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中学1年生、現代短歌に出会う!

2024-10-07 14:19 | by 村上 |

 ナナロク社が、木下龍也さん選の短歌集の寄贈先の学校を募集する記事をたまたま見つけて、応募したのは、昨年のこと。何の音沙汰もなかったので、抽選に漏れてしまったのだろうぐらいに思っていたら、GW直前に、なんと木下さんが応募したすべての学校に寄贈したいとおっしゃっているので、時間がかかってしまいましたが、これからお送りします…とナナロク社の清水峰子さんからメールをいただきました。

 そして待つこと、2週間。32冊の短歌の本が、送られてきました。どの短歌の本も、タイトルも個性的なら、装丁、字体、紙質、どれもみなこだわりを感じる1冊です。丸テーブルに並べてうっとり見ていたら、そこにやってきたのは国語科の阿部由美先生。同じくうっとりと眺めた後に、この短歌の本を使って1年生に研究授業をすることを決めました。

 本校の1クラスの生徒数は35~36名。いただいた本では若干足りないので、木下さんが影響を受けた、あるいは好きだと公言する歌人の作品も加えて、生徒の人数分を揃えました。最初の授業では、先生がまず、短歌のイメージを生徒に聞いてみます。「昔の歌」「お年寄り」「難しそう」といった言葉があがります。次に、4隅の生徒にじゃんけんをしてもらい、短歌の本を配布する順番を決めます。受け取ったのが、あなたの運命の1冊の短歌本なので、それを眺めて、最も心惹かれた短歌に付箋を貼るように伝えたそうです。

 ところが、返ってきた生徒の答えは、「気になる歌がありすぎて、1首なんてえらべませ~ん」。そこで、クラスカラーの付箋を渡し、気に入った短歌に貼ることにしたそうです。途中司書の私にもその様子を伝えてくれたので、最後の授業は見学に行きました。結果、4クラスの授業が終わったときに、短歌の本は、付箋だらけになっていました。

 この写真を、寄贈してくださったナナロク社の方に送り、研究授業をすることを伝えたところ、「その授業は見学できますか?」と尋ねられました。本校の公開研究授業は、申し込んでいただければどなたでも参加できるものなので、すぐにその旨をお伝えしつつ、授業者の阿部先生からの「ぜひお待ちしています!」というお返事も添えました。

 研究発表会の当日、お見えになったナナロク社の清水さんは授業を見た後、図書館にも来てくださり、話が弾みました。そして、もしかしたら木下龍也さんが、中学生に短歌の授業をしてくださるかもしれないので、お聞きしてみますと嬉しい言葉を残して帰られたのです。

 7月に入り、木下さんから快諾のお返事がいただけたということで、その後阿部先生と具体的な打ち合わせをされ、9月最終週の金曜日に、78回生(中1)に向けて木下龍也さんの特別授業が行われました。ただし、木下さんからは「あなただけの夏休みを歌にしてください」という宿題が出されました。阿部先生からは、木下さんに聞いてみたいことを一つ考えるという課題も。生徒から提出された短歌と、木下さんへの質問は、特別授業の前にもちろん阿部先生から木下さんに送られました。

 当日、生徒の前に姿を現した木下さんを見て、歌人だからきっと年配の方が見えるに違いないと思いこんでいた生徒はその若さにまず驚いたようです。

 特別授業は、生徒の事前の質問に答えるところから始まりました。「なぜ歌人になったのですか?」という質問には、「短歌が好きで、短歌が得意で、自分のつくった短歌に需要があったから」と話す木下さん。どんなことであれ、好きで、得意で、需要があれば、将来仕事として成立する可能性は高いという言葉に、生徒も納得だったようです。

 続いて、生徒の創った短歌は、各クラスから1首ずつ選んで、その短歌の良さを丁寧に解説しつつ、短歌を作るときのコツや、推敲の仕方なども教えてくれました。そして最後に、「この質問に答える形で、今日の特別授業を終わりにしたいと思います」といって、選んだ生徒からの質問は「僕は詩を読んでも共感できません。詩は遠回しにして書かれています。僕はストレートに書いた方が好きです。なぜそのような面倒なことをする道をえらんだのですか」というものです。木下さんのスライドには、こうありました。

    遠回りしないと見えない

    遠回りしないと見せられない

    風景や感情

 50分があっという間に過ぎていきましたが、短歌のお話ではあったけれども、短歌だけにとどまらず、生徒にとっては、いろいろ考えを巡らす貴重な時間だったようです。司書の私もとても贅沢な時間を過ごすことができました。

 授業を終えて、本校の図書館に来てくださって、自著にサインを入れてくださいました。写真もOKとのことで、今図書館には、寄贈された短歌の本とともに、木下さんの写真が掲載されています。尚、短歌の公開授業は、実践事例A0453に掲載していますので、併せてご覧ください。

(文責 東京学芸大学附属世田谷中学校 学校司書 村上恭子)


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