今月の学校図書館
こんなことをやっています!
大阪府豊中市立第十四中学校
2024-12-17 15:18 | by 長友 |
今月は大阪府豊中市立第十四中学校の学校司書、山北郁子さんに学校図書館について教えていただきました。生徒たちに対する資料提供や朝のよみきかせ、教職員への支援など様々な取り組みをご紹介していただきました。ぜひご一読ください。(編集部)
■豊中市における学校図書館の役割
豊中市では1993年度から学校司書の配置が始まり、2005年度には当時の小中学校59校すべてに司書が配置されました。そして現在も1校に一人以上(※1)、専任・専門の学校司書配置が貫かれています。
豊中市は「とよなかブックプラネット事業」(※2)という「学校図書館と公共図書館の蔵書を一体的かつ効果的に活用する環境を整備することにより、児童生徒の読書活動を促進し、自ら学ぶ力を育成することを目的とした事業」に取り組んでいます。その中で、学校図書館の役割が3つ挙げられています。
①児童・生徒の「自ら考え解決する力」を育成する
②児童・生徒が「読書習慣」を身につける
③教員の学習指導を支援し、授業の質を高める
学校司書はそれぞれの学校の教育目標や状況にあわせて活動をしていますが、これらの役割を通して「ふだん使いの学校図書館」を実現することをめざしています。
それでは、豊中市立第十四中学校の取り組みを、学校図書館の役割に沿ってご紹介いたします。
①生徒の「自ら考え解決する力」を育成する【学習・情報センター機能】
中学1年生が世界各国の多様な文化を学ぶため、万博記念公園にある国立民族学博物館へ行きました。校外学習後「世界の国々の文化」について、図書資料やタブレットを用いて調べました。
校外学習をおこなう2週間ほど前に、担当教員から資料収集の依頼を受けました。豊中市の公共図書館には、『総合百科事典ポプラディア』(ポプラ社)や図鑑のセット、テーマごとに資料を集めたサポートパックなど、調べ学習に役立つ資料をまとめた「パッキング資料」が用意されています。その中から、世界の料理、遊び、文化、お金、日本との違いなど幅広い資料を集めた「国際理解」のサポートパックを借り入れました。パッキング資料は、週2回の物流便に乗せて運搬してもらえるシステムも整っています。届けてもらった資料に学校図書館の資料も加えた後、担当教員とともに実際の資料を見ながら活用が見込めるかどうか確認しました。最終的には約140冊をブックトラックに備えて、1年生のフロアに提供しました。
授業の様子を見てみると、タブレットの方が使いやすい生徒もいれば、図書資料の方が調べやすい生徒もいるようでした。担当教員からは「タブレットで調べるのが難しいテーマでも、図書資料でゆっくりと写真を見ながら探すことができていた。図書資料を広げて、班のみんなで内容を共有することができた」という感想をいただきました。豊中市では学校図書館の蔵書を検索できるシステム「とよも」が新しく導入されましたので、今後は生徒自身がタブレットのアプリから資料を探して学校図書館へ借りに行く、という活動を授業と連携して取り組んでみたいと考えています。また、可能な限り学校図書館で調べることができると、さらに多様な視点で資料を選ぶことができると思います。生徒が自分の意思で資料を選び、その資料で学び、課題を解決できるように、学校図書館のネットワークを最大限に活用したサポートをしていきたいと思っています。
② 生徒が「読書習慣」を身につける【読書センター機能】
「読むチカラ」は筋トレと一緒で、ある程度の量を読まないと鍛えられない(※3)と言われています。第十四中学校では、毎朝10分間読書に取り組むことで、学びの基礎となる「読むチカラ」を育みたいと考えています。
第十四中学校は、読書に親しむ生徒が多い一方、苦手な生徒も少なくはありません。そのような生徒も含めてみんなでお話を楽しむ機会を設けるため、朝読書の時間帯にローテーションを組み全クラスで読み聞かせをおこないました。「あくびが出るほどおもしろい話」と「おいしいおかゆ」(※4)を読むと、小さな笑い声が聞こえてくるなど生徒の反応を感じ取ることができました。また、普段は遅刻しがちな生徒も読み聞かせを楽しみにして早く登校してきたと聞いて、とても嬉しく思いました。物語には人の心を動かす魅力があると思います。その力を借りて、生徒を読書の世界へいざないたいと思っています。
学校図書館にはたくさんの本があります。生徒が自分の興味関心にあった本を自由に選び、読書を楽しめるように、中学生の好奇心を支えられる蔵書を構築したいと思います。学校図書館は、生徒のわくわくする気持ちを全力で応援しています!
