今月の学校図書館

こんなことをやっています!

神奈川県立鶴見高校図書館見学記

2025-06-07 12:56 | by 村上 |

 神奈川県立高校は、正規職の学校司書が常駐しています。今回はこの3月で学校司書の田村修さんが異動される県立鶴見高校図書館を見学にいかれた、元狛江市立綠野小学校司書教諭・元東京学芸大学非常勤講師 田揚江里さん、横浜市立末吉小学校司書 朝倉麻樹さん、横浜市立あざみ野第一小学校学校司書 近江弥穂子さんに執筆をお願いしました。(編集部)


 2025年3月24日、神奈川県立鶴見高等学校の学校図書館を訪れました。見学者は6名、学校司書の田村修さんがお忙しい中丁寧にご案内くださり、また図書委員さんとお話しできる時間もセッティングしてくださいました。

 

 

 

●学校図書館

↓田村さんの全身イラスト調立て看板が見える図書館入口

 学校図書館は校舎の2階にあります。入り口では、田村さんの全身イラスト調の立て看板が来館者をにこやかに出迎えてくれています。ドアを開けるとそこはグリーンとイエローで統一された、なんとなく安心してしまう空間が広がっていました。ユニバーサルカラーを意識され、より多くの人が「使いやすい」「わかりやすい」と感じるように、カーテン、壁紙、分類サインなど、目に優しい緑と黄色で色を工夫されたそうです。カウンターを背にして立つと、正面から図書館の奥までまるで一本の大きな木のようなレイアウトになっていて、書架が木の枝のように広がっています。ワクワクするような秘密基地のようでもあり、木の枝がどんどん伸びるように、本を手にとることでどこまでも世界がひろがっていく、そんな素敵な空間でした。

↓木の枝が伸びるように見える書架の配置

 書架には並んでいる本の手前に重ねるように面出しした本もあるのですが、面出しされた本をどかして後ろの本を見つける、ちょっとした宝探しのようでもあります。しかもそこにはしっかり意図と工夫があって、見学者の私たちも本を書架に戻す作業をさせていただいたのですが、どの本を重ねて、どの本を面出しするか、実際にやってみると並べ方で棚の印象が変わるので難しかったです。また分類サインも工夫されていて、例えば「200279 世界を知る」「210289 日本を知る」や、「143悩み」「146メンタルケア」など項目の言葉が利用者にとてもわかりやすく練られた言葉で本も探しやすかったです。(*編集部注 鶴見高校独自の分類・配架に関しては、田村さんから補足いただける予定です。)

↑並んでいる本の手前に重ねるように置かれた本

↑利用者にわかりやすく練られた見出し       ↑戦争関連の本や新聞

 田村さんは学校図書館を活用した学びの広がりも重視し、生徒が主体的に情報を収集、整理分析しながら探究学習を進めていく環境も整えられています。探究学習のテーマに関する資料を充実させたり、情報活用のスキルを高めたりするような支援もされています。探究学習のテーマとして扱う仕事に関する資料については、職種ごとに分類サインがあり、さらにわかりやすいように年度も本にいれてありました。また、「総合的な探究の時間」年間計画表を学年別に作成されていて、1年生は探究のための土台作りとして、情報収集の仕方、レポートの書き方講座などからスタートし、後半は職業について探究学習をしながらプレゼンの仕方なども学んでいきます。情報の収集の仕方を最初にしっかり学ぶことで、情報の量にまけない、情報の量があることを楽しめるそんな高校生を目指しているそうです。

  

↑レポート対策用のブックカート     ↑細かく見出しが入った仕事の本

 このように鶴見高校の学校図書館は、単なる本を借りる場ではなく、生徒の学びが広がり、さらに自身の興味関心を広げられる、魅力あふれる場所です。

 

●準備室・書庫と廊下

 図書館への階段を上ると区切られていても階段の踊り場から、廊下までそこはすでに図書館でした。廊下には廃棄対象となった本や雑誌などが入った書架、歴代の図書委員会発行の「万華鏡」が並び、鉄道ファンの生徒が喜びそうなNゲージジオラマコーナーまでありました。田村さんが育てたグリーンポットも和ませてくれていて、 学校司書が生徒ひとり一人とかかわってきた歴史が感じられます。

↑廃棄対象の雑誌が並ぶ棚

↑ 歴代図書委員会が作成した「万華鏡」が並ぶ廊下

↑図書委員会の活動のひとつが、プラレール班!

