今月の学校図書館

こんなことをやっています!

棚の並びはNDC!・川崎市北野書店訪問記

2026-08-27 22:18 | by 村上 |

 2026年8月5日、川崎市幸区にある北野書店を訪ねました。発端は、川崎市の中学校にこの4月から学校司書が新たに7人配置されたことから、勤務校の図書館見学を呼びかけたことです。7月某日、見学に見えた中学校司書はお二人でしたが、小学校司書や、川崎市の学校図書館配置を働きかけてきた市民の方々や図書ボランティアの方も一緒に見えました。その中に、川崎市の学校図書館を応援してきた北野書店の外商部 馬瀬錠治さんもいらしたのです。 

 北野書店は、1947年創業の老舗書店ですが、202512月に思い切ったリニューアルをしました。それが、NDC順に配架した本棚なのです。NDC順に並んでいる一般書店はこれまで聞いたことがありません。リニューアル後、それを知らずにやってきたお客さんは、初めは戸惑うそうですが、目当ての本の周辺に関連する本が並んでいることに気づくと、「本が探しやすい」と好評とのこと。これはぜひ見学して、記事にしたいとお願いした次第です。 


 この日は、約束の時間に馬瀬さんが入り口で待っていてくださいました。そして店内を詳しく説明しながら案内してくださいました。まず最初に目についたのは、フロアマップです。類の説明がとても簡潔です。新刊コーナーもあるのですが、そこもNDC順に並んでいます。新刊の時期が終わると、スリップを確認しながら、それぞれの類の棚に置かれることになります 

 概ねお客様からは好評のNDC棚ですが、一番苦労しているのはどうやらスタッフさんたちのようです。図書館司書ならNDCに関する知識は当たり前に持っていますが、書店というよりむしろ販売の仕事をするつもりで入社したわけですから

(右 フロアマップの写真・下 新刊コーナー) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  棚は上4段が一般書で、下2段が児童書になっています。これまでは、親子連れで来ると児童書コーナーと一般書のコーナーに分かれて本を探していた親子が、一緒に本を探せるという良さが生まれたといいます。学校司書にとっては、児童書と一般書を同時に見て選書ができるという利点があります。書店には取次が各書店の規模や実績に合わせて配本するのが一般的ですが、北野書店は、公共図書館や学校図書館とのつながりがあるので、仕入れは独自に工夫されているそうです。北野書店の棚は、学校司書にとって選書がしやすいと感じるのも当然ですね。
(写真 下 0類の棚)

 そもそも、なぜNDC分類で棚の本を並べるという英断に踏み切ったのかをお尋ねしました。もともと学校図書館向けのサービスに力を入れていた北野書店では、学校図書館向けに展示会を行ってきました。学校図書館に特化して集めた本の展示会は、教職員にとってもありがたいのですが、並べる際のルールが特に決まっていないので、実は探しにくかったのです。そこで、まずは店舗ではなく倉庫で展示会用の本をNDC順に並べてみました。これが先生方に好評だったのですね。そこでリニューアルの際、本店の棚も思い切ってNDC順に変えたそうです。 

 この日も公立中学校の生徒が、先生に引率されて店頭で選定をしていました。北野書店なら、司書教諭と司書が連れ立って選定に来るのも楽しそうです。例えば同じ区内の学校司書・司書教諭が一緒に選書する日を設ければ、自校の蔵書にと新刊を棚から抜くなかで、情報交流ができます。他校で役立っている本の情報を知ることもできます。書店に見計らい本を学校に持ってきてもらうのは、購入の規模からも難しいので、新刊も見ることができる北野書店を利用できるのは、学校司書としてはとても羨ましく感じました。 

 北野書店のユニークさは、これだけではありません。独自の出版物もあります。店内には、川崎市名誉市民で、光触媒発見者である世界的科学者、藤嶋昭先生監修の『目指せ!科学者シリーズ』と『数の図鑑シリーズ』が面出しして飾ってありました。藤嶋先生の、「若い時期の読書や感動が教養を創る」という言葉を体現した、「知好楽シリーズ」の1冊、『中国古典の名言33 』も入り口に平積みになっていました。 

