今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校

2024-09-30 13:52 | by 渡辺 |

 今月は東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校をご紹介します。音楽を専門に学ぶ生徒たちが集う学校ならではの蔵書や、閉架書庫に保管されている学校創立以来のさまざまなアーカイブの収集など、普通科高校の図書館ではなかなかみられない所蔵もされています。楽器ケースを持参しながら来館する生徒たちへの配慮も含め、ぜひ司書の藤田さんの取り組みを写真と共にご一読ください。(編集部)


<概要>

沿革

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校は、その名称のとおり東京藝術大学音楽学部附属の研究・教育施設であり、通称を「藝高」といいます。

国立で唯一の音楽高校として昭和29(1954)に御茶ノ水の地に設立されました。

各学年1クラスずつ計3クラスの小規模校のため、より懇切で丁寧な指導を受けられることが特徴です。平成7年(1995)より上野・藝大音楽学部の敷地に移転し、現在に至っています。                                                     

藝高のいま

生徒数110(R6現在)、作曲・ピアノ・弦楽器・管楽器・打楽器・邦楽の6専攻があり、普通科目・音楽科目ともに専任教員が担当するほか、藝大の教員も講師として来校し、生徒たちは日々勉学と音楽レッスンに励んでいます。                                             

今年度(2024年度)は創立70周年という節目を迎え、10月の卒業生によるコンサートを皮切りにイベントが続々と予定されています。11月には本校主催の「創立70周年記念演奏会」が行われ、12月に再び同窓会共催のコンサートで終幕となります。図書室でもこれらのイベントに合わせて、演目に関連する資料や卒業生の著書などの展示を企画しています。

また本校では来年度(2025年度)から楽理専攻を新設します。音楽学という、音楽全般を対象とした学術的な研究の方法を学ぶことができます。

<図書室について>

図書室の場所と設備について

本校の図書室は通称を「藝高図書室」といいます。4階にあり、教室1クラス半ほどの広さです写真2。その1/3ほどをパーティションで区切り、楽曲や演奏についての話し合いもできる多目的の部屋にしています。

入ってすぐ両脇にはコンクール募集要項の配布用パンフレットラックと貸出・視聴用のCDのケースを並べたラックがあり、正面の最も目につく場所が新着資料コーナーです※写真3

特別コーナーの資料を展示する時は、CDラックの上か新着コーナーの隣にそのつど場所を作ります。

休み時間にも一定数の生徒が来ますが、やはり放課後のレッスン前後や帰り際が最も多く、持ち帰りの鞄に加えて楽器の入ったケースを持って来室することもたびたびあります。手に持っていたり背負っていたりする楽器が体の向きを変えてもラックや書架・机になるべくぶつからないよう、入口の周囲とカウンターまでの通り道、閲覧席の通路は物を置かず、できるかぎり広くあけておくことを心がけています※写真3手前

生徒は放課後や休日に東京藝術大学附属の図書館を利用することができます。CDラック横のノートパソコンで大学図書館の蔵書を検索できます※写真3右手前。館内での手間と時間の節約のため、ここで所蔵の有無や貸出可能かどうかを調べてから実際に図書館へ行くことを勧めています。

閲覧席そばには大型テレビやプレーヤーを設置※写真4と5。所蔵するクラシックや邦楽のCD・DVD・レコードが視聴できます。               

 カウンターの後ろの、おそらく開架書架と同じくらいの広さがある手動書庫には、開架から移動した図書・貸出用CD(ディスク本体)・本校の史料・視聴覚資料・楽譜などを保管しています※写真6

 蔵書の特徴

一般図書以外に音楽雑誌・音楽専門書・CD・DVD・レコードを多く所蔵していることが、普通科高校の図書室と最も大きく異なるところだと思います。

また英語の多聴多読活動の一環として洋書を定期的に購入しているほか、ドイツ語やフランス語、中国語など外国語のCD付きテキストを語学コーナーに配架し、生徒がリーディング・リスニングの力を強化するための一助を担っています。

そしてもうひとつの特徴は、以前に藝大附属図書館からの寄贈もあって、音楽高校の図書室としては驚くほど各出版社の文学全集が揃っていること。生徒の豊かな想像力や感性をはぐくみ、また知的好奇心を高めるため、現在も名著・名作・文学賞受賞作を中心として話題になった作品を多数購入しています。通学時間やレッスンの合間に気軽に読めるよう、文庫本の品揃えも充実させています写真4中央

