授業と学校図書館

授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。

先生のひとこと

「6年生が運営します!」 公共図書館が小学校の探究授業に協力したら…

2025-07-19 16:16 | by 村上 |

今回は、「授業と学校図書館」ではなく、岡山県真庭市立中央図書館での実践番外編、「授業と公共図書館」です。


 探究授業の一環で、小学6年生が公共図書館を一日運営してみたという『図書館雑誌』4月号の記事を読み、いったいどうしたらそんな面白い企画が生まれ、実施することができたのかを知りたくなり、真庭市立中央図書館の西川正館長と、当時6年生の担任をされていた大硲美穂先生にお話を伺いました。6年生が、どのようにこの活動に取り組んで行ったかを、ご紹介します。

 

岡山県真庭市は、2020年に図書館基本計画の見直しを行い、2021年に「真庭市図書館みらい計画」を策定しました。2022年4月、長く市民参加のまちづくりに関わってきた西川正氏が図書館館長に就任。「市民とともに図書館を育てる」をコンセプトとし、とりわけ、中央図書館は、図書館らしくないあそびの文化づくりに力を入れ、本の貸し借りにとどまらない、幅広いイベントや企画を行っています。

【2024年 6月】

真庭市立勝山小学校から、6年生(36人)の探究授業に、図書館として協力してもらえないだろうかという依頼が、真庭市立中央図書館にきました。先生たちと図書館の職員がわいわい話をするうちにどんどん盛り上がり、そこから「丸一日、図書館の運営を子どもたちに任せてみたらどうだろう」という構想が生まれました。

【7月】

大硲教諭が、「図書館を一日運営してみないかという話があるけれど、どう思う?」と子どもたちに投げかけたところ、「やりたい!」という声が多数上がり、プロジェクトがはじまりました。

【9月】

図書館にやってきた6年生に、西川館長は「真庭市民のうち、本を借りる人は1割に過ぎません。私たちは、図書館に来たことがない人にぜひ来て欲しいと思っています…」と本音で語りました。それを聞き、6年生たちは、自分たちに何ができるか考えました。しかし……、「餅つきをしたらよいのでは?餅つきをしているところにはいつも人が集まっているし…。」「ラップバトルやゲーム大会…」 大硲先生は、まだまだ自分ごとにはなっていないクラスの様子が気になりました。

6年生たちは、企画提案に向けてさらにクラスで話し合いますが、どうも自分たちがやりたいことが優先され、テーマである「本を借りてもらう、来たことがない人に来てもらう」というところから外れてきてしまいました。そこで、ターゲットをしぼることに。お年寄りという意見も出ましたが、身近にいる小さい子ども達(こども園から小学校3年生)に決定。そこから、子ども達のやりたいことと、西川館長の思いをすり合わせ、テーマに沿ったものにするにはどうすればよいか、一気に話し合う内容がテーマに沿ったものになり、絞られていったそうです。

【11月】

6年生たちが、企画書を持って、図書館にプレゼンテーションに行きました。お弁当販売、カフェ、絵本の読み聞かせ、スタンプラリー、ヤキイモ、アニメ上映、スポーツも! 担当してくれる司書と課題になりそうなことを相談しながら、最終的には、子どもたちが決めていきました。

企画が通った後は、準備や練習をする期間に。学校で話し合い、準備をしていく段階では、「何をすればいいですか。」「何個用意すればいいですか。」と受け身の姿勢が見られたので、その都度大硲先生は、「どうすればいいか話し合おう」と声をかけました。

【12月】

企画書に沿って、具体的にすべきことがはっきりしたところで、準備する物を買う費用はどうするのかという問題が出てきました。校長先生に相談したところ、「PTA会長にお願いして、PTA会費からだしてもらってはどうだろう」というアイデアが。全てのグループが予算を出し、代表の児童がPTA会長に電話でお願いをしました。PTA会長から承諾をもらった時は、子ども達から拍手と歓声があがったそうです。

【2025年 1月】

子どもたちはイベント以外の時間は、カウンター係、館内の案内係、そして館長係の活動に分かれることになりました。そこで、まず全員にカウンター業務を体験してもらうことにしました。カウンター業務を楽しんでいた子もいれば、本気で覚えようと頑張っていた子もいましたが、クラスの中には人と関わることに苦手意識をもっている子もいました。司書さんたちは根気強く、一人ひとりに寄り添って、丁寧に説明してくれました。

イベントタイトルは「集まれ!!中央図書館~勝山小学校6年生が運営します~」に決定。自分たちでチラシをつくって、まちのあちこちに配布、店先に貼ってもらいました。

また、本番を前に、勝山小学校のすぐそばにある「こども園」にも協力してもらい、アニメ上映のグループは、小さい子はどんなアニメが好きなのかリサーチをしたり、スポーツグループは、自分たちの考えたメニューが小さい子ども達が実際にできるのか、どんな反応があるのかを事前に試していました。

子どもたちは、「こども園」で小さな子たちと一緒に過ごし、遊ぶ中で、仲良くなるにはどうすればよいのかも考えました。自分たちが予想していた「自分から話しかける」「質問をする」ということを実践しましたが、「何も話さなくても一緒に同じことをして過ごす」「他愛もない会話をする」「一緒に楽しむ」ことも大切だということに気づきました。

