マルチメディアパソコン(MMPC)の学校への急速な導入に対応するため、教師等がマルチメディア教材を作成し授業で使うことを支援することを目的に、1992年度から、「マルチメディア教材開発養成講座」を全国都道府県及び制令指定都市の指導主事、社会教育主事を対象に実施した。さらに、マルチメディア教材の開発を教育関係者のみではなく一般の関心ある人々にもいっそう拡大するために、財団法人日本視聴覚教育協会に教員等を対象とした委嘱事業を開始した。
本小史は、1988年から1996年までの、主に文部省と関連の関係機関、団体等が行った、こうしたハイパーメディアあるいはマルチメディアの教育における開発と活用及び教員等研修の動向と現状をまとめている。
(1)新しい技術の進展
マイクロプロセッサー(MPU)は高速化、大容量化、極小化され、液晶技術、CDーROM(読み出し専用コンパクトディスク)技術が注目されるようになってきている。つまり、コンピュータ技術を支えるディジタル技術と通信技術、そして、情報の圧縮技術と表現形式および記述形式の標準化が進展して、こうした技術を効果的かつ効率的に活用するデータベース技術やインターフェイス技術なども、急速な発展を見せている。
新しい技術は、フィルムやビデオ、また、カメラやCD、LD(レーザーディスク)、スライドなど、既存のメディアを多様に統合させ、私たちに、豊かな表現手段を提供している。特にコンピュータと、これを中核として、強い「相互交渉性(インタラクティブ)」を特色の一つとするマルチメディアの出現は、家庭生活や職業生活に加え、学習の場にも大きな影響を与えはじめている。また、インターネットに代表される通信技術は、データベース技術と組み合わされて、地球的規模の通信を可能にしている。
マルチメディアパソコン(MMPC)やこれを中核とした情報通信システムへの期待がますます強くなってきていることがうかがえる。
(2)マルチメディアパソコン
マルチメディアパソコン(MMPC)は、従来のパソコン(PC)と比べて、標準で540MB(メガバイト)<当時>の容量をもつCDーROM装置が標準装備されていることと、AV機能が充実していることが特長である。1993年5月にレベル2.0が発表された「MMPC標準規格」によれば、@表示装置はVGA相当640×480ドット、A中央処理演算装置(CPU)
は486SX(25メガヘルツ)、メモリ4MB以上、ハードディスクは160MB以上、B倍速ドライブ(300キロバイト/s)相当のCDーROMドライブ内蔵、そして、C8ビットD/A、オーディオ機能、MIDI機能を保有している機種をMMPCと
称することになっている。一方、「ハイパーメディア」は、文部省が1992年3月に公表した「新しい教育メディアを活用した視聴覚教育の展開について(報告)」では、「コンピュータを中核としてコンパクトディスク(CD)、ビデオディスクなどを結びつけて文字、音声、映像などの多様な情報を一体的に取り扱える装置とそれに用いる視聴覚教材」である。
文部省がこうした定義を行った背景には、1988年度から実施した「ニューメディア教材の研究開発事業」の成果に基づくことが多い。特に、今日一般的に大容量のデータを蓄積するハードディスクが当時は高価であり、むしろ、学校や社会教育施設への普及の割合が当時急速に進んでいたビデオディスク、コンパクトディスクを活用して、既存の映像や音声をコンピュータで効果的に利用することが重要であるとの判断があったと思われる。つまり、マルチメディアは、一般的には、大容量の質の高いディジタルデータが、「非直線性」を特色とする、リンク(事項の関連づけ)機能で結合されたノードのネットワークに蓄積される。そのため、利用者はコンピュータを中核としたシステムと強い「相互交渉」を行い、ノードの中のこれらの情報を、「思いのままに(as
we may think) 」、「感性に応じて」検索、「拾い読み」し、また、自分のために「カスタマイズ」することが可能になる。つまり、マルチメディアは、学習者が主体になって、彼らの見方、考え方、いいかえれば、認知構造の変換、認知の枠組みの変換を、彼ら自身が思考を拡げながら行う教育活動の考え方を支援する。かつ、このメディアは、学習過程などのデータが蓄積できるため、教育をいっそう科学化し、視聴覚的な教育活動をさらに推進する可能性を有したメディアになると考えられている。
(1)「マルチメディアの教育利用―視聴覚教育におけるコンピュータ活用の手引― 〜小・中学校編〜」の出版
文部省は、生涯学習局学習情報課を中心に、1988年度から、新しいメディアに対応した施策を展開するための準備を進め、視聴覚教育研修カリキュラムの標準案をとりまとめるなどの事業を行った。そして、1992年度からマルチメディアの教育利用の可能性に着目した事業を本格的に実施し、1996年度をもって一応第1期ともいえる展開を終えている。本書は、その一つの成果として、マルチメディアの学校教育への活用事例を紹介し、マルチメディアの活用に当たって予想される質問への回答などを示すことによって、その利用促進とこれを利用した教育方法の改善に資することを目的に編集されている。第1部で、マルチメディアと視聴覚教育の歴史的経緯、マルチメディアの意味、特長、教育的期待などが記述され、特に、マルチメディアの活用は緒についたばかりで、今後学校等における一層積
