IFLA児童‣ヤングアダルト図書館分科会主催の交流会から

2019-03-13 16:58 | by 中山(主担) |

 児童YA図書館サービスはどこへ行く…


 児童サービスのカバーする対象は0歳から何歳までかご存じでしょうか。国によって違いはあるものの、IFLA(国際図書館連盟)では0歳から18歳までを児童・ヤングアダルト図書館サービスの対象としています。
 しかし、なんとなく未就学児と児童が主流、ちょっと中学生がついているような感じがしますよね。
 多様なメディアの登場で子どもたちの生活が変わり、図書館としての対応に困惑しているというのが実状なのではないでしょうか。
 3月5日にあった児童図書館員の交流会について、簡単に報告します。「図書館」とは何か、「読書」とは何かを21世紀も1/5を迎える今、22世紀を見据えてもう一度問い直していくべきなのではないでしょうか。

 **「子どもと図書館 今、世界は―各国の取り組みから」**
 (2019.3.5 13時半~16時半 日本図書館協会2階研修室)
 主催:IFLA児童・ヤングアダルト図書館分科会・日本図書館協会
  IFLA交流会案内チラシ(2019.3.5.事業).pdf
 
 2019年8月24~30日のIFLA(国際図書館連盟)の大会はギリシャで行われます。その折に、IFLAグローバルビジョンに対応する2024年までの戦略が開始されることになっています。(「グローバルビジョンレポート」(動画 音が出ます

 まずは「グローバルビジョン報告概要(日本語版)図書館の注目すべき役割と目指すべき活動 トップ10」をご覧ください。
 地域、館種、実務経験の長短に関わらず「図書館のゆるぎない価値と役割に対する深い責任を、図書館員が共有している」ことが重要な発見だったと始まって、10の注目すべき役割と10の目指すべき活動があげられています。これを所属の意思決定者に伝えていこうとヨールン・シスダット分科会議長がおっしゃっていました。
 「情報・知識への平等かつ自由なアクセスに対する責任」や「識字、学習および読書の支援」という伝統的な役割を筆頭に掲げつつ、活動の方には「デジタル社会にあわせて更新していかねばならない」と書かれています。
 役割3「図書館は地域社会に奉仕することに焦点を合わせる」には「図書館は多様性インクルージョン、非商業的な公共スペースを提供することの重要性を高く評価する」とあります。
 役割4「図書館はデジタル革新を受け入れる」とあり、対応する行動4には「デジタル革新によってもたらされる好機をとらえるための適切なツール、インフラ、財源およびスキルを確実に得られるようにすることが早急に必要とされている」とあります。
 行動8「図書館は現在のシステムと行動を変える必要がある/受け身の考え方をやめ、革新と変化を受け入れることで、図書館界が直面している課題に取り組むことができるようになる」

 四半世紀以上前から動いてきたこれら様々な課題を、IFLAが一堂にあつめ、世界の図書館員の共通の認識にしようとしていることを、私も危機感をもって受け止めたいと思いました。

 すでに2017年からプロジェクトが開始されており、各地でワークショップや話し合い、オンライン投票が行われました。(「児童・YA分科会の行動提起」)グローバルなディスカッションがオンラインのプラットフォームにより実現となりました。IFLAは様々なSNSを開設しているので、チェックしてみてください。

 2018年12月には、IFLA児童・ヤングアダルト図書館分科会が”IFLA Guidelines for Services to Children aged 0-18"を公開発表しました。これは2003年公開の「児童図書館サービスの指針」(Guidelines for Children's Libraries Services)の改訂版です。デジタル対応と時代に対応した図書館の役割の変化を認識しようというものです。(カレント・アウェアネスポータル 2018.12.11)
 実際には話し合う時間はなかったのですが、「どの図書館も魔法の力を持っている―使おう」と、交流会参加者に投げかけられたのは以下の3点でした。
 1)これから―あなたは自分の図書館で、このガイドラインをどう活用しますか。
 2)あなたは、このガイドラインを普及させるために、何ができますか。
 3)児童図書館サービスには何が必要で、何が大切なのかについて、一人ひとりがどのような機会に話し合いを続けていきますか。
 このガイドラインの日本語訳が一刻も早く待たれるところです。
 (2020年3月にJLAより出版されました。 『IFLA児童図書館サービスのためのガイドライン 改訂版』 2020.5.3追記 

