今月の学校図書館

こんなことをやっています!

宮城県松山高等学校

2022-01-11 09:18 | by 金澤(主担) |

 今月は、宮城県松山高等学校の司書 大場真紀さんに、チーム学校としての学校図書館の取り組みや地域との連携について執筆いただきました。(編集部)



1 学校概要

宮城県松山高等学校は、仙台市から北東へ約40㎞、大崎市東部にあります。普通科と家政科各学年1学級、計6学級からなる、全校生徒150人の小規模校です。

 入学してくる生徒は、将来の目標に向かって専門学科で学びたい等の目的をもつ者が多い一方で、中学校までにさまざまな悩みを抱えてきた生徒、長期欠席を経て心機一転、新しいスタートを切ろうという生徒もいます。
 卒業後は、半数以上の生徒が就職で社会へと巣立っていきます。体験活動の機会が少なかった生徒たちが社会に出る前の最後の学校生活で、学び直しや育ち直しを含む多くの体験を得られるように、教職員は日々生徒たちに寄り添い心を育む温かい雰囲気の高校です。


2 学校図書館の概要

 本校の教育計画の中に「全校朝読書の徹底と図書館の積極的活用の工夫」「自主的・自発的に行動できる生徒の育成と、確かなコミュニケーションづくり」「主体的活動の場の設定と充実感や達成感を味わえる、活気ある学校づくり」が挙げられており、学校図書館運営の柱となっています。読書を学習や生活の基盤として位置付け、読書活動及び学校図書館の活用を通して、心の豊かさ、課題解決力及びコミュニケーション能力の向上を目指しています。

学校図書館は校務分掌で総務部に位置づけられており、司書教諭の配置はなく、専任・正規職員の学校司書が1名配置されています。蔵書数は約1万冊で、家政科があることから学習での利用が多い家政学関係の資料が充実しています。

 

3 「チーム学校」の一翼を担う学校図書館として

(1) 読書活動~朝の読書を基盤に~

 本校では毎朝SHR前の10分間、全校一斉に「朝の読書」を行っています。朝の読書は生徒の学習・生活全体の基盤となる活動として、平成162004)年にスタートし、今年度で18年目となる取り組みです。年に一度実施する生徒へのアンケートによると「本を読む習慣ができた」「語彙が増えた」「落ち着いた気持ちで授業に向かうことができる」といった感想が多く見られます。ここでは、実際に読む・書く力もさることながら、「~ができるようになった」という変化を自身で感じられるという点や、授業へ向かうために心を整えるスイッチになっていることが、長年に渡って継続した読書活動に取り組むことができた所以であると考えられます。

 また、2018年からは、毎日の朝の読書を活動のベースと捉え、その発展としてLHR等で、ビブリオバトルや読書へのアニマシオン、新聞を活用した活動等の取り組み等を行ってきました。これらの活動には、他者へ自分の考えや好きな図書を紹介するといったプレゼンテーションやコミュニケーションを図る要素が大きいことから、自由読書への入り口であるだけでなく、他者と関わる一つの機会と捉えています。 
   (写真左下 朝の読書の様子                写真右下 ビブリオバトル) 











                                                                          


(2)学習支援

進路指導や総合的な探究の時間、家庭科等での図書館利用があり、学習のサポートを行っています。図書館利用の申し出や、活用していただけそうな要素があれば、担当教諭と事前に打合せや提案を行い、所蔵資料を確認しておきます。本校の蔵書で不足の場合には市立図書館より借り受けて資料を提供します。

一例として、家政科3年生は「課題研究」の授業で、11テーマについて約1年かけて探究学習を行います。学習の初期段階で学校司書が「調べ方ガイダンス」を行い、テーマ設定の重要性、調べ方や調べるためのツール、情報メモ、著作権などについて説明を行います。以前より、この授業では、初めの2〜3ヶ月は主に図書を中心に調べものを進めています。あえて「図書で調べる」とすることで、百科事典等の参考図書を使って調べる経験をさせたいという先生方の方針でもあります。

ガイダンス以降、調べものの開始と同時に、学校司書が個別にレファレンスを開始します。生徒たちは、それぞれの研究テーマをもっているものの、いざ調べるとなると調べる手が止まってしまうことがあります。そこで、どのようなことを調べたいか、どのような資料を必要としているのかを知るために、ひとりひとりと会話を重ねていきます。レファレンスインタビューで生徒は漠然としたテーマが頭の中で整理され、目標が明確になっていきます。場合によっては、小テーマの方向性に変化が見られることもありますが、生徒自身が問いを導き出した体験により調べものに取り組む姿勢が積極的になり、また、次からの資料相談では司書への質問の精度が上がっていきます。

関連図書の棚を紹介したり、学校の蔵書で不足なものは大崎市図書館からの団体貸出を利用したりして、生徒たちが調べたいテーマ関連の図書資料を必ず複数冊用意するようにしています。調べる経験が少ない生徒たちですので、自身でページをめくり「書いてあった!」「見つけた!」と感じることを大切にしています。生徒がそれらの図書を読み比べたり、さらにテーマを絞ったり、関連テーマに移ったりして、自らの課題を見つけていきます。

 なお、令和2年度より、新型コロナウィルス感染症の感染拡大予防で緊密を避けるために、図書館内でクラス単位での授業を行うことができない状況が続いています。この授業では家庭科教師が5人で担当していることもあり、現在は広い特別教室で授業を行い、図書館でのブラウジング等は時間帯を分散して行ったり、図書館資料を教室へ運んで利用したりする等の対応をしています。