【2月】

本番を前に、それぞれ担当するイベントごとに最終確認。館長希望者は3人。「館長って何するの?」とのことで、西川館長と「館長会議」をしました。「まずは、にこにこしていること。来館者・スタッフの様子をよく見て、必要があれば手助けすること。終わったらみんなに『お疲れ様、ありがとう』を言うこと。そしてVIP対応!(笑)」

本番1週間前には館長担当の3人は本庁を訪ね、教育長に当日の来館を呼びかけました。教育長からは、クラス全員分の名前入りの「辞令」が3人に手渡されました。

【本番】

当日、「早番」の子たちが待ちうける図書館に、開館と同時に次々と親子連れが集まって来ました。お弁当販売は長蛇の列。二階では、絵本の読み聞かせをし、さらに手作りのクッキーを配ります。三階のシアターではアニメ上映。こちらも満席。館長さんたちは、マスコミや教育長の応対に。みんな本番になると顔つきが違います。カウンターの貸出・返却業務も緊張しつつも交代で一生懸命担ってくれました。予想を遙かに超える人の数に、何とかこの場を自分たちの力で乗り切らないとという思いで、どのグループも必死でした。結果、子どもたちの声であふれかえる一日となりました。

【3月】

「振り返りの会」をしました。みんな「楽しかった」と言ってくれたのですが、スライドに合わせて、用意した文章を読み上げる様子に「本当に楽しかったのかな?」と心配になった西川館長。でもそれは杞憂でした。発表後に、おとなしめの男の子が近づいてきて「カンチョー、めっちゃ楽しかったよ」と小声で教えてくれたそうです。西川館長からは「普段見かけない親子がたくさん来てくれました。みなさん、本当にありがとう」と感謝の言葉が伝えられました。

「探究学習としてこれでよかったのかどうかはわからないけれど、子どもたちは、何をするかを決める自由と工夫する時間、そして『本番』があれば自分で動いて行くものなのだと改めて思った」というのが、西川館長の感想です。そして何より、子どもたちと出会い、仲良くなれたことが一番嬉しいことだったそうです。


今回のイベントに伴走した大硲先生にも、担任の視点から改めて感想をお聞きしました。

 この年から始まった「勝山未来学習」では、子ども達の「やりたい」「思いを叶えたい」「地域のために役に立ちたい」という思いを大切にしながら、題材を設定し、学習を進めたいと考えました。6年生にとっては初めてのことだったため、学習を始める時には、「こんなことしてもよいのかな」「こんなことはできない」等の消極的な考えが目立っていました。また、「次は何をすればいいですか。」と受け身の発言も多くありました。そのため、「自分たちで話し合って、決定して、準備もすること」「困った時にはいつでも相談にのること」を伝え、徹底することにしました。友達同士の人間関係も色々あり、途中でけんかになること、話し合いが頓挫してしまうこともありました。

 館長さんの「何でもしてもいいよ。基本的に何でもOK」という言葉に子ども達のアイデアがふくらんできました。企画発表の時の館長さんや司書さん達の具体的なアドバイスや質問、業務を教えてくださるときの姿勢、一緒に考えてくださる姿を見て、子ども達は本当に自分たちでやらないといけないということがわかったようでした。その頃から子ども達の本気が見られるようになりました。「図書館に行かせてください」「これをするために時間をとってください」「これをしたいからみんなに協力してもらいたいです」といった積極的な姿が見られるようになりました。けんかをしている場合ではない、みんなで協力しないとできないという感じでした。だんだんと友達同士がつながっていったのを感じました。

 子ども達と一緒に考えたテーマ以外に、担任としてもっていたテーマが「人との関わり」でした。このテーマは、あえて担任から子ども達に伝えず、学習を進めていきました。図書館の方との関わり、子ども園の子ども達との関わり、ポスターを貼るときに協力していただくお店や施設の方との関わり、地域の方との関わり、当日来館してくださる方との関わり等、たくさんの人との関わりの中で、人との関わりについて考えてほしいと思っていました。活動が進んでいく中で、本を薦めたり、図書館に来てもらうように呼びかけるには、小さい子や地域の方と仲良くなることが大事だという考えが出てきました。そのためには、挨拶を自分からすること、自分から話しかけること、たわいもない会話ができること、話しをしなくてもただ一緒にいるだけでもよいのではという考えも出てきました。今の6年生にとっても大事なことであり、これから大きくなっていく中でも大事なことだという話しをしました。

 本番では、これまで散々話し合ってきたテーマや、人との関わりを実践しようと意気込んでいた子ども達でしたが、終わった後に、「本を紹介する、人との関わりを実践することも頭から消えるくらい必死だったが、やりたいことができて楽しかった」という感想がありました。自分たちの思いを叶えることができ、やりたいことを思い切りやりきることができ、これでよかったと思いました。自分たちがやりたいことを実現でき、それを自分たちでやりきることができると、子ども達は本気になるのだとあらためて感じた学習でした。


 以上、お二人の原稿をもとに、学校と公共図書館が連携した、素敵な探究活動の様子をレポートしてみました。このような活動が、今後も増えていくことを願っています。

(東京学芸大学附属世田谷中学校 司書 村上恭子)

 

 


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