『知の広場』著者 アンニョリ氏講演会
2013-06-25 14:46 | by 渡辺(主担) |
アントネッラ・アンニョリ氏来日記念講演会
「世界の図書館で今、何が起きているのか?」
2013年6月14日(金)於)日比谷図書文化館
*2011年に『知の広場-図書館と自由』(みすず出版)が日本で翻訳出版されました。この本の著者であり、世界の図書館をすでに何百も訪問してきた、イタリアのアントネッラ・アンニョリさんが来日され、記念講演がおこなわれました。今月はこの講演会のようすを一部ご紹介します。
●アントネッラ・アンニョリ氏 プロフィール●
1952年生まれ。1977年ヴェネツィアのスピネア図書館を開館。2000年まで館長。2001年から2008年まで、ペーザロのサン・ジョヴァンニ図書館長。2011年からボローニャ市図書館協議会理事。公共空間の環境作りから公共サービス、司書教育に関するアドバイザーとして、ボローニャのサラ・ボルサ図書館、グッビオのスペレッリアーナ図書館、フィレンツェのオブラーテ図書館、ロンドンのアイデア・ストアなど数多くの図書館と協働。(千代田区立日比谷文書館講演資料より)
*2時間ちょっとにわたる講演会でしたが、冒頭から1時間半にわたり参加者からの質問に答えるQ&A形式でお話をされました。
そのなかからいつくかご紹介します。
参加者(以下Q):屋根のない図書館というものは可能でしょうか?
アンニョリ(以下A):世界中の図書館を見学しましたが、もちろん森の中に開かれた図書館や砂漠に開かれた図書館は屋根がありませんでした。またロバが本を運んでくる移動図書館などもあります。昨年、イタリアの北部では大きな地震があり、壁面が壊れてしまった図書館がありました。そこで臨時に広場で図書館をひらいたら、むしろ壁があったときには図書館を利用していなかった人たちが本を借りにくるようになったのです。
Q:ネット時代の司書の役割は?
A:テクノロジーが発達しても、図書館は残ると思っています。イタリアではまだまだネットが使えない人が50%にのぼります。ティーンエイジャーの子どもたちがネット時代に図書館に通い続けるようにする工夫が必要で、実際にティーンエイジャーのフロア作りに彼らを参加させてみたこともあります。静かな図書館しか理解しない司書や、変化に対して敏感に対応できない司書はネット時代に図書館で働くのは厳しくなってくるでしょう。
Q. ホームレスも図書館に来ますか?
A.ボローニャのサル・ボルサ図書館には毎日たくさんのホームレスが来ています。汚い、臭いという理由で追い出すことはしません。邪魔な人を図書館から除いてしまうと、私がめざす「広場」のような図書館にはなりません。この点、北欧の図書館は、他者を受け入れることをベースに取り組んでいます。
Q.イタリアの学校図書館はいかがですか?公共図書館との連携はどのしていますか?
A.この質問にはとても残念なお答しかできません。イタリアでは大半の学校に図書館がありません。あるとしても館内は埃だらけでしょう。学校という子どもたちに平等の場に本がないということは非常に残念なことです。イタリアでは今後、教師が学校図書館を理解する必要があると思っています。
*講演会の後半では、現在世界でもっとも革新的な取り組みをしている図書館として、オランダの図書館をいくつか紹介されました。
●Almere図書館
本屋のように館内の図書の多くが表紙を見せた面展示になっており、こうすることで貸し出しは5倍に増えました。また、貸出と返却には機械を導入し、司書はもっと人びととの間に入る仕事に時間を使えるようにしています。館内表示はほとんどなく、床のカーペットで自分がどのエリアにいるのかがわかるようになっています。館内の片隅では結婚式もおこなわれることがあり、日本ではまず見かけない光景でしょう。
●Lelystad図書館
返却した本が、回転寿司のようにどんどん館内を流れてきます。借りる人ももちろんそこから本を取って借りることができるのです。また、分類表示や館内表示は、マネキン人形が来ているTシャツに書かれています。一見図書館の館内というよりも、ブティックのような眺めです。
●Delft 図書館
図書館のエリアから離れていない場所にカフェが併設され、子どもの空間には日本のWiiがおいてあって自由に子どもたちが遊べるようになっています。
●アムステルダムの国立図書館
入口にピアノがあり、誰もが弾けるようになっています。また、司書はカウンターの中ではなく、外に待機していて利用者に接しています。
(講演会の雑感)
日本滞在中、アンニョリさんは日本の図書館もいくつか見学されたそうですが、「日本でおもしろい図書館はなかったです」とバッサリ。「大学図書館でおもしろい図書館が一つありましたが、とにかく日本の図書館は館内に表示が多く、禁止事項がとても多い。表示というのは本当に利用者のためでしょうか?私には司書が図書館を守るためにおこなっているとしか思えません。」と感想をもらしていました。
昨年、私はイタリアのローマ、フィレンツェ、ジェノヴァの三都市で児童図書館を見学しました。児童図書館の司書さんも、イタリアの学校図書館は充実していないというお話を聞いていましたが、学校に図書館がないために、先生が引率して児童図書館に来るそうです。このため、日本よりも小規模の児童図書館があちこちにあるように思います。
アンニョリさんの『知の広場』もイタリア出発前に読み、今回もぜひ直接お話を聴きたいと思って参加しましたが、図書館が広場のように人びとが集える身近な空間であるために、司書は常に柔軟な発想と利用者に寄り添う目線を心がけることが大切だと感じました。これは公共図書館だけでなく、学校図書館も同様だと思います。
印象に残ったアンニョリさんの言葉:「我々自身(図書館に関わる人)が変わらないと図書館は変わらない」
(文責:東京学芸大学附属国際中等教育学校 渡辺有理子)