極的な取り組みが期待されていることを指摘している。第2部では、こうした経緯や考え方で選択された小学校における実践事例を11例、中学校のそれを8例紹介している。それぞれの事例は、学年・教科別に見開き2ページで配列され、「活用のねらい」「活用の概要」「成果と今後の課題」「実践充実のためのアドバイス」という形式で構成している。そして、第3部が、「マルチメディアを活用した視聴覚教育の推進について ―Q&A―」である。ここでは、推進に当たって予想される質問とその答えを、「導入の方法と留意事項」(5つのQとA)、「校内研修と校内利用体制の推進について」「地域における利用体制について」「マルチメディアソフトウェア自作上の留意事項」を、それぞれ5、5、5、7つの質問と答で記述している。また、本書末には、「参考資料」として、1992年3月30日生涯学習審議会社
会教育分科審議会教育メディア部会が公表した「新しい教育メディアを活用した視聴覚教育の展開について(報告)」の概要と、文化庁が1993年9月7日に附属学校を置く各国立大学長、各都道府県知事等に通知した「学校等におけるコンピュータ・プログラムに係る著作権保護について(通知)」の2つを再録している。
(2)「マルチメディアの発展に対応した文教施策の推進について(審議のまとめ)」の発表
1994年6月に文部省大臣官房に設けられた「マルチメディアの発展に対応した文教施策の推進に関する懇談会」は、7月の第1回会合以来7回の会合を重ね、1995年1月に「マルチメディアの発展に対応した文教施策の推進について(審議のまとめ)」と題する報告書を発表している。この報告書は、幅広い関連分野の有識者の検討により、教育・学術・文化・スポーツにわたるマルチメディア関係の文教施策全般について、当面の基本的方向を、初めて総合的・体系的に提言したものとなっている。そして、重要な考え方を次のようにまとめている。つまり、@政府全体としての取組の中で、文教行政はユーザーの立場に立った行政の推進に努めること、Aマルチメディアを、人間形成を重視した教育や、学術・文化・スポーツの発展に活用すること、B高度情報通信社会に向けた情報活用能力の育成や人材の育成を充実すること、Cこのための施策の基本的方向である主要な柱は、(a)文
教分野におけるマルチメディア活用の基本的な考え方の確立、(b)物的条件整備、(c)活用の内容・方法、ソフトウェアの研究開発、(d)専門的な人材等の育成、(e)著作権施策の展開、(f)総合的な施策展開及び関係各方面との連携・協力であると指摘している。また、基礎的な条件整備に向けて、2つの区切りを設けてこれを進めるとともに、マルチメディア活用に関する調査研究開発、高度情報通信基盤の進展等の状況を見極めつつ、関連のソフトウェア、マルチメディア等の情報機器、情報通信ネットワーク、データベース等の整備充実を推進することとしている。ここで2つの区切りとは、第1に、21世
紀初頭を目標にし、@すべての国公立の小学校、中学校、高等学校、特殊教育諸学校及びすべての国立大学において、1人に1台のパソコンによる授業が可能な環境を整備すること、Aすべての国立の高等教育機関の学内LANを整備すること(ただし、国立大学の学内LANの整備は1994年度に完了している)、B私立学校や公立大学における情報教育装置の整備を積極的に支援すること、C公私立大学等における学内LANの整備を積極的に支援することである。そして、第2の区切りは、西暦2000年までを目途に、@すべての都道府県において、広域的な生涯学習の推進のための学習情報提供システムを整備すること、A各都道府県の地域
ごとに教育用ソフトウェアを試用できる拠点として、教育用ソフトウェアライブラリセンターを整備すること、B教育、文化等に関する総合的な情報提供のナショナル・センターとしての機能を国立教育会館に整備すること、Cすべての教員がコンピュータの活用に関する基礎的な知識・技術を修得すること、D社会教育指導者の資格取得に関し、情報化に関する基礎的な内容を学ぶことを可能にすること、E著作権の所在等の情報提供体制を整備することである。
なお、報告書では「マルチメディア」について、「一律の厳密な定義にはなじみにくい面がある」として、「基本的には、従来の諸メディアに比べ、@文字、数字、映像、音声等の多様な情報の一体的取扱いが可能であること、A一方的な情報伝達に留まらず、利用者による主体的な情報の収集、加工、検索等を可能にする機能を持つこと、B高度情報通信ネットワークによって相互に結ばれることにより、上記のような特性を生かした多様で大量の情報交換が可能になること、等の特色を持つ情報媒体・手段ということができる」としている。いいかえると、「マルチメディア」を定義するのではなく、「多面的な表現ができること、利用者からの働きかけが容易であること、大量の情報を迅速に処理できること、情報ニーズの個別化への対応が容易であることなど」マルチメディアの持つ一般的な特性を記述するにとどめている。「定義ができない」のは、「マルチメディア」が、これまで培われてきた技術や情報システムに対する思想等の蓄積・融合をもとに、半導体技術、通信技術、ソフトウェア技術の進歩を推進力として、コンピュータと高度情報通信ネットワークの結合を中心にして、今後いっそう
発展していくと考えられているためである。
コンピュータ技術やエレクトロニクス技術などの発達は、新しいメディアと新しいことばを生み出しつつあリ、現時点でも、「マルチメディア」は「ハイパーメディア」と同義に考えられ、ニューメディアの一つとして、インターネット等情報通信系メディアとともに、産業界と同様に、教育においてもますます期待されていくメディアである。
(3)「100校プロジェクト」の展開〜インターネットの教育利用の推進〜
