時には一人のために(「汽車のえほん」シリーズ)

2023-04-13 16:04 | by 富澤(主担) |

 小学校での読み聞かせといえば、図書の時間の、クラス全体に向けての読み聞かせがまず思い浮かびますが、休み時間等に、一人、またはごく少数に向けて読み聞かせをすることもあります。

 司書の印象に残っているエピソードを一つ。電車が大好きで、1年生の図書の時間に、電車コーナーがあることを知って以来、ほとんど毎日来館し、あっという間にノンフィクションの電車の本全てに目を通してしまった男の子がいました。

 「じゃあ、今度は、電車が出てくる物語の本はどう?」と、機関車トーマスが登場する「汽車のえほん」シリーズ(ポプラ社、2005や、『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』(バージニア・リー・バートン∥ぶん え/むらおか はなこ∥やく、福音館書店、1961)『ふたごのでんしゃ』(渡辺 茂男∥作/堀内 誠一∥絵、あかね書房、2004)等を紹介すると、素直に次々と手にとっては、読みふけっている様子でした。でも、間もなく読み終えると、また「ねぇ、新しい電車の本ない?」と、休み時間や図書の時間ごと、司書に聞いてくるのです。

読む力はあるようですが、あまりにペースが速いので「本当に読んでいるのだろうか」、「読めているにしても、つまみ食いだけするような読み方で、本当には楽しめていないかもしれない」、「本の中身よりも、構ってもらうことが目的?」と、だんだん心配になってきたのでした。

 ある日、自分の好きな本を、一冊選んで紹介することになったというので、一緒に棚をまわりながら「これはどう?こっちも良く読んでいたよね」と、本を見てみたのですが「どれも面白いから選べない、先生が選んで」と言うばかりで、なかなか選ぶことができません。数日をかけて、なんとか選べたものの、ほとんど司書の提案に流されるままの状態だったので、自分の言葉で紹介ができたのか、気になりました。   
 そこで、来館したときに、「一緒に読みたいから、一冊選んでくれない?」と誘ってみました。幸い
乗ってくれたので、「汽車のえほん」シリーズから、彼が選んだものを一対一で読みきかせすることになったのです。
 実は司書は、このシリーズを知ってはいましたが、しっかりと読んできたわけではありませんでした。はじめは「お付き合い」のつもりでいたのですが、読んだ巻数が増えるにつえ、だんだんキャラクターたちの性格や、それぞれの関わり、事件のユーモラスな顛末などが頭に入ってきて、とても面白いと思うようになりました。やがて、記憶力の良い彼は、二人で一緒に笑った本については、くり返し「読んで」と、持ってくるようになりました。

 2年生になっても、彼の図書館通いと、司書の読み聞かせは続きました。こちらの促しがなくとも『エパミナンダス(愛蔵版おはなしのろうそく 1)』(東京子ども図書館、1997を、「読んで」と持ってくるようになったり、「名たんていネート」シリーズを自分で選んで読んでいたりして、内心とても喜んだ日があったかと思えば、次の日には「先生のおすすめがいい」と、甘えモードになったり。急に、誰の目にも明らかな成長をとげたわけではありませんでしたが、だんだんと、面白いと思う本の蓄積ができたことと、選ぶことが上手になっていくのを感じたのでした。

図書委員会の子たちにカウンターを任せられるので、なるべく、こういったニーズにも丁寧に応えたいと思っています。読み聞かせしながら、子どもに本の面白さを教えてもらえる、司書にとっても得難い経験です。「読み聞かせをしながら、一冊の本を一緒に楽しむ」のは、小学校図書館の素敵な特徴の一つだと思っています。

(東京学芸大学附属大泉小学校 司書 富澤佳恵子)                      

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