 これらを踏まえ、各国の報告から心にとまったのは、次のようなことでした。
 1)自治体の「子育て支援」との協働が活動(ブックスタート等)だけでなく、「場」の共有もでてきた。(日本)
 2)e-books(電子書籍)やオーディオブックスについてためらう親に教えていく必要がある。(デンマーク)
 3)7歳から14歳向けの国営の全国オンライン・コミュニティ Biblo.dk を公共図書館が運営している。(デンマーク)
 4)子どもに1対1でつくボランティア活動がある。(デンマーク)
 5)リテラシー向上の支援は読むこと、書くこと、コンピュータクラブやゲームなど多様な方法で乳児・幼児・就学者それぞれに行われる。「メイカースペース」での創作ワークショップも行う。(ドイツ)
 6)就学者にはSTEM(科学・技術・機械工学・数学 :art 芸術を入れてSTEAMと使うこともある。筆者注)関連を重視、タブレット・ミニロボット・スマートフォンを使って、プログラム学習・ゲーム作成など、カリキュラムに関連したモジュール式の図書館ガイダンスを行う。(ドイツ)
    参照「ドイツの児童・ヤングアダルト図書館」(英語版)
 7)公共図書館の企画運営に予算以外の資金調達努力をする。(ノルウェー)
 
 最後に米国ケント州立大学のマリアン・マーティンズ氏から北米のトレンドは3つとお話がありました。
 1)図書館におけるテクノロジー
 2)幼い図書館利用者のための計算論的思考
 3)多様性(ダイバシティ)および包含(インクルージョン)と国際的な子どもの本の役割
 幼い子どもたちも新しいテクノロジーを生活でどんどん使っているのは、学校の準備だけでなく、便利で、楽しいからであって、それに対して「メディアダイエット」を警告したり、そのアプリの質であるとか、ニーズに合わせたアプリの選び出しであるとか、メディアの助言者としての新しい役割が児童図書館員に必要になってきています。壊れたものを直す「いたずら修理」やシステム構築を通じて問題解決する体験で計算論的思考が養われるとか、今の日本ではそこまで図書館の仕事だろうかと疑問が出る範囲までもが、カバーされているというのです。

 メディアの多様性、子どもを取り巻くデジタルとテクノロジーの環境が、「図書館」を再定義せざるを得ない状況を作り出していることについて自覚しましょう。拒否するだけでは済まない段階に来ています。日本の図書館は、学校図書館も含めて、世界から大きく後れを取っていることを自覚すべきでしょう。見えないものを、見えない空間でサーピスすることもまた、これからの図書館サービスといえるのです。読書は基本です。そこにテクノロジーと付き合いつつ、子どもたちが21世紀後半、22世紀を生きる上でのチカラつまりリテラシーを養うために図書館ができることは何か、一人ひとり考え、議論していこうではありませんか。

 【灯台下暗し】県立長野図書館が改装して、児童図書館と一般閲覧室がオープンしました。IFLAの発表者のプレゼンにあった、プログラミンのロボットCaterpillar くん(2018年夏に見学した横浜のインタ―ナショナルスクールの図書館にもあった。「プログラミングロボ コード・A・ピラー」やゲーム、タブレットが写真にありましたので、IFLAの委員の方々にも見ていただきました。そして大人のための新しい多様な空間も4月にオープンするそうです。一度見に行ってみようではありませんか。

 IFLAの「グローバル・ビジョン」と新ガイドライン「0歳から18歳までの子どものためのサービス」は、学校図書館にとっても目指すべき指針を与えてくれています。

 あなたはあなたの図書館にこれらをどう活かしていきますか。

元・東京学芸大学附属小金井小学校司書
   現在 立教大学兼任講師         
 中山 美由紀
         
参照
・朝倉久美「図書館王にオレはなるっ‼ ―県立長野図書館の児童向けリテラシープログラム―」『図書館雑誌』113(2)日本図書館協会 2019.2 p.75-77
・吉田右子『オランダの公共図書館の挑戦』新評論 2018
・長塚 隆『挑戦する公共図書館:デジタル化が加速する世界の図書館とこれからの日本』(図書館サポートフォーラムシリーズ)日外アソシエーツ 2018
・吉田右子「自己との対話・他者との会話 : 21世紀のデンマーク公共図書館がめざすもの 」『図書館雑誌』109(4)日本図書館協会 2015.4 p.220-222
・吉田右子「対話とエンパワーメントを醸成する21世紀の北欧公共図書館」『現代の図書館』53(2) 日本図書館協会 2014.6 p112-120 
The Four Spaces- A new model for the public library
 Den Haag – October 6th 2015
 Dr. Henrik Jochumsen
  Royal School of Library and Information scienceUniversity of Copenhagen
 
 (追伸)2019年3月11日 国立国会図書館国際子ども図書館主催の「平成30年度児童図書館サービス研究交流会 ヤングアダルト世代への図書館サービスの在り方を考える」において、発表された 埼玉県立入間向陽高等学校主任司書 宮崎健太郎氏の高校図書館のメディアの多様化によるここ数年の高校生の価値観の多様化と分散化の指摘、大阪市立中央図書館利用サービス担当 岩佐孝司氏による「書評漫才グランプリ」の7年間の経過報告も示唆に富んでいました。

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