現代詩をさがしたいけれど・・・

2025-02-12 10:41 | by 中村 |

 音楽の先生から、『この星の上で』という組曲の楽譜のコピーをいただきました。谷川俊太郎さんの詩に音楽を付けて合唱曲にしたもので、この中の5番目の曲「今年」という詩が載っている谷川さんの詩集を入手したいが、調べてもなかなか見つけられないとのこと。楽譜によると、どうやら「今年」は『祈らなくていいのか』という詩集の中の一篇らしいのですが、調べ始めると確かにうまく情報が出てこない・・・
 今回のレファレンス記事は、恥ずかしながら「終点に辿り着けたけれどうまく歩けなかった道のり」の様子をお伝えします。ちょっと長くなりますし、この過程を見て「ええい何をしている、もっとうまいやり方があるではないか」とお思いになる方もいらっしゃるかと思いますが、なにとぞご容赦ください。


 谷川さんの初期の作品を収めた『祈らなくていいのか』は未刊詩集で、単独では出版されていません。NDLサーチ(国立国会図書館)CiNii(国立情報学研究所)で調べると、1965年に出版された『谷川俊太郎詩集』(思潮社)をはじめ、何冊かの詩集に『祈らなくていいのか』から詩が掲載されていることが分かります。しかし、『祈らなくていいのか』の全篇が見られるのか、一部だとしたらどの詩が載っているのか、そもそも全部で何篇の詩集だったのか・・・詳細な目次がないので分かりません。

 実は種明かしすると、この時点で再度「谷川俊太郎」「祈らなくていいのか」「今年」などのキーワードでインターネット検索をしたところ、とある個人のブログに《この詩が好き》というような内容で、「今年」の詩が全文と、さらにそれが掲載されているであろう詩集の表紙の写真が出てきたのです。表紙に書かれた詩集の名前は『はるかな国からやってきた』―――この詩集に「今年」が収録されていそうです。目次を調べたかったのですが、やはり詳細は出てこず、実際に手に取って内容を確かめることにしました。
 ところが、折しも昨年11月に谷川さんが亡くなられたこともあり、各図書館では追悼特集を組んだところも多いようで、この詩集を借りられる図書館がないのです。予約もいっぱい。ううむ、これはもう、失敗覚悟で本校図書館に買うしかない。
 ・・・ということで、急ぎ注文をして届いた現物を確認し、無事「今年」が収録されていることが分かったのです。

 さて、結論は出て、音楽の先生にも詩集を手渡すことができたのですが、このままではモヤモヤが残ります。何かもっといい手立てはなかったか?現代詩を探すのにもっと順当なやり方はないのだろうか?自分の中でスッキリさせるために、冬休みを使ってもう少し調べてみることにしました。

 まずは現代詩を調べるときに参考になりそうなレファレンスブックに当たってみました。実際に足を運べた図書館で見たのは『作品名から引ける日本文学詩歌・俳人個人全集案内』(日外アソシエーツ,1992年)、『現代日本文学綜覧』シリーズ(日外アソシエーツ,1982年~)、『日本名詩集成』(学燈社,1996年)など。結論から言うと、期待した成果は得られませんでした。現代詩を作品名から検索することの難しさに直面します。
 図書資料だけでなく、オンラインデータベースも調べましたが、実際に自分で使えるものの中からは有用な情報を見つけられませんでした。

 結局その後、書店で谷川さんの詩集を何冊も漁り、目次を実際に確かめながら確認していって、他にも「今年」の収録された著作を見つけることができましたが、モヤモヤを消すことはできませんでした。
 
 さて、このような感じでうまくいかなかった私の検索ですが、インターネットで情報を集める中で、興味深いサイトに出会いました。これも個人のブログなのですが、「『朝のリレー』について調べる」と題した記事が2週間分ほど続いていて、「朝のリレー」初出や背景について調べていったことがまとめられています。私が悩んでいた『祈らなくていいのか』についても言及しており、

 >*祈らなくていいのか-未刊詩集 は河出の『日本の詩人17 谷川俊太郎詩集』に収録されたという既にネットでわかっている事実しか書いていない。この詩集は「祈らなくていいのか」そのものなのか?既にその詩集に入った以上、未刊詩集じゃないんじゃないか、等さっぱりわからない。 (Rakuten blog『オキナワの中年』大野隆之,2012.4.12より抜粋)

となっていて、思わず「そうそう、ホントにさっぱりわからない」と共感しました。どうやらこのブログは沖縄の大学教授の方が書いていらっしゃるようで、その後この「朝のリレー」についての考察を論文にまとめたものを、沖縄国際大学学術成果リポジトリから読むことができました。(『谷川俊太郎「朝のリレー」試論—成立状況からのとらえ直し—』大野隆之著,2019年) ご自身で実際に1968年出版の『谷川俊太郎詩集・日本の詩人17』(河出書房)を入手し、「朝のリレー」について一つずつ研究を積み重ねてゆく様子がとても興味深く、また非常に参考になりました。この河出書房版の詩集の構成は、既刊の詩集から様々に自選した数十篇の詩の後に、『祈らなくていいのか』から28篇が収められているそうで、どうやら教科書でも有名な「朝のリレー」初出は、出版されなかった詩集『祈らなくていいのか』の中の一篇だったようです。『祈らなくていいのか』に収録された詩はその後、様々な詩集に部分的に収められましたが、そのため当初は意図をもって配列されたはずの順番も意味を成さなくなり、一つひとつの詩の持つ意味や背景も埋もれていってしまったものがあるのかもしれません。


 
 謎の詩集『祈らなくていいのか』に相当悩まされた年末年始でしたが、結局すっきりした辿り方はできずに答えだけを手に入れてしまいました。しかしその寄り道で出会えた論文や調べる楽しさに、やっぱりレファレンスは面白い、と改めて思います。一歩一歩勉強しながら、これからも日々学んでいきたいです。

東京学芸大学附属竹早中学校 司書 中村誠子


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