③教員の学習指導を支援し、授業の質を高める【教員支援センター機能】
豊中市の公共図書館には、教員の授業づくりや学校運営など、仕事のヒントになるような資料を教員支援用資料として収集しています。第十四中学校では、その中から学校の方向性に沿った資料を選んで借り入れて、職員室の机上に展示しています。
どのような資料を選んで展示するかを考えるにあたり、教科書を読んで学習内容を把握したり、実際に授業を見せていただいたり、職員会議や校内研修に参加したりするなど、学校の情報収集に努めています。そうすることによって、学校がどんなことを大事にしているか、どのような課題に向きあおうとしているかが、少しずつわかってくるような気がします。
展示資料を利用してもらったり、コメントをいただいたりすると、次の本選びの参考になります。資料を介してコミュニケーションをとることができる関わりも、大切にしていきたいと思っています。また、絵本や新聞などもあわせて展示して、すきま時間に気軽に読んでもらえる空間を創るように心がけています。これからも教員支援用資料の利活用を通して、教育活動の展開に寄与したいと思っています。
■ふだん使いの学校図書館をめざして
今年度は、図書館教育についての校内研修を開催し、学校の中に学校図書館が存在する意味を、教職員とともに考えることができました。この研修によって、気軽に図書館を利用してもらえる機会が増えていると思います。何より、図書館を活用してほしいという担当者側の気持ちに教職員が温かく応えてくれていることが、とてもありがたいと思っています。今後も図書館活動を通して、教職員とともに生徒のすこやかな成長を支えたいと思います。そして、生徒の「自ら考え解決する力」や「読書習慣」を育むとともに、教員の「学習指導を支援する」ことによって、ふだん使いの学校図書館をめざしたいと思っています。
学校ではたくさんの生徒が学び、さまざまな図書館の使い方があります。知らないことを知る感動、胸を打つ物語との出会い、先人との対話、学年を超えた交流、心穏やかに過ごす時間。学校図書館はそれらをすべて包み込みます。教育力を備える学校図書館(※5)での体験は、生徒にとって、これからの未来を生きていく力になると信じています。
(大阪府豊中市立第十四中学校 学校司書 山北郁子)
※1義務教育学校では前期課程に一人、後期課程に一人、学校司書が配置されている。また、過大規模校には学校図書館補助職員が加配されている。
※2 とよなかブックプラネット事業
〈https://www.lib.toyonaka.osaka.jp/web/toyonaka-bookplanet.html〉(参照日:2024/11/22)
※3『改訂版 学校司書の役割と活動-学校図書館の活性化の視点からー』(金沢みどり/編著,学文社,2024年)の東京学芸大学附属世田谷中学校司書 村上恭子さんの文章を参考。
※4「あくびが出るほどおもしろい話」は『愛蔵版おはなしのろうそく③ついでにペロリ』(東京子ども図書館,2000年)、「おいしいおかゆ」は『愛蔵版おはなしのろうそく①エパミナンダス』(東京子ども図書館,1997年)より。
※5『塩見昇の学校図書館論 インタビューと論考』(塩見昇/語り手,日本図書館研究会,2023年)に書かれている「学校図書館の教育力」7項目の内容を参考。