初めての個人貸出し

2013-04-20 14:16 | by 渡辺(主担) |

 東京学芸大学附属特別支援学校には小学部、中学部、高等部に、小さいスペースながらそれぞれの図書のコーナーがあります。この3年余の時間で小学部は学習室、中学部はランチルーム、高等部は生徒会室の一角にミニ図書館ができました。季節の展示をそれぞれのミニ図書館にして、本の顔を変えて、手に取ってもらう工夫をしてきています。

  月1日ほどの勤務ですが、司書の私の居場所は小学部の学習室です。小学生が廊下を通って移動するときには声をかけてくれたり、休み時間やお昼休みに顔を見せてくれます。小学部での貸し出しはクラス単位で担任の先生が借りていきます。それから保護者がおうち貸し出しを熱心に利用しています。司書不在が多い図書館なので、貸出方法はブラウン方式です。
今回は小学部の子どもと絵本の出会いについて書きたいと思います。

  みっちゃん(仮名)は小学5年生。私が小学部でのおはなし会で初めて出会ったときは2年生の3学期でした。だんだんお姉さんらしくなっていくのが、月1回の出会いでもよくわかります。お母さんも小学部のミニ図書館からの保護者貸し出しをよく利用していて、ご家庭でも読み聞かせをたっぷりしてもらえていることもわかります。

    中休みに顔をみせたみっちゃん。  絵本書架からとりだしたのが・・・・・
    『だめよ、デイビッド!(デイビッド・シャノン作、小川仁央訳 評論社 2001年)
 司書の私にこの本をさしだして、並んで椅子にすわりました。

丸顔のとんがり歯(だいぶぬけているから、永久歯がこれからという年頃ですね)のいたずらっ子が主人公。金魚鉢や戸棚のクッキーに手をだしては、お母さんから「だめよ」と叱られる。どろんこで家に入ったり、はだかで外に飛び出したり、そのたびにお母さんから「だめっていってるでしょ!」と叱られる。みっちゃん、ニコニコしながら、次は何をするのかなという顔。だんだんエスカレートするデイビットのいたずらに、私の顔を見て、う~ん、こまったねぇという表情をします。最後に大失敗をして、部屋のかたすみにちぢこまったデイビットをお母さんが「こっちにおいで」「だいすきよ」と終わるところで、私たちも顔を見合わせて笑顔になります。最後のページ、お母さんにだきしめてもらってるデイビットを見ながら、私もみっちゃんの肩をだいて、「おしまい」。もう何度か読み聞かせをしたお気に入りの絵本です。

 いつもここで私が「借りていく?」と尋ねると、「ううん」と首をふって、休み時間が終わって帰っていきます。今日も私が「借りていく?」と聞くと、「うん」。

 小学部の児童の初めての個人貸し出しです! みっちゃんに絵本の裏表紙の見開きにあるポケットからカードをとりだしてもらい、「何組ですか?」ときいて、クラスの貸出ボックスにカードを入れてもらう。手作りのこのボックスに小学生が初めて借りる本のカードを入れた!貸し出す私の方が嬉しくて、ちょっとドキドキです。

 そこに先生が「休み時間はおわりよ」と迎えに来てくれて、「ちゃんと借りられた?」。先生が「本を1冊借りてきましょう」と声かけをしてくれて、みっちゃんは初めて自分で本を借りたことを、私は理解しました。その日の放課後、みっちゃんは「だめよ、デイビット」をひとりで返しにきました。私が貸出ボックスから取り出したカードを、みっちゃんが絵本のポケットに入れました。絵本を私に手渡して帰っていくみっちゃんを「さよなら」と送り出しながら、小学部のミニ図書館で、児童が借りること、返すことを自分でできた日をやっと経験したと思いました。私が不在の日に、担任の先生と一緒に借りたりしている積み重ねがあったからこそ、ひとりでの貸出、返却ができたのだと思います。
 
  月1回の司書です。蝸牛のごとき歩みですが、学校にある図書館が、特別支援学校の子どもたちに楽しい場として、そして本との出会いの場として利用されていってほしいと願っています。中学部や高等部のミニ図書館についてもいつか報告ができたらと思います。
(東京学芸大学附属特別支援学校:図書整備担当 司書 田沼恵美子)

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