戦争で犠牲になるのはいつの時代も最も弱い立場のもの

2022-11-10 13:10 | by 村上 |

『「ナパーム弾の少女」五〇年の物語』 藤えりか著 講談社 2022年6月刊行

   ベトナム戦争の真実を伝える報道写真として有名でピューリッツァー賞を受賞した表紙の写真は、昭和生まれの世代にはあまりも有名だ。でも、その少女がどのような時代を生きていたかを知る人はほとんどいない。私も、朝日新聞の一面の記事になった時に(2012年7月13日朝刊)、そういえばと気になって読んだ記憶があるが、記憶があるだけで数ある記事の一つとして読み流してしまっていた。と気づいたのはこの本を読んでからだ。記事の執筆者は本書の著者でもある。

   ある公共図書館の館長が中高生向けとSNSで発信され、気になって読んだ。表紙の少女のその後の50年を追った内容だが、波乱万丈の人生、特にカナダへの亡命の過程は手に汗を握る展開。物語として読めてしまいそうだが、自分の経験を発信し反戦活動をされている実在の人物の半生だ。教科書や何かの書物で見た人は、どこか遠くの出来事や人物のようにとらえがちだが、私たちの生きる世界と確実につながっている、ということに気づかされる。


 2月に始まったロシアのウクライナ侵攻に心を痛め、「人間はこの50年間で何も学んでいない」。戦争によって50年前に人生を大きく変えられた「ナパーム弾の少女」の言葉は重い。平成・令和生まれの若者にとって、ベトナム戦争は教科書に載っているどこか遠い過去の出来事かもしれない、けれど戦争によって犠牲になるのはいつの時代も最も弱い立場の人びと、彼らだ。戦争が人びとに何をもたらすのか、そして私たちは過去の歴史から何を学ばなくてはならないのかを考える一助になる1冊である。
(玉川聖学院中高 司書教諭 鳴川浩子)


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