文部省は、1994年度から、通産省や民間の団体と協力して、普及の著しい「インターネット」など通信ネットワークを利用した教育活動の具体的な施策を進めている。これは「100校プロジェクト」と呼ばれ、全国100ケ所程度の小・中・高校などで、ネットワークを活用した教育、学習や交流を実現しようとする事業である。具体的には、慶応大学の湘南藤沢キャンパスに、教育ソフトウェア開発・利用促進センターを設置し、公募による1,543校から102校を選定し、センターの利用端末という位置付けでコンピュータネットワーク接続回線を提供する計画であった。1994年
度に決定した102校の内訳は、小学校17校、中学校29校、高等学校39校、小・中学校1校、中学・高等学校8校、特殊教育諸学校6校、そして、その他私立各種学校としてアメリカン・スクールなど2校である。これらの学校は、教員の技術力・実績のある学校であるか、ネットワーク利用企画に積極的に立案・参加できる学校であるかによって、AグループまたはBグループのいずれかに分けられ、それぞれ31校、71校が選定された。こうして、選定された各学校は、1996年
度までの3ケ年間にわたり、財団法人コンピュータ教育開発センターを中心とした支援体制を受け、インターネットに専用回線で接続し、通信とコンピュータの融合および文字、音声、画像等の一体化された新たなメディアやシステムを積極的に活用することになった。その結果、それぞれの学校が、教育、学習や研究の場をいっそう高度化し、これまで蓄積されてきた貴重な物的および人的資産をより効果的に外に向けて発信し、かつ、地球的規模で国内外の関係機関の情報交換を相互に活発にする研究を推進した。
(4)その他
1996年度現在、文部省の計画では、衛星通信大学間ネットワーク構築事業、マルチメディア・ユニバーシティ・パイロット事業、衛星通信利用による公民館等の学習機能高度化推進事業、僻地学校高度情報通信設備活用方法研究開発事業、高度情報化に対応した日本語教育の在り方に関する調査研究など10の事業が実施されている。マルチメディアの教育利用が積極的に推進されていると考えてよい。
中野は、「いまだ開発途上にあるハイパーメディアによる学習のイメージ」を具体的に描き、新たな教育可能性を秘めた「緒についたばかり」のハイパーメディアに関する研究・開発と実践をいっそう推進するために、この領域全般にわたる今後の研究と開発の課題をまとめている。この中で、ハイパーメディアの意味と特長に
@「融合性」(ハイパーメディアは多様なメッセージを融合してディスプレィに提示し、通常のマルチメディアに比べてメッセージが、はるかに豊かであること)、
A「相互交渉性」(メディアと学習者との間で、学習プログラムと学習者のレベルとが相互に対応する相互的な側面と、学習者プログラムと学習者の学習のしかたの関係の適合的な側面の2面があること)、
B「無構造性」(ハイパーメディアに収納されている学習資料が無構造であり、その結果、ハイパーメディアによる学習では、単一の学習目標の達成という概念が希薄であり、個々の学習者の学習活動に意味を見い出すこと)、
C「拡張性」(利用者の必要に応じて、ハイパードキュメントに情報を付加したり、構成を変えることが容易なこと)
の4点をあげ、研究と実践を推進してきている。
最近では1989年告示の現行学習指導要領の理念である「新しい学力観」、1996年に公表された「第15期中央教育審議会審議のまとめ」で力説されている「生きる力」などの実現にあたって重要と考えられる状況学習の展開や構成主義的学習観の教育への導入と浸透にも支えられている。
人間の時間層は、印刷メディアを見る時のように平面的で単層ではなく、幾つもの時間層や空間層がいつも同居して、メディアと一方向性や順序にこだわることなく重なり合っているといわれている。例えば、メディアを通じて他人と仕事の打合せを行いながら、昨日の授業での出来事を思い描いたり、その日の夜の同僚との会合を検討したりといったようにである。つまり、人間は、幾つもの複層した時間層や空間層をその時々のメディアを意識することなく、いわばマルチプロセシングしているという。言い換えれば、もともと人間そのものは、映像、音声、データ、文字のマルチ情報を受信したり、他人に発信したりして行動している。つまり、1945年のBushの論文に逆上ることのできるハイパーテキストのアイディアである。
したがって、ディジタル技術の進展によって、すべての情報がディジタル化され、通信技術にも助けられて、メディア同士の垣根が無くなって融合すれば、こうした情報の流れやメディアの仕組みは根本的に変わる。そして、教育におけるこれまでの先駆的システムをいっそう教育実践の場に近づけることができる。つまり、ディジタルメディア環境では、学習の場においても、学習者が一つの情報を「好きな時に、好きなメディアで、好きなだけ」楽しめるようになる。送信側、つまり、教授者が決めた時間軸(時間帯、時間枠)やメディアのフォーマットに縛られることはなく、学習者は、情報をさまざまなメディアに変換してメッセージを解読することによって、情報が限りなくパーソナル化され、再構成され、管理されていく。その過程で、学習者は単なる情報の受けてから、真に「メッセージ」の送り手に変わっていく。
ハイパーメディアは、その発想の端緒を1945年のBushの論文に認めることができる。しかし、ハイパーメディアが教育の分野で実際にコンピュータで可能になったのはここ数年のことであり、ハイパーメディアにかかわる理論とハイパーメディアの実践的な効果を含めて、いっそうの研究と開発が求められている。そのため、今日では、教材の開発と評価、メディアの融合を可能にするインターフェイスの設計と開発やシステムの開発、情報の無構造性や非線型性を有効に活用したプログラムの設計と学習スタイルとの関係をはじめとし、ハイパーメディアによる学習効果も含めて、多数の研究と実践が報告されつつある。
