今月の学校図書館
こんなことをやっています!
埼玉県富士見市立富士見特別支援学校
2025-02-10 10:09 | by 宮崎 |
今月は、富士見特別支援学校のご紹介です。司書の雪竹ますみさんには、以前よみきかせの記事も書いていただいていますので、そちらもご覧ください。富士見特別支援学校では、まだまだ多くの特別支援学校がそうであるように、独立した学校図書館としての部屋がありません。そんな中でも、司書の活動によって学校生活の中に、本と読書がしっかり根付いていることがうかがえます。
富士見特別支援学校は、埼玉県富士見市にある市立の特別支援学校です。
在籍生徒は83名、小学部、中学部、高等部合わせて19クラスがあります。
学校教育目標として『児童生徒の可能性を最大限に伸ばし、自ら生きる力を養い、社会的に自立できる心豊かな人間を育成する』を掲げ、来年度は開校50周年を迎えます。
校内に、大きな学校図書館スペースはありません。生徒の身近に本があるようにするため、学部それぞれに図書コーナーが設けられており、高等部のロビースペースが図書室となっています。その他に、宿泊棟内に学校図書館本部を設け、学校図書のセンター的役割を担っています。学校司書の配置は1名。週3日、1日4時間の勤務です。
①小学部 図書収納
②小学部 図書コーナー
③中学部図書コーナー
④高等部図書コーナー
本校では、知的障害を持つ幅広い年齢の児童生徒がおり、親しまれる本は、赤ちゃん絵本から児童書を越え、一般書までと多様です。また、年齢と知的発達の段階は様々で、同じ学部、学年、クラスでも、全員が同じ教材で同じように学ぶことは困難です。このような状況ですが、本校にはたくさんの本好き児童生徒がおります。
本校の学校図書館活動
本校の活動は、大きく3つあります。
1:本読みの時間(読み聞かせ)
授業開始の挨拶は「これから本読みをはじめます」
これは、「読み聞かせ」だけでなく「自分での読書」までできるようになってほしいという願いが込められています。
現在は、小学部、中学部は全クラスで、高等部では、一部学習グループで学校司書により毎週行われています。1クラス約15分間で3冊~6冊の本を読みます。
⑤小学部での読み聞かせの様子
絵本の絵は、言葉だけでは伝わりづらい内容を直感的に理解させる効果があり、感情や状況を視覚的に伝えることが出来ます。そして、選び抜かれた言葉は、語彙力が増すだけでなく、認知能力や理解力に応じた柔軟な学習を可能にします。また、感情や社会性を育み、コミュニケーションが難しい子どもにも自己表現や共感を促すツールとなります。
現在本校に任用されている学校司書は絵本専門士であり、特に絵本については、児童生徒の発達や学習、そして好きなものに応じた、選書を心がけています。大好きな乗り物や、動物、食べ物の絵本などでは、興味も増すため、教員や司書からの問いかけや、受け答えを加えることにより、言語の発達や、選択の機会を増やすことができます。
この時間を楽しみにしている児童生徒が多くおり、次はどんな本が読まれるのかと、いつも期待を持って待ってくれています。
2:授業支援
各学部に学習内容に応じた本の提供を行っています。
小学部では、教科学習についてだけではなく、食育・衛生・生活、動作学習の導入として、本を活用しています。
中学部では、さらに調べ学習を行います。生徒が調べたいテーマに応じた、その生徒が読めるような内容の本を提供します。生徒の興味は幅広く、毎年テーマも異なるため、学校図書館の蔵書では賄えないこともあるため、その際は公立の中央図書館にも資料提供をお願いしています。
高等部では、修学旅行の調べ学習や情報リテラシーの授業、また職業についての知識を得るための本も提供し使っています。
また、学部だけではなく、教員へ資料提供を積極的に行っています。
授業で利用するための書籍についての相談はもちろん、学校間交流に行く事前授業を他校で行う教員や、障がい理解のための授業を行う教員の為にも資料を提供しています。
さらに、本校は包括的性教育を推進しており、多数の性教育に関わる書籍が多くあります。担当教員と養護教諭と学校司書が連携を取り、必要に応じた資料提供と、読み聞かせなどを行っています。
⑥保健室の常設図書
校内の本の排架場所が複数あるため、教員がテーマに応じた校内の書籍を集めることが難しく、学校司書が資料整備や把握をし、教員と連携をしています。学校司書は、読み聞かせで各学部に出入りをしているため、教員が声をかけやすい状態にあることが、多くの授業支援に繋がっています。
3:読書イベント
本校では10年前から『読書イベント』を行っています。
本の内容を「体感すること」をテーマにしたイベントです。
どのような発達段階でも、本を体感として楽しむことができれば、みんなで同じものをより、共有・共感できるのではないかと思い、発案されたものです。
はじめは、市民文化会館の活動に参加してるアーティストや市民が、音楽や演劇やダンスなどで本の内容を表現しながら、児童生徒とコミュニケーションをとるものでした。
それを見た後に、「児童生徒も一緒に表現する側に立ってイベントができるのではないか」という教員の提案があり、徐々に児童生徒がそれぞれ役割を持ち、参加するようになりました。
そして、「読書イベント」は学校行事になり、毎年7月または12月に年1回行われています。今年度7月に行った、読書イベントでは、小学部は「かみなりのちなつやすみ」というタイトルで、カミナリになってみたり、絵本に出てくるキャラクターたちの真似をすることにより、夏休みを楽しみにするような企画になりました。
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⑨小学部読書イベント
中学部は、星座を学びたいということで、蓄光塗料でみんなが作成し星の図を暗い室内に掲げ、星の説明の本を朗読する『ふじとくプラネタリウム』の体験をしました。
⑩中学部読書イベント
高等部は、2学期の修学旅行で落語を見に行くということもあり、落語体験をしました。落語絵本朗読のメンバーは、声色、体の向き、目線、身振り手振りまで、見事な一席を作り上げることが出来ました。
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また他のメンバーは、「寿限無」という作品に出てくる長い名前を紙に書くことを事前に行い、当日は室内中に隠した紙を探して貼りだし、寿限無の名前の長さを視覚的に体験しました。
寿限無の貼りだしの際、身長や車いすの有無、文字の読み書きや理解など、それぞれの特性を生かし、補い合いながら、自然と場にいる全員が参加しました。お互いの違いを認め、助け合い、学び合う。特別支援学校の中で、一つのインクルーシブな教育が出来ていると感じる瞬間です。
⑭⑮ 「寿限無」発表の様子
本校では、多様な実態と様々なニーズを持った児童生徒がいます。それでも、同じ本を通じて共に笑い、共に考え、共に感動することができます。
そのために、季節ごとの小さなイベント、リクエスト、児童生徒のPOP製作や、本の整備など、たくさんの読書にまつわる活動を行って、本に触れるきっかけづくりは欠かしません。
また、今年度は、市内の学校司書や司書教諭を対象に「『読書バリアフリー』とは特別支援学校だけのことではなく、全ての人に必要である」という研修を行い、本校での取り組みの紹介も行いました。地域の読書バリアフリーの拠点となれるように、市内唯一の特別支援学校図書館は今後も頑張っていきます。
(富士見市立富士見特別支援学校 司書 雪竹ますみ)