授業と学校図書館
授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。
先生のひとこと
読書科の授業で、図書館の歴史を学ぶ
2024-09-01 06:25 | by 村上 |
附属学校司書部会としては、2015年の夏、関西学院中学部の司書教諭で読書科を担当する河野隆一先生をお訪ねし、見学をさせて頂いています。歴史のある読書科の授業や、活発な図書部の活動など、その時も興味深くお話を伺いました。今回は、「読書科」そのものの歴史と、授業で必ず中学1年生が学ぶ「図書館の歴史」について執筆いただきました。(編集部)
勤務校である関西学院中学部はいわゆるミッションスクール。キリスト教主義教育(プロテスタント)を実践している学校です。教育の柱の1つに「読書」を掲げ、「読書科」という特設の教科があります。「読書科」にかかる本校の歴史はおよそ以下の通りです。
- 戦後、初代校長が中心となって、イギリスのパブリックスクールを範とする学校づくり
- 1951(昭和26)年:中学部専用の図書館を設置、初代校長が担当する1年生週1回1学期のみの図書館での授業「生活指導科」を開始、「読書科」のはじまり
- 1964(昭和39)年:司書教諭が着任、「生活指導科」を担当
- 1965(昭和40):「生活指導科」が1年間を通しての授業に
- 1967(昭和42)年:「生活指導科」が「読書科」に改称
- 1976(昭和51)年:「教育の柱」の1つに「読書」が数えられ、「読書科」が3年間(週1)にわたる授業に
現在「読書科」は、「総合的な学習の時間」として、1年生は週1回、2.3年は週2回、すべて学校図書館内でおこなっています。司書教諭が担当していますが、足りない分については、他教科の先生や講師の先生が担当しています。
目標は「自立した探究者の育成」。とくに1年生では図書館と本の理解、2年生では情報の獲得・整理・活用、3年生は総合的な探究を学習内容としています。現行のカリキュラムは図の通りです。
「読書科」ですから、本を読むことをベースにしていますが、その内実は本(メディア)を活用する「探究」の授業です。「探究」の基盤は図書館にある、本(メディア)にあることを意識づけるために、「読書科」では1年生1学期で、いわゆる図書・図書館史を学んでいます。
そのなかで強調することは2つ。1つ目。われわれが生活する日本は、文明の象徴たる図書・図書館において後塵を拝していること。2つ目。時の権力者が図書・図書館を通じて知や情報を独占してきた歴史があること。後者は、次の学習単元である「図書館の自由」につながります。
しかし、中学1年生にとってこの図書・図書館史はかなり理解しにくい単元です。よって、以下のような工夫を施して、授業をおこなっています。
- 「メソポタミア文明」や「くさび形文字」など、社会科で習う内容を援用
- 「パピルス」や「金属活字」など実物を用意
- 「鎖付図書」や「グーテンベルク42行聖書」などキリスト教との関連
- 「ナチスの焚書」など画像や動画などのビジュアル資料を多用
- 国立国会図書館のデジタルコレクションを活用して福沢諭吉『西洋事情』を紹介
この単元のあと、図書館の自由、種別、分類、目録と学んでいきます。探究の基礎、とくに図書館での活用技術や方法を学び、最終的には探究の成果たる「卒業レポート」を完成させることになります。蛇足ながら、「読書科」は定期試験も実施しています。下図の通りです。
なぜ図書館を学ぶのか。なぜ図書館で学ぶのか。「読書科」での図書・図書館史の授業が、それらの答えの1つにつながればと願っています。
(文責 関西学院中学部 河野隆一)
関西学院中学部の活動に関しては、動画も公開されていますので、ぜひご参照ください。
2(読書科)卒業レポートの情報収集【学びのとびら_関西学院中学部の授業】 (youtube.com)