時代に追いつけ!『ウィキペディアでまちおこし』発刊 

2024-04-13 14:35 | by 渡辺 |

 *『ウィキペディアでまちおこし』(2023年12月)を出版されました、著者の伊達深雪さんから、本のご紹介原稿をいただきました!(編集)

 全校生徒が1人1台タブレットを持つようになって、学校図書館中心で調べ学習などの授業が行われていた頃と比べて、生徒ひとりひとりの学習課題や、情報活用の様子は、授業を持たない司書からは見えにくくなった――そんなふうに感じたことはありませんか? 私はひしひしと感じています。どんなに先回りして本を用意しても、多くの生徒が頼るのはインターネット・・・・・・この状況をなんとかしたい! そう一念発起して2018年に有志の生徒や地域の様々な団体といっしょに始めたのが、「ウィキペディアタウン」という活動でした。インターネットで何かを調べようとした時、多くの場合、検索結果の1面に表示されるあのサイト、「ウィキペディア(Wikipedia)」に、図書館等の文献から得た様々な情報を、その出典を明示して加筆編集していく取り組みです。


 不特定多数が編集できるウィキペディアは、学校教育の場面では長年、信用できないもの(だから使わないように)と指導されてきました。しかし、いまや誰もが、特に私達が日々接しているような若い世代は、もはや片時も手元から離すことがないのでは、とも思える日常生活の必須のツールとなりつつあるスマートフォンから、簡単にアクセスできるこのツールを「使うな」というのも無理な注文です。であるならば、どのように「使う」あるいは「使わないでおく」べきなのか、その判断を小学生くらいの子どもから高齢者までが、個人から学生・行政職員・研究者、そして図書館司書など、多様な人々とともに発信する活動に参加してみることで、日頃は受け手としても様々な情報に接している人も視野が格段に広がり、自然と自分の思考によって判断できるようになるのではないか。このウィキペディアタウンという体験をもとに、生徒にとって極めて身近なウェブサイトにある課題や可能性を探り、日々の実践に役立つように・・・・・・、先般、上梓した『ウィキペディアでまちおこし みんなでつくろう地域の百科事典』(紀伊國屋書店、2023年12月)は、そんな期待を込めて、6年余りの私の体験とそこで得た知識をまとめた1冊です。

 ウィキペディアタウンは、2013年に横浜市で開催されて以来、日本全国に普及した官民協働型市民ワークショップの代表例と見なされることもありますが、その詳細を解説した書籍の刊行は先例がなかったので、本書は2001年に誕生したWikipedia日本語版そのもの、2013年に横浜で始まったとされる日本版ウィキペディアタウンそのものの発展の経緯も紹介した、必携の書となりました。この複雑で難解なネット情報の裏側の社会を、決してアンダーグラウンドなものではなく、ほんとうは皆に開かれた情報へのアクセス手段として、未来への希望を込めて、明るく読みやすい13本のエッセイと13のコラム集にまとめあげ、刊行に導いてくださった紀伊國屋書店出版部の御指導と忍耐、御尽力に深く感謝申し上げます。

 刊行後、『ウィキペディアでまちおこし』は、私の地元新聞社のほか、日本経済新聞や共同通信、NHKラジオなど様々なメディアや各地の図書館で紹介され、多くの方が書評を書いてくださいました。それら書評で述べられた内容は多岐にわたり、例えば日本経済新聞(2024.1.20)では出典を明記し参考文献情報を提供する場として機能するWikipediaの方針や、偽書に遭遇して頭を抱えたイベントの事例など、情報を発信する側の責任について紹介されました。朝日新聞(2024.1.24)では高校生5人と取り組んだイベントの様子や「中立的な観点」に基づいた編集活動を推奨するWikipediaのスタンスについて。毎日新聞(2024.2.26)では町の記録と営みを描き出すウィキペディアタウンの魅力や、それを支える「知の拠点」である図書館のあり方について、本書の引用を交えつつ紹介されました。「記事を書かれる方の関心領域によって、いろいろな角度から読める1冊」とは担当編集者からいただいたお言葉です。その多様性もまた、純粋な「情報」を誰がどのように活用するも自由であるという、Wikipediaそのものの多様性の反映なのではないかと思います。

 最後に、図書新聞3625号(2024.2.3)に掲載された地域メディア論がご専門の影山裕樹さんの論評から、一部を紹介します。多くの観点から様々な示唆をいただいた書評だったのですが、生来めんどくさがりで、小規模校の学校図書館でひとり、こもりがちになってしまう日も多い私に、様々な場面で行動する勇気を与えてくれた書評です。
「私たちは常になんらかの地域に縁を持ち、そこに暮らしていたり関係の深い人々がいる地域に思いを馳せている。無意識だろうが意識的だろうが、地域から逃れる術はない。であるがゆえに、私たちは地域内にともに暮らす『異なるコミュニティ』との交渉を余儀なくされている。面と向かって話せば衝突することもあるだろう。だからこそ、価値観の合わないコミュニティに対して距離を取り、コミュニケーションを諦めてしまいがちである。だからいま、ワークショップで他世代や他職種の人、地域外の人と触れ合う機会はとても貴重なのだ」
「ウィキペディアタウンの活動が、インターネット上で繰り広げられる価値観の押し付け合いと異なるのは、それが立体的な地域住人の対話を誘発するところにある。(中略)あくまで二次元平面上の記事を編集するという、オールドスクールなメディア編集のように見えて、実際は三次元の地域の人々の『関係を編集』しているのだ」

 私はこの本を、自校の生徒に「自治体や地域の図書館や博物館との連携について、足し算ではなく累乗の効果をもたらす学びのコミュニティづくりを考えるきっかけにしてください。」と紹介しました。
みなさんは、また、みなさんの児童・生徒さん達は、本書をどのように読み解き、何を思うでしょうか。ぜひ、学校図書館にも1冊備え、皆で読み合い、語り合っていただけたら嬉しいと思います。

【書誌情報】
『ウィキペディアでまちおこし みんなでつくろう地域の百科事典』
著者:伊達深雪
ISBN:9784314012027
出版社:紀伊國屋書店
判型:(紙)4-6(電子)Kinoppy, KinoDen
ページ数:326ページ
発行年月日:2023年12月

(京都府立丹後緑風高等学校久美浜学舎:学校図書館司書 伊達深雪)


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