中野は、ハイパーメディアの教育的意義として、「情報の蓄積と利用の便利さ」「発散的思考の道具」「個性化学習の実現」「教育過程解明への接近」があり、ハイパーメディアを使った学習には、「特性・処遇・課題交互作用(TTTI)
」よりも複雑な交互作用が予測され、「学習者の要因」「学習課題の要因」「学習材料の要因」「学習活動の要因」の4つの関係に関した理論的にも実証的にも多くの研究が必要であることを指摘し、ハイパーメディアの今後の研究・開発の課題として、「多様な学習内容のハイパーメディアの開発」「ハイパードキュメントの制作の研究」「ナビゲーションの研究」「活用方法の研究」「ハイパーメディアによる学習の評価」「ハイパーメディアのリテラシー」を提案している。つまり、ハイパーメディアは、「無構造」のため、「特性・処遇・課題交互作用(TTTI)
」に代表される重要な研究課題である適合的な「相互交渉」により、利用者自らが好みや興味・関心などのそれぞれの学習スタイルで情報を「拡張」したり、「カスタマイズ」に代表されるような情報の「組織化」を行ったりして学習を進める「個性化学習」を実現させ、問題解決や創造思考の基礎となる「発散的思考」をうながす。
これらは、授業をいっそう「高度化」する重要な観点となり、ハイパーメディアの特長を教育研究に利用する必要性を示唆し、マルチメディア教材の開発と活用が、「テレビと電話と高級オーディオ」として実現しているマルチメディア・パソコン(MMPC)の学校への導入とともに一気に加速している現状である。
ハイパーメディアの開発には、大きく2つの考え方がある。一つは、ハイパーメディアの発想の原点と特長に重点を置いて「無構造」な教材あるいはシステムとして組み立てる考え方、もう一つは、これまでのCAIに映像と音声を追加する考え方である。CAIは教師あるいは開発者が達成目標を設定し、学習者は文字情報、音声情報、画像情報などを活用して、この目標に到達することに力点を置く。しかし、ハイパーメディアの特長と教育的意義を考慮すると、むしろ前者の考え方に立脚する教材やシステムが求められていると考えてよい。そこでは、目標を学習者が決めることになり、情報の海の中を迷いながらも、自分で意志決定しながら探索的に情報を取捨選択し、自ら知識を構成していく学習である。
特に、前者の典型的な事例には、1988年度に文部省の財政的支援で開始され、1989年度との2ケ年で一応の完成をみたハイパーメディア教材「文京文学館」、同じく1990年度の「ハイパー・サンエンスキューブ」がある。そして、これらの先進的開発と評価に基づき、1991年度には前者を「総合化」の観点から拡張した「ハイパー・サイエンスキューブU」、1992年度は「いのししけがじ『安藤昌益』」、1993年度は「ハイパーメディア利用マニュアル」「理科『ハイパー気象』」「日本語教育『買い物ハイパータウン』」がそれぞれ開発され、ハイパーメディアの理論化、教材の評価、開発手法の定式化、利用などの多くの側面で基礎的な成果を蓄積していった。一方、1990年には「ハイパーメディア『人と森林』」がNHKによってハイビジョン映像を活用する意図で作成され、「ハイパーメディア『交通安全教育』」が大阪大学のグループによって開発され評価されている。そして、1991年は、マルチメディアやハイパーメディアに関する教材やシステムの開発が一段と急進展し、平山による「ハイパーメディア・システム“ISWALKER”」、加藤等による「日本史『ハイパー辞
典』」、杉森等による「児童図書検索支援ソフトウェア」、矢口等による「CAI英会話」など、多数開発されている。1991年は、教育におけるマルチメディアやハイパーメディアが積極的に研究開発され始めた年であったと言えよう。
1992年には、ソフトウェア工学研究財団が「マリコ伯母さんの秘密」を開発し、岡崎等の「小5社会科『自動車工業』」、1993年には佐伯等による「数学解法電子辞典」、南部等による「マルチメディア教材『雪国』」、山内等による構成主義的カリキュラムの一環としての「中学校理科天文分野マルチメディア教材」、吉江等による「高校物理『原子と原子核』」などが開発されてきている。そして、1994年以降にはデータベースと通信の急速な進展によるインターネットを活用するための教材やシステムが開発されてきている。
しかし、「マルチメディア」を特徴づける「双方向性」あるいは「相互交渉性」(インタラクティブ)、情報の海の「迷子」、「ナビゲーション」など教育課題として重要な基礎的な研究と実践的活用や評価研究などは未だ不十分であると考えられる。
表1、表2、表3はそれぞれ、日本教育工学会の1991年から1996年までの研究発表全国大会でのマルチメディア等に関連する研究発表の件数及び大会の全発表件数とその種別及び内容である。
特に、1991年と1992年には教育メディア、授業研究、視聴覚教育、教育方法、情報教育、CAIなどのセッションにマルチメディアやハイパーメディアの研究がみられる。そして、1993年に初めて、シンポジウムに「マルチメディアと教育工学」、課題研究に「マルチメディアとCAI」が設けられ、全発表件数に対するマルチメディア等の発表が10%を超えている。また、1994年には、「マルチメディアの教育利用」のセッションが4つ設けられたり、1995年には「ネットワークと学習環境」のセッションが、1996年には「情報コミュニケーションとテクノロジー」などのセッションがそれぞれ設定され、マルチメディアと通信等の進展をうかがうことができる。なお、1991年、1994年は、それぞれ「教育工学関連学協会連合大会」とされ、日本教育工学会、CAI学会、日本視聴覚・放送教育学会、国立大学教育実践研究関連センター協議会、電子情報通信学会教育工学研究専門委員会が合同主催しているため、全体の発表件数は他の大会と異なり、多くなっている。