 

 

 そして同じく川崎市在住で昔話研究の第一人者としてご活躍され、今年逝去された小澤俊夫先生が手がけた『かわさきのむかし話を語ろう』が、川崎にまつわる棚にありました。この本は、『復刻版かわさきのむかし話』を読んだ小澤先生が語りのスタイルに再話したものです。むかしばなしは、特定の場所や時代が決まっていないのが特徴ですが、「かわさきの」と銘打ってあるため、しっかりと地名が出てきます。一緒に見学した川崎市の小学校司書さんによれば、どの学校にも蔵書として入っていて、川崎の子どもたちは地元の昔話を聞いて育つ環境にあるそうです。(写真左 「かわさき本」のコーナーで馬瀬さんのお話を伺う)

 

 

 もう一つ特筆すべきは、店内奥の壁面を利用したかこさとしコーナーです。壁にはかこさんの原画複製が飾ってあり、書棚にはかこさんの懐かしい作品から、亡くなられて以降に新たに出版されたものまで複本で揃っています。かこさとしさんは、1926年福井でお生まれになったので、今年は生誕100年です。東大在学中、疎開先で敗戦を迎えた時は19歳。川崎との接点は、1952年川崎セツルメントに活動の場を移した26歳の時です。若き日のかこさんは、文房具類を買いに北野書店に通ったこともあるといいます。(写真右 かこさとしさんコーナー) 

 

 かこさんとは藤嶋昭さんと出会ったことからつながりができました2014には北野書店の呼びかけに応えてかこさんが懐かしの地を再訪したこともあります。今回のリニューアルで専用コーナーがさらに広くなり生まれ変わりました リニューアル前にもかこさんの熱心なファンの方が遠方から来て特設コーナーを見た後にかこさんの描いた多摩川模写と同じ場所に訪れ涙していたそうで 

(尚、神奈川県立文学館で、特別展「生誕100年 かこさとし展 生きるということは、本当は、喜びです」が9月23日まで開催)

 

 北野書店では、学校や地域に向けてイベントも開催しています。訪ねた日は、85日だったので、翌日開催予定の、高校生平和大使による「被爆者の思いをつなぐトークセッション」の準備がしてありました。今は、私立高校の2年生ですが、北野書店と同じ幸区にある川崎市立東小倉小学校の卒業生です。ゲストティーチャーとして、被爆経験者の森政忠雄さんをお迎えするにあたり、森政さんの体験を元に書かれた『聞かせて、おじいちゃん: 原爆の語り部・森政忠雄さんの決意』(横田明子ほか著 国土社 2021)を読んだ北野書店会長の北野嘉信氏が、心に残った一文を抜書きしてありました。(写真下) 
(編集部注 森政忠雄さんは、このイベント終了後の8月21日、逝去されました。急なことで北野書店の皆様には大きなショックだったそうです。心よりご冥福をお祈りします。)

 小さなイベントは、頻繁に行われているようで、近隣の学校から児童が絵本の読み聞かせに来ることもあるそうです。学校の先生からのお声も気軽にかかる関係性が素敵だなと思いました。 

 たっぷり1時間半、店内を案内していただき、地域に根ざした書店がこうして日々頑張っていることを嬉しく思いました。書店経営はどこも決して楽ではなく、それは北野書店も例外ではないそうですが、公共図書館や学校図書館とも連携することで、読書文化を支えていく心意気に感動しました。 

 この日、北野書店を訪れたのは私を含め、3人。それぞれ帰りに購入したのが、『中国古典の名言33 (知好楽シリーズ)』、『イヌとネコのびっくり!数の図鑑』、『未来のだるまちゃんへ』と3者3様だったのも面白かったです。皆さんも、川崎方面にいらっしゃる機会があれば、ぜひ北野書店に足を伸ばしてみてはいかがでしょうか? 

 

文責 東京学芸大学附属世田谷中学校 学校司書 村上恭子 


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