文字盤を知っていますか?
2013-05-20 20:57 | by 村上 |
『わたしは目で話します』(たかおまゆみ著 偕成社 2013)
副題に、ALSのことそして言葉の力”とあります。ALSとは、全身の筋肉を動かしている神経細胞の数が少しずつ減って行き、体が動かなくなっていく病気です。通常この病気はゆっくり進行しますが、著者のたかおさんの場合は、2009年10月、ALSと診断された後、病気は猛スピードで進行しました。2010年4月には話すための筋肉が萎縮し音声言語を失い、筆談やパソコンでの会話になります。その2ヶ月後には、メモも書けなくなりました。たった8ヶ月の間に、話し言葉、書き言葉、見ぶり、表情の順でたかおさんは伝える手段を失っていったのです。この病気は呼吸も自力ではできなくなるのですが、感覚はむしろ鋭敏になり、考える力も衰えません。
周囲で起こっていることはわかるのに、自分からはなにひとつ発信できない…まるで体のなかに精神が閉じ込められた孤独と絶望。たかおさんにとって言葉は世界とつながるもっとも大切なものだったのです。けれど、たかおさんは「文字盤」に出会うことで、息を吹き返しました。
本の執筆を依頼された時に、闘病記は書きたいと思わなかったたかおさんですが、「文字盤の世界を子どもから大人まで読めるように紹介してください。コミュニケーションの本当の意味がわかる本をつくりたいのです!」という編集者さんに言われて書くことを決意したとあとがきにあります。
1年生のオリエンテーション時に、この本を紹介し、実際に文字盤を見せました。この本がすべて文字盤によって書かれたということは、本当に驚くべきことでした。そして、たかおさんに本の執筆を決意させた編集者さんの言葉も心に残りました。
その編集者さんが、なんと、6月初めに本校に来てくださることになりました。図書委員会がメインのミニ講演会ですが、この本がどのようにして生まれたのか、ぜひ伺ってみたいと思っています。
(東京学芸大学附属世田谷中学校司書 村上恭子)