表1 マルチメディア等に関連する研究発表の件数及び大会の全発表件数
表題に含まれる文字列 |
1991年 |
1992年 |
1993年 |
1994年 |
1995年 |
1996年 |
マルチメディア |
9 |
5 |
15 |
49 |
30 |
13 |
ハイパーメディア |
12 |
12 |
13 |
15 |
7 |
5 |
WWW |
1 |
6 |
3 | |||
計 |
21 |
17 |
28 |
65 |
43 |
21 |
(全発表件数) |
(325) |
(233) |
(229) |
(471) |
(297) |
(310) |
表2 マルチメディア等研究発表の種別
研究発表の種別 |
1991年 |
1992年 |
1993年 |
1994年 |
1995年 |
1996年 |
調査 |
1 |
|||||
開発 |
8 |
9 |
14 |
45 |
11 |
9 |
開発と評価 |
3 |
3 |
9 |
6 |
4 |
|
利用と評価 |
4 |
4 |
1 |
4 |
6 |
3 |
評価 |
1 |
2 |
8 |
4 | ||
理論 |
3 |
3 |
3 |
8 |
3 | |
実践 |
3 |
1 |
5 |
5 |
2 | |
計 |
21 |
17 |
28 |
65 |
43 |
21 |
表3 マルチメディア等研究発表の内容
研究発表の内容 |
1991年 |
1992年 |
1993年 |
1994年 |
1995年 |
1996年 |
教材等 |
14 |
11 |
16 |
26 |
9 |
7 |
システム |
7 |
6 |
12 |
39 |
34 |
14 |
計 |
21 |
17 |
28 |
65 |
43 |
21 |
マルチメディアの教材開発は、その内容である「コンテンツ」あるいは一般的には「ハイパードキュメント」の構成の課題とともに未だ十分に確立されたものではない。しかし、高性能、低価格で多種多様な周辺機器の出現と普及、及び「ドラッグ・アンド・ドロップ」に代表されるインターフェイスの発展に支えられたソフトウェアが普及してくるにつれ、「新しい学力観」などを追求する教育で「マルチメディア・パソコン」を活用するため、特に教員など教育関係者がマルチメディアを開発する気運が高まりつつある。その結果、システム開発よりもマルチメディア教材を開発する手続きを定式化する研究が急務であり、文部省や財団法人日本視聴覚教育協会などが行っている講座やワークショップにおける開発の手順として、その成果が現れている。
マルチメディア教材の開発の手続きは、マルチメディア、つまり、「ハイパー」であるが故に、決して一義的に決定され得ず、また、系統的に進行しない。したがって、後に示す段階のうち、あるものはその前の段階が終了しなければ進めないということがある反面、同時に起こる場合もあると考えてよい。言い換えると、強い「相互交渉性」を特色の一つとするマルチメディア教材では、「アイディア」等に飛躍があっても、それが余りにも極端でない限り、開発に当たって収集され整理され、デジタル化によってデータベース化される映像、文字、グラフィックス、音声、関連資料などの多様な形態と種類の情報やメッセージが、予想される一人ひとりの学習者の創造的、探索的学習をいっそう推進させ「発散的な思考」や「創造的な思考」のための積極的な学習材となると考える。そのためには、開発にあたって、少しでも関連する、つまり、学習者が「ハイパーする」と考えられる、できるだけ多様な形態と種類の情報やメッセージを収集し、一時的にせよ「思いのままに」関連付けておくことが、重要である。
開発の段階を簡略にまとめれば、
1) 開発者チームを作る、 2) 最初の着想を、常に考えつつ熟成させ、関連する優秀な映像などの資料を収集し、これらを参考に着想を発展させ、拡張させる、 3) 文字情報、映像情報、音声情報などの関連資料を収集し整理する、 4) 設計仕様を作成する、 5) マルチメディア教材作成支援ソフトウェア(オーサリング・ソフト)や、ワープロ、スキャナー、デジタル・スチルカメラ、デジタル・ビデオカメラ、マイクロフォンなど多種多様な身近な周辺機器を使って関連資料をデジタル化したり、LD、CDなどから、コンピュータに入力する。場合によっては、いわゆるコンピュータ・プログラムを作成する、 6)技術資料と利用者ガイドを含めて、ソフトウェアの利用説明書を作成する、 7) 教材を学習者に試行するなど、検証と評価を行う、 8) 学習や利用のいっそうの促進に必要と考えられる資料の収集と、リンク、ボタンやインターフェイスなどの改善を検討し、設計仕様を改良する、 9) ソフトウェア・パッケージにまとめ流通させる、そして、今後の動向を見越して、 10) 教師の研修を行うこと、 |
である。なお、もちろん、マルチメディア教材の開発に先立って、利用可能なハードウェアとソフトウェアの機能と操作方法などに習熟しておくこと、また、普及などのために「マニュアルの作成方法」にも熟知しておくことは必要であろう。
これらのうち特に@とAは何よりも重要である。つまり、開発者自身が「ハイパーする」ことである。そのためには、ひらめきを大事にしながら理屈を排除し、次のような問い掛けをプロジェクトの構成員が常に行い、慎重に解答するように心掛けるべきであろう。つまり、@誰のため?
