今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京都立八丈高等学校

2025-10-25 07:39 | by 村上 |

 今月は、東京都立八丈高校の図書館を、学校図書館専門員(会計年度任用)の竹花紀俊さんに紹介いただきました。夏の恒例イベントとなった「東京・学校図書館スタンプラリー」ですが、今年初めて、都立八丈高校が参加しました。スタンプラリースタッフ有志数名が、一泊で島に渡り、八丈高校見学をしました。その時の写真を見せていただき、その素晴らしさに感激!ぜひこちらにと、寄稿をお願いしました。島で唯一の図書館は、生徒や先生はもちろん、島民からも愛される素敵な場所でした。


 

都立八丈高校図書館                         東京都立八丈高等学校 学校図書館専門員 竹花紀俊

 

1.都心から300km。東京都立八丈高校と八丈島について

 八丈島は都心から約300km離れた南の海に浮かぶ島です。海路は東京の竹芝桟橋から東海汽船で10時間、または空路では羽田空港からANAの飛行機を利用して55分で八丈島空港へ行くことができます。現在人口は約6,700人、面積は69.11k㎡のひょうたん型をした島です。 名物は明日葉や島焼酎、黄八丈、島寿司、くさや、フェニックス・ロベレニーなどがあります。 

 島内には小、中学校が3つずつありますが、高校は八丈高校1つだけです。

 大学は島にはありません。八丈高校は島で唯一の高等学校で島の最高学府です。

 緑に囲まれ、廊下からは海が見える学校です。生徒たちは八丈小島や八丈富士に見守られながら、学校生活を過ごしています。

 全校生徒は120人で、全日制課程(普通科、園芸科、家政科)と定時制課程が併設されています。

 また東京都立青鳥特別支援学校八丈分教室が同じ校舎内に設置されています。

 これから説明する八丈高校図書館の主な特徴は下記の3つです。

・生徒が集まる場所

・島民に開放された図書館

・島で唯一の役割を多く受け持つ施設

都内の学校図書館とは違った様々な魅力について説明します。

(写真左 廊下からは海と八丈小島)       (写真右 八丈富士が見守っている)

 

 

 

 

 

 

 

2. 八丈高校図書館の魅力

・居心地のいい温かい空間

・八丈島コーナーなど島関連の資料の充実

・多様な進路に対応

・園芸科、家政科の利用に対応した植物やレシピ本、絵本の充実

・島唯一の漫画貸出コーナー

などがあります。(尚、八丈高校の蔵書数は、11月現在、27,018冊。そのうち漫画は、1,584冊です。)

3. 授業利用を増やす取り組み・意識していること

 八丈高校図書館は全日制、定時制ともに頻繁に利用されています。例えば探究学習だけでなく、社会、国語、理科、家庭科、保健体育などの授業でも活用されており、1~6時間目すべて図書館で授業が行われている日もあります。授業利用を増やす取り組みについて工夫している点をご紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

(1)        少人数の探究活動からクラス全体での発表形式まで対応できるレイアウト 本の利用だけじゃない雰囲気づくり

 八丈高校図書館はスペースが限られているものの、空間づくりやテーブル配置を工夫することによって、多くの授業形態に対応できる環境を整えています。

 例えば社会科の探究科目などでは、1クラス15人~20人がまとまって図書館を使います。資料を使い文献調査や新聞を使用して情報収集を行い、大型モニターで発表を行います。教室で調べるよりもテーブルが大きく調査が行いやすく、専用モニターがあり発表の距離感が近くてよいので利用があります。

 また、「国語表現」や「社会探究」、定時制の科目などで選択授業の4~5人で行われる少人数制の授業では、人数に合わせたテーブルや座席を使用することで、教室で行うより討論や意見交換が活発になる距離感で教員と生徒が授業を行うことができるよう工夫しています。

 さらに、八丈高校の特徴的な授業である「八丈学」では、複数のグループが図書館にて学生、教員、島民一つのテーブルを囲んで活発に研究活動や話し合いを行っています。「本を使って調べ物をする」という使い方だけでなく「場所として魅力的なので図書館を利用しよう」となってくれるように日々、その年の授業に使いやすいレイアウトを考えて配置をアップデートしています。

(写真 モニターを図書館内に設置し発表に対応する。話し合うタイプの授業に人気なのが円卓)

 

(2)        いつでも来られる図書館

 授業利用時には事前にTeams上にある施設予約表に入力してもらう方法と、図書館現地の授業利用予定表に記入してもらう方法で、利用情報を共有しています。さらに授業を進めていて図書館を利用したくなった場合や、屋外の授業が天候の変化で移動を余儀なくされた場合など、急遽の利用でも受け入れられる体制を常に整えるように考えています。

 図書館内でエリアが分けられているため複数の授業が同時に進行していることも珍しくありません。活発に話し合うタイプの授業と静かに資料を読み込むタイプの授業が被らないようにできるかなどは事前に担当教員に確認しながら進めています。青鳥特別支援学校八丈分教室の生徒の授業での利用も多くあります。

