2つの新しい法律と学校図書館

2019-12-22 14:34 | by 村上 |

2つの新しい法律と学校図書館


                   野口武悟(事業委員、専修大学文学部教授)


1.はじめに

 みなさんは、2019(令和元)年6月に2つの新しい法律が制定、施行されたことをご存知だろうか。その法律とは、「学校教育の情報化の推進に関する法律」と「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」であり、どちらも学校図書館にも関わる法律である。本稿では2つの法律のポイントと学校図書館との関わりをまとめておきたい。


2.「学校教育の情報化の推進に関する法律」について

  周知のように、学校図書館には「読書センター」「学習センター」「情報センター」という3つの基幹的な機能がある。このうち、「情報センター」の機能とは、文部科学省の「学校図書館ガイドライン」によれば、「児童生徒や教職員の情報ニーズに対応したり、児童生徒の情報の収集・選択・活用能力を育成したりする」機能である。

各校種の新しい「学習指導要領」では、「主体的・対話的で深い学び」の実現が目指されており、総則において「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、児童生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かすとともに、児童生徒の自主的、自発的な学習活動や読書活動を充実すること。」と明示されている。この「主体的・対話的で深い学び」、なかでも「深い学び」においては、「事象の中から自ら問いを見いだし、課題の追究、課題の解決を行う探究の過程に取り組む」などの例が示されている(文部科学省「主体的・対話的で深い学びの実現(「アクティブ・ラーニング」の視点からの授業改善)について(イメージ)」)。



こうした探究型の学びにおいては、学校図書館の「情報センター」機能が深く関わることになる。「情報センター」機能を発揮するためには、図書資料だけでなく、電子メディアやネットワーク情報資源などの情報通信技術(ICT)が活用できる環境も必要となってくる。ところが、現状として、「学校図書館とコンピュータ室が一体的(隣接を含む)に整備されている」学校は、小学校12.8%、中学校8.2%、高等学校4.6%、また、「学校図書館内に児童生徒用のICT機器が整備されている」学校も、小学校10.6%、中学校12.5%、高等学校47.6%となっている(文部科学省「平成28年度学校図書館の現状に関する調査」)。教育方法学の研究者からも、学校内で「コンピュータはコンピュータ室に置いてコンピュータ係が管理・運用する。印刷メディアは、図書室に置き、図書係が管理・運用する。視聴覚メディアは、視聴覚室に置き、視聴覚係が管理・運用する。これは利用の促進を図る上で得策ではない」とし、学校図書館で一元的に管理・運用する体制が必要との指摘がなされている(平沢茂編著『教育の方法と技術 三訂版』図書文化、2018年、p.146)。

 このような現状を改善し、学校図書館の「情報センター」機能の充実に資する可能性のある法律が、今年の6月に制定された「学校教育の情報化の推進に関する法律」である。この法律は、「全ての児童生徒がその状況に応じて効果的に教育を受けることができる環境の整備を図るため、学校教育の情報化の推進に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体等の責務を明らかにし、及び学校教育の情報化の推進に関する計画の策定その他の必要な事項を定めることにより、学校教育の情報化の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって次代の社会を担う児童生徒の育成に資すること」(第1条)を目的としている。また、「学校における情報通信技術の活用のための環境の整備」(第15条)など11の施策が規定されている。



3.「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」について

 義務教育(小学校、中学校)段階で特別支援教育を受ける児童生徒は4%を超えており、このほかに通常のクラスで学ぶ発達障害などの特別な教育的ニーズのある児童生徒が6.5%程度在籍しているとされる(文部科学省の調査による)。特別な教育的ニーズのある児童生徒は、高等学校においても増加傾向にあり、2018(平成30)年度からは高等学校での通級による指導が制度化された。

 2016(平成28)年4月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)が施行され、国公立学校においては障害者への「合理的配慮」の提供が義務づけられたことは記憶に新しいだろう(私立学校では努力義務)。また、同年11月に通知された文部科学省の「学校図書館ガイドライン」においても、「発達障害を含む障害のある児童生徒や日本語能力に応じた支援を必要とする児童生徒の自立や社会参画に向けた取組を支援する観点から、児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた様々な形態の図書館資料を充実するよう努めることが望ましい。例えば、点字図書、音声図書、拡大文字図書、LLブック、マルチメディアデイジー図書、外国語による図書、読書補助具、拡大読書器、電子図書等の整備も有効である。」とされている。

 加えて、今年の6月には「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(いわゆる「読書バリアフリー法」)が制定された。この法律は、「視覚障害者等の読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進し、もって障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与すること」(第1条)を目的としている。視覚障害者等とは、視覚障害者だけでなく、「発達障害、肢体不自由その他の障害により、書籍について、視覚による表現の認識が困難な者」(第2条)を指している。この法律では、9つの基本的施策を規定している。その1つに、学校図書館などすべての館種において、「各々の果たすべき役割に応じ、点字図書館とも連携して、視覚障害者等が利用しやすい書籍等の充実、視覚障害者等が利用しやすい書籍等の円滑な利用のための支援の充実その他の視覚障害者等によるこれらの図書館の利用に係る体制の整備が行われるよう、必要な施策を講ずるものとする。」(第9条)との規定がある。


4.おわりに

 「学校教育の情報化の推進に関する法律」と「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」は、どちらも罰則規定のない理念法となっている。とはいえ、前者では「学校教育情報化推進計画」を、後者では「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」をそれぞれ国は策定しなければならないと規定しており、ともに2020(令和2)年春には策定される予定である。また、国の計画を受けて、地方公共団体もそれぞれの計画の策定に努めるとされている。

 今まさに動き始めた2つの法律とそれにもとづく施策の動向を、学校図書館の充実に生かすべく、みなさんもぜひ注視してほしい。



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