A何のため? B何をもって特色とするか? C関連資料は十分に収集し整理しているか?
Dいっそう効果的な他の方法はないか?などなどである。こうすれば、教材の開発過程の基礎的で明確な着想と、大雑把ではあるが開発者チームの各構成員で共有できる抽象的な一般的教育目標つまり、マルチメディア教材のタイトル、そして、自分が含めたいと考える一連の情報を完全にもち、膨らませていくことができると思われる。これはあたかも、マルチメディア教材が作成された後で、学習者が自分流に学習を展開していく、つまり、学習者自身が「ハイパーする」学習に酷似しているということである。
なお、マルチメディア教材を比較的容易に開発できるソフトウェア「オーサリング・ソフト」あるいは「オーサリング・ツール」も開発されてきている。これらには、『Authorware』(MacroMedia社)、『えほんらいたーPro』(富士通社)、『スーパーYuki』(NEC社)、『メディアルーム』(アスキー社)、『Q・Media』(Q・media社)な
どがある。これらは、1976年に開発されたApple社による「ハイパー・カード」に端を発する「オブジェクト指向(object-oriented)」「ボタン付ノード-リンク様式(Node-Link
fashion with Buttons)」「カスタマイザブル(customisable)」の特色を合わせ持つソフトウェアである。そして、こうしたソフトウェアは、MMPCとして今日市場にあるパーソナルコンピュータに標準で装備されているビデオボードや音声ボードと併用することでOS(基本ソフトウェア)の拡張機能として音声付きでディジタル動画像を取り込み再生し、あらゆる形態や種類の情報や機器を一元的に統括し、学習者が彼らのアイディアで参照項目や関連情報などの情報の分岐先を一瞬のうちに選択し移動し、思考を拡げ膨らませることができる。必要であれば手持ちの情報を既存のものに割り込ませ、あたかも一体のものとして扱うこともできるようなしくみである。
1992年3月文部省は「視聴覚教育メディア研修の改善充実について」通知し、1973年以来活用されてきた「視聴覚教育研修カリキュラムの標準」を「視聴覚教育メディア研修カリキュラムの標準」と改め公表した。従来の初級・中級・上級という段階を追った研修を「研修カリキュラムT」「研修カリキュラムU」としたことなど特徴がいくつかあるが、中でも、前者の「総論」で「4
統合型教育メディアの基礎」「5 学習情報システムの基礎」などを設け、教育メディアを有機的に組み合わせて活用することが盛り込まれていることが特筆に値しよう。その後、同年「企画編」、1993年度には「指導編」を公表し、カリキュラムのいっそうの充実と発展にあたっている。特に、1992年度から文部省は「マルチメディア教材開発養成講座」を開催すると同時に、財団法人日本視聴覚教育協会が主催する「マルチメディア教材開発ワークショップ」に支援を行ってきている。前者は、全国都道府県及び制令指定都市の指導主事及び社会教育主事を主な対象として4日間、後者は教育関係者のみではなく広く一般にマルチメディアの開発と活用に関心を有する人々を対象にコンピュータの機種別に参加者を募集する形式を特徴に3日間で実施している。表5と表6は、それぞれ、文部省が1997年1月に実施した「1996年度マルチメディア教材開発養成講座」、財団法人日本視聴覚教育協会が1996年7月に実施した「1996年度マルチメディア教材研究開発ワークショップ」のおよその研修事項と日程である。
表5 「1996年度マルチメディア教材開発養成講座」研修事項及び日程
研修事項
@教育におけるマルチメディアの活用
Aマルチメディアと著作権
Bマルチメディア教材の作成
Cホームページの作成
日程(全4日間、24時間)
第一日目
(午後)
オリエンテーション
@講義「教育におけるマルチメディアの活用」
A講義「マルチメディアと著作権」
第二日目
(午前) B講義と演示「マルチメディア教材の作成」
(午後) 実習「マルチメディア教材の作成」
第三日目
(午前) 実習の継続
(午後) 演示と協議
第四日目
(午前) C講義及び実習「ホームページの作成」
(午後) 演示と協議
表6 「1996年度マルチメディア教材研究開発ワークショップ」研修事項及び日程
研修事項
@マルチメディアの特色と教育利用
Aマルチメディア作成用ソフトウェアと周辺機器の現状
Bマルチメディア教材の自作
Cマルチメディア教育利用の実際
日程(全3日間、21時間)
第一日目
(午前)
オリエンテーション
@講義「マルチメディアの教育利用」
A講義「マルチメディア作成用ソフトウェアと周辺機器の現状」
(午後)
B実習「マルチメディア教材の自作」
ソフトウェア演示、構想案・シナリオ作成
第二日目
(午前) 実習の継続
(午後) 実習の継続
第三日目
(午前)
演示と協議
C事例紹介「マルチメディア教育利用の実際」
教育利用の実際と課題