バックヤードの閉架書庫には昭和29年の創立以来、これまでの藝高で行われた各種行事を写真・オープンリールテープ・ビデオテープなどその時代ならではの方法で記録したものを、アーカイブとして保管しています。書庫には楽譜も約6,400点を所蔵、おもに教員の演奏研究に供しています。生徒にも担任の許可があれば貸出可能です(原則として当日返却)。

<図書室の利用について>

授業での利用

邦楽専攻の生徒は洋楽専攻に比べ各学年2~4名と少人数なので、演奏研究の授業は図書室で資料を利用しながら行うことがあります※写真7。室内楽やオーケストラなど洋楽の授業では、楽譜やCDをしばしば貸出しています。

年1回ずつ行われる日本芸能鑑賞教室・オペラ鑑賞教室の時期や、特別授業の予定がある場合、その内容に関連する資料をピックアップして特別コーナーに展示します。一昨年前の特別授業は、藝大准教授で尺八演奏家の藤原道山先生の講義でした。昨年の外国人音楽家の講演時は教育実習生に協力してもらい、講師の出身地であるハンガリーゆかりの作曲家・演奏家の資料を多数展示することができました。 

昼休み・放課後の利用

室内にテレビやオーディオ機器を置いていることからもわかるとおり、藝高図書室は静かに読書・勉強するばかりの場所ではありません。昼休みの短い時間でも放課後でも、生徒たちは図書やCDの貸出・返却、読書、自習をする以外に、楽譜の閲覧や映像の視聴、授業の課題や演奏の打ち合わせなどで数人が集まって話し合う様子がよく見られます※写真8                   

放課後のレッスンの合間に、お気に入りの席でイヤホンを使い音楽を聴きながらイメージトレーニングをする生徒がいるのも、すでに日常の光景となっています。このように様々な目的で利用ができ、読書の苦手な生徒も気軽に立ち寄れる場所なのが、この図書室ならではのことなのだと思います。  -                           

図書委員の活動

ほぼ毎月、図書委員にお勧めの図書についての紹介文を学年ごとの交代制で執筆してもらい、「図書だより」に掲載しています。紹介された図書を昨年度から図書委員コーナーに展示していますが、来室してすぐこのコーナーの本を手に取る生徒が次第に増えてきました。本を借りた生徒たちの話では、同級生や先輩の紹介する図書が心理的に読み始めやすいのだということです。

図書委員も手応えを感じたらしく、自分の書いた文章で紹介した図書をさらに多くの生徒に読んでもらうため、ウェブ配信のみだった「図書だより」を紙に印刷して全生徒に配布したいとの要望が、今年度の初めに彼らから出ました。そこで図書担当の先生方と相談し、現在では図書委員のお勧め図書紹介を掲載する号は、ウェブ配信+印刷物の配布という二段構えになっています(印刷は図書委員が担当)。結果、紙の「図書だより」を持って来室し、目当ての本を借りていく生徒も少なからずおり、図書委員が自発的に計画したことが良い方向に進んでいるようで大変喜ばしいかぎりです。

 <今後の展望と課題について>

これからの藝高図書室

普段から音楽科目の実技試験、演奏会、コンクールのために練習を重ねている生徒たちですが、座学の勉強でもその集中力には本当に驚かされます。しかしこれは気を張っている時間が長いということでもあります。そんな彼らにとって図書室がずっと居心地のよい場所であるよう、これまでと同様に図書担当の先生をはじめ普通科、音楽科の先生方に協力を仰ぎながら、環境づくりをより工夫してすすめていきたいと思います。

楽理専攻新設に向け準備を進めるにあたっても先生方に引き続き相談し、音楽美学や古今東西の音楽などに関する資料を充実させていく予定です。新しく揃える資料を配架するためのスペースを確保するべく、大がかりな書架整理も継続して行います。

各種資料の長期保管について

蔵書の特徴の項ですでに述べたように、藝高図書室では本校創立当初からのさまざまな保存形式の資料を収蔵しています。紙製の資料だけでも相当な数ですが、写真のネガや映像記録も非常に多い。そして閉架書庫にはこうした資料だけでなく国語や英語、音楽関係のかなり古い書籍もあります。これらの劣化を最小限にとどめ、後々まで大切に保管し続けるにはどうすればよいか。東京藝術大学で同種の資料を扱っている施設である音楽学部の音楽総合研究センターや附属図書館の方法を参考にしつつ、この小さな図書室での最善の保管のしかたを考えていくことが、これからの重要な課題であると思います。

(東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校 司書 藤田映里)

    


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