 

(3)        都立学校横断相互貸借連携を駆使した資料の準備

 探究学習などでの利用時に事前に教員と情報共有を行って必要な資料を生徒が使いやすいように準備しておくことも行っています。

 その際に活用しているサービスが東京都立学校横断検索システムと相互貸借連携です。都立高校全校の図書館所蔵データから横断検索し、取り寄せたい本を見つけます。所蔵している高校に依頼し、八丈島まで郵送で届けてもらいます。八丈島では資料が限られているため生徒の探究テーマに沿った資料をそろえるためにこのシステムを活用し、島の高校生の研究に役立っています。

 また、八丈町立図書館の団体貸出サービスも活用し、町が所蔵している本を高校に取り寄せて活用することもあります。1度に借りられる冊数を今年から50冊まで拡大してもらい授業利用に役立てています。特に町の図書館は絵本などの子供向けの本が充実しており、「保育基礎」などの授業ではよく活用しています。

                               (写真 八丈島・伊豆諸島の本を集めた「島コーナー」)

(4)        まずは普段の教員の利用も増やす

 授業で利用されるためには、教員に図書館へ行きやすい雰囲気を感じてもらうことや、図書館でどんな授業ができるかを日頃から考えてもらうことが大切なので、普段から教員にも図書館に足を運んでもらうことを意識しています。きっかけは趣味の読書の利用でも、雑誌や新聞の利用でも、生徒と待ち合わせや面談での利用でもいいので、教員に図書館は居心地が良くて授業で使いたい場所だと思ってもらえることが大切だと考えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

4.     八丈高校図書館の特徴とたくさんの役割 図書館で出会えるのは本だけじゃない

八丈高校の図書館の島での役割は、たくさんあります。5つの役割について紹介していきます。

(1)        快適な書斎や研究室として

 図書館の面積は限られた小さなスペースですが、最大限に活用できるよう考え広々と使えるようにレイアウトを工夫しています。

 座席数を多くして、利用したい生徒が座れない事態が起きないように、快適に読書や探究学習を行える場所を作っています。また、座席のエリアを多数分割して配置することで、ほかの利用者の目線や動きを気にすることなく読書などの作業に集中できる環境を作っています。

 島には高校生が気軽に立ち寄れるカフェやファストフード店も無く、快適に読書ができる環境として重宝されています。

(2)        自習室として

 八丈島には集中して勉強できる自習室のような施設がありません。例えば、都内のように受験生が通う予備校や、徒歩で立ち寄れる駅前のカフェのような場所も島には無いため、自宅に幼い兄弟がいるなど、自宅以外で学習環境を必要としている生徒にとって高校の図書館は重要な自習環境として活用されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)        最新情報に触れる場所として


 八丈島には雑誌や本を売っている店が数か所のみで日常的に雑誌を見かける習慣が無い生徒もいます。例えば、都会では立ち寄ったコンビニや商業施設に並ぶ雑誌の表紙で流行や最新情報に触れ、新しいことを知る機会が自然とありますが、島ではそのような施設も無いため、高校内で最新情報に触れられる場所としての役割もあります。

                     (写真 雑誌コーナーと司書による今のあなたにぴったりな一冊コーナー)

  (写真 表紙を見せる面出しでの展示)

(島が出てくる情報を書いたPOPを付けた漫画コーナー)

 

(4)        交流・待合所として

 自宅からバスを利用して通学している生徒もいますが、都会のようにバスの運行本数が多数なく、バスが来るまで長時間待ち時間があります。そのため、放課後バスが来るまで図書館で待つ生徒も多くいます。日常的に放課後に図書館へ通う生徒が、待っている間に快適に過ごせるように考えています。

 図書館は学年、クラスを超えて交流できる場所となっています。授業や委員会では関わらない生徒同士が交流でき、意見を交換し、刺激しあう場所として活用されています。そこで新しいことを始めるきっかけが生まれ、高校生活の幅が広がる交流が生まれる場所としての役割もあります。

5.     訪れる生徒を増やす工夫

 生徒が訪れたくなる図書館にするために様々な工夫を八丈高校図書館では行っています。その事例を紹介します。

(1)        ランチタイムでの交流

 図書館内のエリアを区分けして、昼休みには飲食可能のルールにしています。これにより毎日昼休みにお弁当を食べにくるグループが訪れ、その輪が広がり、図書館で過ごす生徒が増えました。

(2)        島が出てくる漫画で島を知る

 八丈島が舞台となった映画「劇場版名探偵コナン黒鉄の魚影」が島内でも大きな話題となり、関連書籍や新聞記事を集めた名探偵コナンの特設コーナーを設置しました。他にも作品に八丈島や伊豆諸島の島々が出てくることがきっかけで漫画を読み始めることができるような工夫をしています。

