ジョバンニの切符

2026-03-11 13:12 | by 中村 |

 毎年卒業のシーズンになると、3年生へ宛てて図書便りの卒業記念号を、名入りのしおりとともに贈ります。今年は『銀河鉄道の夜』第三次稿から、こんなフレーズを引用し、作品とともに紹介しました。

 「さあ、切符をしっかり持っておいで。
お前はもう夢の鉄道の中でなしに
本統の世界の火やはげしい波の中を
大股にまっすぐに歩いて行かなければいけない。
天の川のな〔か〕でたった一つのほんたうのその切符を
決しておまへはなくしていけない。」
  ( 青空文庫 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』初期形一 より) 

 さて、お便りを受け取った図書館の常連さんの一人から、さっそく、そしてたぶん最後になる、こんな質問をいただきました。
 「このセリフが入っているバージョンの『銀河鉄道の夜』を読んでみたいです」


* * *


 一般的に私たちが目にする『銀河鉄道の夜』は、宮沢賢治の死まで推敲が重ねられた最終の形(第四次稿)が多いと思います。ところが実は、第三次稿まで登場する重要人物の存在が、最終稿では削られてしまっていることを、生徒はあまり知りません。冒頭で紹介したセリフは、この人物「ブルカニロ博士」が、カムパネルラとの哀しい別れを経て現実世界へと戻るジョバンニに対して語る、最終稿では出会えない言葉なのです。
 賢治はなぜ、物語を推敲していく中でブルカニロ博士の存在を消したのか。様々な研究がおこなわれていますが、その意味を考えるのは読み手本人に任せることとして、生徒には学校に所蔵しているこちらの本を紹介しました。

『宮沢賢治全集 7 
    —銀河鉄道の夜 風の又三郎 セロ弾きのゴーシュ ほか—』
  宮沢賢治著 ちくま文庫 1985年 ISBN:4-480-02008-X
 『銀河鉄道の夜』第一~四次稿まで、全ての形を読むことができます。ジョバンニとブルカニロ博士とのやり取りでは、印象的な言葉がたくさん出てきます。
 どこが違うか、どうして書き換えられたのか、読み比べてみると、これまでになかった視点を持つことができるかもしれません。

 「卒業までに読めないかも」という生徒のために、進学予定の高校の図書館にも所蔵があることを確認し、この場での貸し出しは控えることとなりました。

 

 生徒と話をする中で、宮沢賢治が好きなこと、星が好きなこと、東北で見た星空がきれいだったことなどを聞きました。この生徒にぴったりなウェブ情報があったので、おまけに紹介して、最後のレファレンスは終わりです。

国立天文台ニュース
「宮沢賢治 生誕120周年記念連載『
銀河鉄道の夜空へ』」
 国立天文台 「銀河鉄道の夜空へ」政策委員会 
   渡部潤一(文) 飯島裕(写真)

 『銀河鉄道の夜』を中心とした賢治作品に登場する星空を、美しい写真とともに専門家の視点で解説した、国立天文台ニュースの連載記事です。 「四 銀河ステーシヨン アルビレオの信号場」の号には、賢治が見上げたかもしれない、1923年12月8日の花巻の星図が描かれています。文字だけでは伝わらない世界を感じることができます。


* * *


  ジョバンニは、他の誰とも違う特別な切符、「ほんたうの天上へさへ行ける切符」を持っていました。無限の可能性を持って中学校を巣立つ卒業生の一人ひとりが、そんな切符を持って、新しい世界へ羽ばたいていくことを願っています。

(東京学芸大学附属竹早中学校 司書 中村誠子)


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