(「課題研究」の様子。生徒が使用する資料は、スムーズに利用できるように、生徒の名前の見出しで区切りブックトラックに別置しておきます。)




















(3)「社会へつながる扉」となる学校
図書館の活動

学校図書館は、いつでも誰でも自由に立ち寄れる多様性と柔軟性のある場所です。

学校図書館で展開する様々な活動には小さな「できた!」を体験できる場面が多くあります。生徒が感じた「できた!」の積み重ねは自信につながります。学校の中にありながら学習評価から一歩離れた学校図書館だからこそ、「チーム学校」の中で担える役割があると感じています。

【社会や地域とつながる図書委員会活動】

 
図書委員会活動を地域や社会と連携して展開することで、社会の中の自分を意識できる機会が生まれます。


(i)
公共図書館との連携展示で「私たちの今」を発信

2年前より、大崎市図書館と大崎地域の県立高校12校が連携し、図書館のティーンズフロアに展示を行っています。1~2校ずつ1か月毎の輪番制で、「図書委員おすすめの本」等を中心に各校の特色溢れる展示となっています。

本校では、全校生徒へのアンケートで寄せられた「心に残る本」や、全校一斉のビブリオバトルで登場したバトル本等を中心に紹介しています。生徒が図書館へ赴き、手作りのPOPや栞を添えたり、図書委員会や学習活動の様子等の掲示をしたり、家政科の卒業制作・ウェディングドレスの展示を行います。

生徒たちはそれまで利用経験が少なかった公共図書館を身近に感じ、自分たちが勧めた本を手にしてもらう喜びを積み重ねます。





(大崎市図書館との連携展示)


























                                    (大崎市図書館・2階は広々としたティーンズフロア)


(ii)
「シトラスリボンプロジェクト in 松山高校」

「シトラスリボンプロジェクト」は、コロナ禍で生まれた差別、偏見を耳にした愛媛県の有志がつくったプロジェクトで、シトラス色(愛媛特産の柑橘をイメージ)の水引の手法で作ったリボンや専用ロゴを身につけて「ただいま」「おかえり」の気持ちを表す活動です。 

本校では、令和2年度から生徒図書委員と保健委員、ボランティアの生徒が連携して取り組んできました。校内で展開してきた活動でしたが、昨年夏の感染拡大をきっかけに、活動の場を地域へと広げていきました。

委員の生徒は、養護教諭からコロナ禍での差別や偏見の問題、医療従事者やエッセンシャルワーカーの献身的な仕事について学び、校内放送で全校生徒へ活動の趣旨を呼びかけました。このとき、生徒たちが自身の家族の仕事に思いを寄せる機会になったことは、教職員にとっても思いがけない展開でした。

また、リボンの製作では生徒たちが、学年を越えて作り方を教え合いながら進めました。やがて、図書館で帰りのバス時間を待つ生徒や、保健室へ相談に来た生徒が作ってみるというように、委員以外の生徒たちにも広がっていきました。できあがったシトラスリボンは1,000個を超え、ストラップにして、公共図書館や市役所の総合支所、社会福祉協議会、郵便局等に届け置かせていただきました。 

ひとりひとりができることは小さいけれど、自分たちでやってみようと動き出せば、みんなの力で大きなうねりとなっていく。その体験が、「私たちから発信して地域へ広げていこう!」という主体的な声をあげられるように生徒たちを成長させていきます。

本年度、この活動が「おおさき社会貢献大賞 努力賞」(大崎市・吉野作造記念館主催)を受賞し、生徒たちは大きな達成感と自信を得たようです。















(シトラスリボン作り)















                         
  (大崎市松山総合支所へ)
「ほっこりカフェ」でおいしく・楽しく・コミュニケーション

月に1回放課後に学校図書館にカフェがオープンします。「ほっこりカフェ」の取り組みは3年目となります。毎回25人前後の生徒が訪れ、ゲームやおしゃべり、あるいは静かに本を読む等、思い思いにほっこり“したゆるやかな時間を過ごしています。

本校では、ソーシャルスキルトレーニングの場として、また、季節の生活文化に触れ心を育む場として位置付けています。おやつは季節を感じられるものを、自分でひと手間かけるなどしてお腹を満たす経験をしてもらえるように工夫して取り組んでいます。継続的な実施により、普段は見ることができないような生徒の一面や、徐々に自ら片付けを手伝う生徒が現れるなどして、成長の様子をきめ細やかに感じることができます。

現在、運営は学校の組織の中に位置づけられ、教諭、養護教諭、学校生活適応支援員、学校司書が中心となり運営から閉会後の振り返りまでを担っています。

「ほっこり」での様々な体験や図書館で心穏やかに過ごした記憶が、生きていく上で課題を抱えたときに解決のヒントになってくれたらと願っています。


(ほっこりカフェの様子)








 











4 まとめ

本校は蔵書数も少なく、利用冊数も決して多くはありませんが、小さな学校の小さな図書館だからこそ、ひとりひとりの顔が見える関係の中から気付けること、見守れることがあります。社会へ出る前の最後の学校生活となる生徒が多い中、学校図書館との関わりの中からも視野や関心を広げるきっかけを作ることができたらと思っています。

 

      (文責 宮城県松山高等学校 学校司書 大場 真紀)



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