表5と、1996年1月に実施された文部省主催「1995年度マルチメディア教材開発養成講座」の研修事項等を比べると、後者では(1)〔講義〕視聴覚教育におけるマルチメディア活用の意義、(2)〔講義〕マルチメディアと著作権、(3)〔講義〕マルチメディアの教育活動への応用、(4)〔講義〕マルチメディアの現状と課題、(5)〔講義・実習・協議〕マルチメディア教材の作成と評価、(6)〔講義〕マルチメディア教材開発の実際、(7)その他の7テーマ、総時間数にして23.5時間であった。しかし、前者の1996年度講座では、表5に示されたように、(3)(4)が削除され、新たに活用著しい「ホームページの作成」を加えた研修講座として実施されたことが分かる。ただし、(4)が削除されたものの、1996年度の研修事項等を決定するに当たって、B講義と演示「マルチメディア教材の作成」の中で、教育におけるマルチメディアにも、他の分野での考え方と同様に、パッケージ系と通信系があることが配慮されるとともに、優れたマルチメディアあるいはハイパーメディア作品や教材として、「ベートーベン交響曲第9番」「The
First Emperor of China」「文京文学館」「ハイパー・サイエンスキューブU」などを鑑賞したり、その優れている点について、構想、ドキュメント構造、画面構成、リンクの原則、インターフェイスの原則、ナビゲーションの方法などのの諸点について協議する時間がもたれていた。なお、マルチメディア教材の開発と評価は、「マルチメディア」をどのように定義するかに大きく依存する。両者の研修では、「マルチメディア」と「ハイパーメディア」をほぼ同義、つまり、マルチメディアにインタラクティブ性をいっそう強く与えたメディアとしてハイパーメディアを位置づけている。そのため、「マルチメディアは諸事項、事象間の関連性の学習とその慣習化」「マルチメディアは強い相互交渉性が大きな特徴であること」「マルチメディアは利用者には無構造であること」「マルチメディアには探索を促進させる有意味なリンクと内容が用意されていること」などが基本的な考え方になっている。
こうした方法と内容による実習等の結果、文部省による研修では、「れれべ茨城『温泉編』」「マルチメディア研修の概要」「採寸君」「茨城の詩人『野口雨情』」「茨城はつらいよ」「あなたのからだは大丈夫か〜あと何年生きられますか〜」「各府県紹介」「地震のメカニズム」「地震」の9作品が、MMPCやスキャナーなどのハ−ドウェアと、オーサリングツール、画像編集用ソフトウェアなどを使って開発された。また、「ワークショップ」においても、機種別の優れたソフトウェアが開発されてきている。
開発されたマルチメディア教材から、受講者は、学校教育の内容では、マルチメディアやハイパーメディアの開発と評価で重要と指摘している「関連性に重点を置き、学習者の自由な探索と興味・関心に応じた学習」観に基づく実践は困難であり、したがって、マルチメディアあるいはハイパーメディアを使って実現できるのは、「紹介」に類する内容であると、多くの受講者に認識されていることが判断される。しかし、一方、これを「総合」への足掛りにすることは、受講者に「関連性」の重要性を認識させることから十分可能と判断されるため、この点をいっそう指導することによって、今日的課題の「総合化」へのカリキュラム開発が展開される可能性があると考えられる。なお、特に文部省による1996年度の受講者総数は44名であり、うち32名が学校教育関係者である。表7は、開発に当たって研修者が最も困難を感じる構想段階のこうした実状を考慮して、研修講座とワークショップの両者で活用している資料である。
表7 マルチメディア教材開発の構想段階の定式化への手掛かり
1.これまでに最も感動した、または、最も印象に残っているフィルム(映像)の場面を、1枚の図で示してください。 図で表現できないときは、文で示してください。 なお、感動した映像などないときは、感動した書物は何でしょうか。そのタイトルと、最も印象に残っている場面を図か文で示してください。 2.感動した映像、書物など無いときは、 今最も不満、困ったななどと思うこと、あるいは、解決したいと思うことなど、思いつくことは何でしょう。それは、どうして欲しいと思いますか、図か文で書いてください。 3.なぜ感動したか、なぜ印象に残っているか、または、なぜ不満なのか、など、一言で表現してみてください。 例えば、親子の触れ合い、交友関係、人間、平衡、社会生活、・・・・・ これらが、おぼろげで抽象的な、マルチメディア教材のタイトルの候補となるでしょう。 4.先の映像、文などから、連想される他の映像、文などを、どんどん、なぜ?、他にはないか?、なぜ?、・・・・、という具合に、列記したり表現してみましょう。 例えば、動物社会、個人主義、つながり、・・・・・ これらが、資料(関連)情報の候補となるでしょう。 |