  漫画コーナーを充実させることで漫画の続きを読むために何度も図書館に来る生徒が増えました。

 漫画を借りていくことをきっかけに図書館の利用が日常的になり学習や進路の本を借りることへ繋がっていく生徒もいます。高校生たちが自分の住む島が好きな作品に登場するという楽しさを味わう体験を通じて読書の魅力と島の魅力を知ることができる環境を作っています。

(写真 名探偵コナン特集コーナー)

     

(3)        こまめなアップデート・模様替えで変化を楽しむ

 意識的に図書館内のレイアウトや展示を大幅に変えるようにしています。それにより図書館の変化を発見する楽しみを感じてもらい、図書館に通う楽しみを増やすことを心掛けています。

(4)       季節感や最新情報を取り入れる

 七夕、クリスマス、体育祭、ビブリオバトルなど季節の展示をこまめに取り入れることで、生徒がイベント感や季節感を体感でき、図書室で過ごす時間にも変化があり楽しめる空間づくりを工夫しています。

 

 

6.     魅力的な図書館にするための取り組み

(1)        部活動のギャラリー

 部活動の活動記録や成果を展示しています。一例として、八丈高校には「写真甲子園」全国大会に4年連続出場している写真部があります。八丈島の美しい景色や全国大会の舞台である北海道で撮影した美しい写真を図書館に展示しモニターでスライドショーにしています。

 

 

 

 

 

 

 

(2)        読書バリアフリー体験セットの展示


 2025年6月には読書バリアフリー体験セットを展示し実際に利用してもらいました。図書を通じて多くのことを体感し考えるきっかけを図書室から取り組んでいます。

(3)        文化祭で古本市を実施

 図書委員会の活動の一環として文化祭で古本市を行っています。八丈島には古本屋が無いため、不要になった本を寄付してもらい、それを有効活用できる人に手に入れてもらう場として非常に重宝されています。

(4)        町の図書館へ図書委員から寄付を実施


 古本市の売り上げの寄付先を図書委員会で話し合って決めています。売り上げで本を買って、町の図書館へ寄贈する取り組みを2年連続で行っています。町の図書館の司書の方から欲しい本リストを頂いて、高校生で寄付する本を選び贈呈しています。町の図書館では高校生から寄付された本コーナーとして人気の本になっています。島全体へ貢献することを目指して八丈高校図書委員は活動しています。

(5)        東京・学校図書館スタンプラリーに参加


 八丈高校の図書館をもっと多くの方々へ知ってもらうために2025年夏に初めて学校図書館スタンプラリーに参加しました。開催校として夏休みに開放し、東京都の多くの私立公立高校と共にスタンプをもらえる高校図書館の一つとして加わりました。はるばる都内から見に来ていただいた司書の方も多く、島外に知って頂ける良いきっかけになりました。島唯一の高校図書館で他校との比較や情報交換が難しい環境ですが、今回初めて都内の高校と一緒に行うイベントに参加したことにより、海を越えて「高校図書館」としての一体感を味わうことができ、とても良い取り組みでした。

(6)        給食コラボで読書へ導く

 定時制では月に一回、「図書コラボ給食メニュー」の日があります。本に出てくる料理が給食に登場し、その本を司書が読み聞かせと解説をする取り組みを行っています。その後図書館に関連書籍の特別コーナーを作るなど、給食を通じて本と関わるきっかけを作る取り組みを行っています。

 

(7)        都立青鳥特別支援学校八丈分教室との交流

 青鳥の生徒も図書館を多く利用しています。図書館ガイダンス時には読み聞かせを行いました。

 また青鳥の作業の実習で図書館を掃除しており、古新聞を縛ってまとめるなどの作業も行っています。

 

(8)        島の共有財産として島民へ開放された図書館へ

 土日には一般開放として八丈島民へ高校の図書館を開放しています。貸出することも可能にしており、絵本や漫画もあることから子供を含む家族連れが利用することも多いです。土日で60人以上来館している週末もあり、魅力的な図書館づくりをして共有財産として高校生だけでなく八丈島全体に還元できるよう活動しています。

 

 

   

 

 

 

 

(写真 絵本コーナーの充実 島民への開放での島の子供たちの利用を意識)

7.     八丈高校図書館が目指すところ

 八丈高校図書館は高校生や島民にとって情報や環境で「人生の栄養として必要なものすべてがある場所」を目指しています。

 八丈島のような離島では、「都会にはあるが島には無いもの」も多く、得られる情報や環境面で物理的に他とは違う困難もあります。ですが、限られた予算で工夫し、高校生に必要なものがすべてそろう場所を目指しています。

 むしろ「都会には無くて島にだけある魅力的なもの」を充実させて、都会から八丈島の図書館を目指して「この図書館がある高校に通いたい」、「この高校に子供を通わせたい」、「この図書館で読書をするために八丈島に住みたい」と多くの人が訪れたくなる場所を作っていけるように日々取り組んでいます。

(文責 東京都立八丈高等学校 図書館専門員 竹花紀俊)


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