青春の本棚;中高生に寄り添うブックガイド

2021-02-09 14:24 | by 村上 |

 2020年12月に出版された『青春の本棚;中高生に寄り添うブックガイド』(高見京子編著 全国学校図書館協議会)は、学校図書館の現場から生まれた本です。3年間にわたり、『学校図書館』誌上で連載された企画がもとになっていますが、ブックガイドにふさわしい編集がされ、さらに小手鞠るいさんのエッセイも新たに収録されました。

 私も関わらせていただいたこの本、編集担当の高見京子先生からは、生徒とのかかわりや図書館の様子が伝わるようなブックガイドにしたいと言われました。そこが、これまでのブックガイドとおおきく違う点かもしれません。(高見先生は、長く岡山県立高校で国語教師として、また司書教諭としてもご活躍で、このデータベースにも”高校生に本を手渡すために ~司書教諭と学校司書の協働~”というタイトルで執筆いただいています。)

 年に2回、2冊ずつ計12冊の本を紹介させていただきましたが、毎回どの本をどのようにとりあげようかと頭を悩ませました。連載時も読んではいたのですが、こうして新たな編集意図をもって一冊の本にまとめられると、また違った良さが出てくるように思います。
 執筆しているのは主に、中高の司書・司書教諭の皆さんですが、みなそれぞれ選ぶ本も、生徒へのかかわり方も違っていて、それこそが、学校図書館の良さであると感じました。また、現役の中高生が自分の言葉で語るおすすめ本も収録されています。



 今月は、この本に紹介されている本を一堂に集めて、特設コーナーを作ってみました。緊急事態宣言中の今、本校は午前の授業が終わると即下校のため、生徒も図書館に足を運べないのですが、そんななか、「本が読みたくて:::」とやってきた中2の女子が、さっそくこのコーナーから1冊選んで借りていきました。『青春の本棚』の本も、2月から長期の自宅学習に入る中3の女の子ふたりに「読んでみてくれる?」と手渡したのですが、先日、そのうちのひとりから、「他の学校の図書館の様子がわかったり、同じ年頃の人が本を薦めているので、読みたい本が増えました」と嬉しい感想が返ってきました。

 所蔵していなかった本のうち、特に中学生に読んでほしいと感じた作品は、新たに購入しました。そのうちの1冊、『ナガサキの郵便配達』(ピーター・タウンゼント原作、中里重恭翻訳、海渡千佳監修 ナガサキの郵便配達製作プロジェクト)を読んでみました。この本を紹介されたのは、長崎在住で長く司書教諭をされていた山本みづほ先生です。(山本先生にも、実はこのデータベースでは2013年に授業と学校図書館に寄稿いただき、その後も事例や記事を執筆いただいています。)

 『ナガサキの郵便配達』は、英国人作家ピーター・タウンゼント氏が1984年に出版した本が底本となっています。この本の主人公、谷口稜曄さんは、16歳の時、郵便配達の仕事中に被爆し、熱線で背中一面に重い火傷を負いました。奇跡的に命を取り留めたとはいえ、うつぶせのまま身動きひとつできず、激しい痛みと闘う壮絶な日々を過ごします。40歳を過ぎ、少年だった自分の焼けだたれた背中を映し出す映像の存在を知り、以後被爆体験を語り始めたのです。この写真の存在と、谷口氏のお名前は知ってはいましたが、今回初めて、谷口氏が辿ってきた長い道のりを知ることができました。

 アウシュビッツの歴史が、「アンネ・フランク」と一緒に人々の記憶に刻まれるように、人類が犯した大きな過ちのひとつ長崎への原爆投下は、スミテル少年の名とともに記憶してほしいと思える1冊でした。(尚、この本は「ナガサキの郵便配達」制作プロジェクトが発行し、一人でも多くの人に読んでもらうために、809円(税別)という低価格で販売されています。)
 
 本校の歴史の棚にある『トランクの中の日本;従軍カメラマンの非公式記録』写真ジョー・オダネル 小学館 1995)には、スミテル少年が”火傷をおった少年”として掲載されています。(1993年11月12日、48年後の長崎で、カメラマンはかつての少年に再開を果たしています。)絵本の棚には、『この計画はひみつです』ジョナ・ウィンター文 ジャネット・ウィンター絵 さくまゆみこ訳 すずき出版)も並んでいます。どこかでこれらの本を紹介できる機会を見つけたいと思いました。

 世の中にはたくさんの本があって、自分が出会える本はほんのわずかですが、こうして、いろいろな人が薦める本を知ることができて、あらたなつながりをみいだせるのも、「ブックガイド」を読む楽しさかもしれません。

東京学芸大学附属世田谷中学校司書 村上恭子

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