文部省が主催した「講座」、文部省の委嘱による「ワークショップ」等の参加者が開発した教材の内容等によれば、日程としては、正味2日あるいは3日あればマルチメディア教材の開発と理解には十分であること、「総合」あるいは「思考の拡がり」ということについては、理解されているようではあるが、実際には、「収束的な」日常の授業から、また、「自らを語る」ことのない思考から、抜け切れていないことなどが、改めて、研修カリキュラムの開発と教材の開発におけるもっとも困難な点と推定できる。したがって、開発に先立って、「総合化」や「思考の拡がり」あるいは、「自分の言葉で、自分の経験を語る」ことを具体的に示す研修計画と具体的対策が必要である。つまり、受講者自身が、一人ひとりの経験を豊かに「内言」し、「思考」し関連づけ「判断」し「表現」する訓練を行う重要性を、マルチメディアやハイパーメディアの特長と教育的意義とともに、十分に納得できるように指摘することが重要であろう。
なお、1994年度からは、文部省が実施する「視聴覚教育指導者講座」のコンピュータ等の内容は、それまでの「コンピュータ研修の企画」「ソフトウェアの開発」から、「マルチメディア研修の企画」「マルチメディア教材の開発」と変更され、いっそうマルチメディアを念頭においた研修へと移行している。
教育におけるマルチメディアあるいはハイパーメディアは、コンピュータを中心的なメディアとして、@これまで視聴覚教育や放送教育の領域で収集し蓄積されてきた映像、音声等の教材を、改めて新たな形式で利用できるようになることに加え、A普及の著しいVTR
やデジタルカメラ、あるいは、LDやCD-ROMそしてCD等パッケージ系メディアとインターネット等通信系メディアやシステムなどを活用して収集等される新たな映像や音声と、コンピュータに蓄えられた音声、画像、文字などの新旧のさまざまな情報を、学習者が「自ら」の「興味・関心」に応じて「思いのままに」探索し、「判断し」関連づけ再構成し「表現」するなど、教育研究や教育実践のいくつかの課題を解決する新たな視聴覚教育機器として活用することができる相互交渉性(インタラクティブ)の強い学習システムであることなどが評価され期待されている。また、一方では、いわゆるオーサリング・ツールやプレゼンテーション用ソフトウェアは、マルチメディア教材を作成するに当たって、機能的にも、操作的にも、また、開発手順に見られる「設計思想」にも工夫がみられ、理解
しやすくなっている。
マルチメディアを使った学習の過程は、一人ひとりの学習者によって異なり、これを支援することがマルチメディアの特長の一つである。しかし、人間の情報処理のしかたに関する課題が未解決のため、学習に対するマルチメディア固有の質的な構造つまりリンクの構築が、理科や文学等の領域を問わず、未だ十分に確立されていない現状がある。したがって、こうした教材を研修などを通じて設計し開発し実践的なデータを収集、分析などすることによって、真に一人ひとりの学習者の知識等の構造を明らかにし、このことが、マルチメディアに関する技術と教育利用におけるマルチメディアの意味と活用をいっそう適切なものにすると思われる。
社会の構造変革が進んでいる。学校教育等のシステムも、1995年4月に発足した第15期の中央教育審議会での「学校完全5日制」「マルチメディアの教育利用」などに関する審議等の結果にもよるが、「生きる力」の育成を中心課題に、大きく変革することが予測されている。しかし、学校においては、各教科・領域等の目標を効果的に達成し、さらには新しい時代に生き抜く児童・生徒の「新しい学力観」を支え、健全な発達を願って、マルチメディアが開発され活用されなければならないと思われる。
(1)中野照海「ハイパーメディアの研究と開発の課題−新たな学習メディアの教育の可能性を拓く−」『視聴覚教育』45、6、34-38、1991.
(2)(財)日本視聴覚教育協会編「ハイパーメディア『ハイパー・サイエンスキューブII』」(財)日本視聴覚教育協会、1992.
(3)(財)日本視聴覚教育協会編「マルチメディアの自作と活用−ハイパーメディア教材の開発研究の記録−」(財)日本視聴覚教育協会、1994.
(4)文部省編「マルチメディアの教育利用ー視聴覚教育におけるコンピュータ活用の手引ー 〜小・中学校編〜」第一法規出版、1994.
(5)(財)日本視聴覚教育協会編「マルチメディア教材データベースの開発と活用の自作と活用−地域映像情報のネットワーク化をめざして−」(財)日本視聴覚教育協会、1995.
(6)(財)日本視聴覚教育協会編「平成8年度 マルチメディア教材研究開発ワークショップ」(財)日本視聴覚教育協会、1996.
(7)文部省編「平成8年度 視聴覚教育指導者講座」文部省、1996.
(8)文部省編「平成8年度 マルチメディア教材開発養成講座」文部省、1997.
(著者注:本稿は、1997年に「財団法人日本視聴覚教育協会」から刊行された標記の冊子をもとに、その後の動向や関連情報などを加筆・修正等したものである。01/24/1999)
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