 カウンターの後ろドアを入ると、そこは準備室であり、さらにその奥は書庫となっています。準備室は図書委員会の生徒が忙しく出入りし、新しく購入された本の整備を行っていました。小学校では学校図書館ボランティアの保護者が担うような作業を高校ともなると生徒が行うのだと改めて認識。その活動の中から未来の図書館員が生まれる場合もあるようです。 書庫は年代を経た本だけでなく、今の本や学習や読書のための机も置かれていました。

 ここは図書館登校のような生徒の居場所でもあるそうで、もちろん他の生徒も空いていれば利用できますが、外からは利用者がわからないような配慮がされていました。小学校でも学校司書が見守っている図書館登校児童がいます。かつて、保健室登校があるなら図書館登校もあって然るべきだとの考えで学校司書の配置に至った自治体も知っています。 ほかにも、他者には当事者の姿は見えないですが、当事者はその場の情報が手に取るようにわかるという空間つくりがこの図書館には施されていました。これは舞台袖で役者がちょっと休んだり着替えたり、気持ちを切り替えて再び表舞台に登場することと似ているかもしれないです。現在の学校にあっては図書館の役割はまさに多様であると感じました。

↑ カウンターの後ろに見えるのが、司書室

●図書委員会の活動 

 鶴見高校の図書委員会の活動は多岐にわたります。自主的に各自のやりたい仕事に取り組むスタイルで、図書装備はもちろん、広報「万華鏡」班、読み聞かせ班、プラレール班、装飾班に分かれて活動しています。広報班は、年4~5回広報誌「万華鏡」を執筆し、校内だけでなく、地域の読書振興をめざして近隣店舗や中学校などにも配布しています。読み聞かせ班は、文化祭はもちろん書店や図書館、近隣施設でお話会の企画、実施をしています。プラレール班は日常的に図書館前と美術室前でプラレールを展示していて、読み聞かせ班のイベントに同行してプラレールの展示をすることもありました。装飾班は、館内装飾などを担っています。実際、春休み中にもかかわらず、滞在した数時間の間に何人もの生徒さんがやってきて自然にそれぞれの活動を行っていました。図書館を居場所としている感じに、勝手にシンパシーを感じる見学者・・・。そして時に無茶ぶりをするけれど、生徒さんの自主性を尊重して活動の後押しと下支えをされる司書の田村さんの関わりも、とても魅力的でした。

↑図書委員会の活動がわかるチラシ    ↑図書委員が使うものが整理されたコーナー 

何人かの生徒さんには直接お話を伺うことができ、それぞれの活動に情熱を持って取り組んでいる様子が伝わってきました。今後進学して図書館学を学ぶ生徒さんもいて、司書の端くれとしては嬉しく、思わず笑顔になります。自分の好きなことや得意なことを見つけるキャリア形成の場としての図書館の価値を見せていただきました。

 鶴見高校図書委員会の活動は「外へ」とベクトルが向いているのが大きな特徴の一つです。近いところでは校内のあちらこちらに展示や掲示を行ったり、さらには校外へ出て介護施設や公共図書館でお話会を開催したり、広報誌「万華鏡」を近隣の施設に提供するなど、いわゆる未利用者へのアウトリーチサービスや地域連携的な内容となっています。その活動は過去にタウンニュースにも取り上げられ、注目されています。今回は普段の活動の様子を見せていただき、司書の果たす役割を学ぶことができました。

 余談ですが、「小学校との連携はまだないのですね・・・?」というつぶやきから、見学者の勤務する小学校での、鶴見高校図書委員出張お話会の企画が持ち上がり、お互いに嬉しいおみやげとなりました。

(文責 田揚江里・朝倉麻樹・近江弥穂子)


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