フリーペーパーとのコラボで、「LGBTコーナー」

2020-12-09 20:46 | by 村上 |

 ここ数年、定着してきたのが中学1年生の保健体育での探究学習です。1、2学期に学習した体や心の成長について、自分の関心のある事柄と結びつけてテーマを決めるのがまず最初です。今学期も、担当の先生と相談して、まずは思春期の心と体に関わる本を図書館に集めて、いろいろ見てもらうことからはじめています。

 授業では、LGBTについても学ぶので、LGBTに関する書籍や漫画も少しずつ蔵書にしています。そこで、分類別に並べた探究学習用のコーナーとは別に、LGBTをテーマにした物語を集めて、ミニ展示を作ることにしました。

 そこで使わせていただいたのが、ハコブネ×ブックスが出しているフリーぺーパーです。

 たまたま、読み終わった児童文学がとてもよかったので、その本について調べているうちに出合ったサイトがハコブネ×ブックスでした。

「児童文学作品・YA作品を未来に語り継ぐサイト」とあり、実にたくさんのYA作品が紹介してあります。小中学校の司書なら、馴染みのある本も多いのですが、購入はしたけれども読んでいない本、存在すら知らなかった…という本もあります。
 サイトを立ち上げているのは、きむらともおさん。まだ工事中とのことですが、かなりの数の本がすでに紹介されています。特集を組んだフリーぺーパーもアップされていて、ダウンロードして印刷できます。にもかかわらず、配布先を募集していて、「フリーペーパーを置いていただけるようでしたら、是非、ご連絡ください」とありました。

 そこで、思いきってメールをさしあげ、フリーペーパーのバックナンバーを送っていただきました。その中の1枚が「特集LGBTのTはトランスジェンダーのT」でした。フリーペーパーで紹介されている本は、小学校高学年向けのものもあり、なかなかすべて本校の蔵書だけでは揃わないのですが、この特集号は、5冊中4冊がありました。そこに、関連する本も足して、写真のようなコーナーを即席でつくりました。

 今年は、新型コロナ禍で、例年のように図書館での授業がなかなかできないこともあり、2学期以降は、テーブルは様々なコーナー展示の場所となっています。おすすめの本を並べて、司書がコメントを書くこともあれば、図書委員にお願いすることもあります。また新聞や雑誌の記事を切り抜いて一緒に本を展示することもあります。そこに、ハコブネ×ブックスのフリーペーパーも今後もぜひ使わせてもらおうと思っています。

 最新号のフリーペーパーは、「特集 そこんとこ アラバマ!BLM」でした。『アラバマ物語』と『ザ・ヘイト・ユー・ギブ』を並べ、『オール・アメリカン・ボーイズ』は注文しました。こちらも冬休みの読書にお薦めしたいと思っています。リアルな図書館の良さは、本の紹介文とともに本を置くことができて、読みたいと思った子どもたちに手渡せることでしょう。もしかしたら、どんなふうにその本が読まれているかを、きむらさんにお伝えできるかもしれません。

 YA世代に向けてまさに直球勝負で書かれた児童文学やYA本が学校図書館にはたくさんあります。翻訳された海外のYA作品は、母国で高い評価を受け、さらに翻訳者がその作品に惚れ込んだだけあって、質の高い作品も多いように思います。これらの本も、紹介のしかたやタイミングしだいで、読んでくれる生徒が少なからずいます。

 この記事を書くにあたり、きむらともおさんに、そもそも、なぜこのようなサイトをたちあげたのか、また学校図書館とコラボして何か新たな企画ができないかを伺ってみました。



きむらともおさん談

 「ハコブネ×ブックス」をご紹介いただきまして、ありがとうございます。仕事で、楽天ブックスや復刊ドットコムなどの本に関わるECサイトのスタッフだった際に、サイト上で児童文学作品の紹介を書かせてもらっていました。これが楽しくて、その後も、趣味で個人ブログやSNSで児童文学レビューを書き続けてきたのですが、それが発展して児童文学評論の賞を受賞したことをきっかけに、児童文学作品(主に高学年向け、YA寄り)のレビューサイトとして「ハコブネ×ブックス」を立ち上げました。

 本の仕事をしてきた中で、書店店頭から消えていく本や、忘れられていく本を数多く目にしてきました。良作であっても、書店店頭に並ばなくなる本は少なくなく、そうした本を「語り継ぐ」ことで未来に遺すことができないかと考え、その理想を実現するために、現時点では一人で全部やる、商売抜きの非営利サイトを作りました。現在、600冊以上の長編レビューを掲載していますが、さらに多くの本を、新旧、国内外作品問わずとりあげて、その魅力を紹介していきたいと思っています。

 サイトでは、ちょっと変わったエモーショナルなテーマで関連する本を繋いでいこうとしています。音楽のプレイリストを作るように、本を選書していく試みです。フリーペーパーは、同じテーマで集めた本を、そのテーマの作品が持つ魅力とともに語り、紹介しています。サイトの広報紙のつもりだったものが、ネット以外での繋がりを拡げてくれるコミュニケーションツールにもなりました。

 ここから生まれたご縁も多く、作家さんや出版社の方、また本に詳しい司書の皆さんとも感想や意見を交換することができるようになりました。本を通じて人と関わることで、データベースを検索するだけでは探せない本を繋いで、物語が持つ魅力について交歓していけることを確信しました。児童文学に関する色々なテーマを今後も発信しながら、読書を楽しむネットワークを拡げていけたらと思っています。

 学校図書館さんとの連携によって、今、子どもたちがどんな本に興味があるのかを伺いながら、現在過去の連関する作品を共有していくこともできるのではないかと思っています(具体的なテーマがあれば、一緒に選書案を考えてテーマ展示などを行えるかと。こちらのレビューや、生徒さんたちの感想などを取り混ぜて構成した冊子などを作るのも面白いかと思います)。個人の読書量は出版点数を思えばたかが知れたものです。それでも多くの人が読書経験を持ち寄ることで、広い世界を豊かに共有することができるものと考えています。


 突然のお願いにもかかわらず、快く原稿をお寄せいただきました。私たち司書も、日々多くの本に触れてはいますが、同じく自分一人の読書量だけがたよりでは、手渡せる本にも限りがあります。だからこそ、本を愛する人たちとつながることで、学校図書館にやってくる子どもたちに広い本の世界を案内できるのだと思っています。

 新型コロナ禍の影響で、以前のような賑やかな広場機能を十分に発揮できない昨今ですが、いままでは学校内の閉じた空間だった学校図書館が、ネットの世界ともつながり、こうして素敵な発信をしてくださっているみなさんと繋がれることに、新たな可能性が見出せそうですね。みなさんも、ハコブネ×ブックスのサイトを、選書や広報・展示に役立ててはいかがでしょうか。


          (東京学芸大学附属世田谷中学校 村上恭子)

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