「ふるさと」をテーマにした物語

2019-12-08 20:45 | by 村上 |

 2学期が始まって少し経った頃、図書館にやってきた国語の先生に、「”ふるさと”がテーマの本を集めてもらえませんか?」と頼まれました。中学3年生は魯迅の『故郷』を学習します。14、5歳の彼らにとって、生まれ育った地に対し「ふるさと」という意識はまだ希薄です。そこで彼らにも故郷がイメージできるような物語があれば、それをなんらかの形で授業に活かしたい…という漠然とした段階での依頼でした。

 1ヶ月ほど余裕があるので、ふるさとを扱った文学作品で、なおかつ中学生が読めそうな作品を探すことにしました。
  記憶をたよりに棚を眺める。
  自館蔵書を、「ふるさと」や「故郷」を入れて検索する。
  司書仲間に聞く。
  ネットでキーワードを入れて検索する。
  レファレンス協同データベースを見てみる。
 などをしつつ、1か月ほど頭の片隅に「ふるさと」というキーワードを置きながら過ごしました。
 
 ふるさとと言われて思い出すのは、「ふるさとは、遠きにありて・・・」で始まる室生犀星の詩ではないでしょうか。物語ではないけれども、『室生犀星詩集』(室生犀星著 ハルキ文庫 2007)も入れてみました。『千恵子抄』(高村千恵子著)も該当するかもしれません。

 

 ふるさとが重要な役割を果たすのは、地方から都会に出てきたり、都会から地方へと帰る話です。たとえば、『食堂かたつむり』(小川糸著)や、『島はぼくらと』(辻村深月著)、『県庁おもてなし課』(有川浩著)などです。ズバリ故郷という言葉が書名に入っていた『おれたちの故郷』(佐川光晴著)は、中学高校と生活した北海道の児童養護施設が震災後、耐震性が問題となり取り壊されそうになるという話です。『虹色ほたる』(川口雅幸著)は、ダムに沈んだ父の故郷にタイムスリップする物語でした。
 
 ネットで検索して出てきた本で、気になったのが『ふるさと銀河線 軌道春秋』(高田郁著 秋田文庫 2013)です。『みをつくし料理帖』を書いた作家さんということで、これは新たに購入してみました。連作短篇集で、表題作は両親を亡くした15歳の女の子が主人公です。受験を控えた中3生には、気持ちも重ねやすいように思えました。

 時々、先生と話をすると、だんだん授業の形が見えてきます。1ヶ月後、図書館にストックしておいたふるさと関係の本を借りていかれました。そして最終的には『ふるさと銀河線』の中の1篇と、室生犀星の詩を使うことに決めたそうです。授業当日、先生から指導案をいただきました。残念ながら、その日の授業は見ることはできませんでしたが、後日先生の授業感想は聞かせてもらいました。
 図書館にあるたくさんの蔵書も、いろいろな切り口で見ていくことは、司書にとってはまた違った場面で役立つことにつながるように思います。そして、やはりいつもありがたいのは司書のネットワークです。アナログな人的ネットワークと、デジタルなネットワークの存在は司書には欠かせませんね!
                         

東京学芸大学附属世田谷中学校司書 村上 恭子

  



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