授業と学校図書館

授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。

先生のひとこと

埼玉県立高校5年次研修の試み 〜国語科における学校図書館の活用〜

2026-03-14 06:37 | by 村上 |

 2025年3月まで埼玉県立高校の学校司書をされていた木下通子さんより、埼玉県立高校の国語科の先生を対象とした5年次研修が、学校司書との協働を目指した内容であることをお聞きしました。そこで、その研修を企画・実施している指導主事の佐瀬正伸先生に「授業と学校図書館」への執筆をお願いしました。

 写真は、5年次研修をうけて実施された、埼玉県立狭山清陵高等学校の国語表現「背表紙川柳」の生徒作品です。(編集部)


「国語科における学校図書館活用の具体化を目指した研修の再構成」

埼玉県立総合教育センター 指導主事兼所員 

佐瀬 正伸

 埼玉県では、教員のキャリアステージに応じた「年次経験者研修」を体系的に実施している。初任者研修をはじめ、5年経験者研修や中堅教諭等資質向上研修などを設け、教職経験の段階に応じて専門的知識や実践的指導力の向上を図っている。5年経験者研修は、教職経験4年前後までの教育実践を基盤に、教育の基本的事項を改めて捉え直しながら専門的知識・技能の充実を図ることを目的とした研修である。県教育委員会が主催し、総合教育センター等で実施されており、対象は原則として教職経験5年目の教員で、全員が受講することとなっている。

埼玉県では、この5年次研修の教科別研修(国語)において、「国語科における学校図書館の活用」をテーマとした研修を実施している。学校図書館は、生徒の読書活動を支える場であると同時に、授業における学びを豊かにする重要な学習環境でもある。本研修では、学校図書館を授業づくりの中でどのように生かすことができるのかを具体的に考え、実践につなげていくことをねらいとしている。

 例年は講師を招聘し、講義とワークを組み合わせた形式で行ってきたが、受講者にとって有意義な学びの機会である一方、学んだ内容が実際の授業へ十分に結び付いていない側面も見られた。学校図書館の活用は、その必要性や魅力を理解していても、授業の中でどのように位置付ければよいのか具体像が描きにくく、「やりたいと思っていたができていなかった」と感じる教員が少なくないのが実情である。

 そこで今年度は、テーマとの整合性を一層高めるとともに、国語科教員が授業の中でより主体的に学校図書館を活用できるよう、研修内容の精査および再構成を行った。再構成に当たって重視したのは、図書館活用を「知る」ことにとどめるのではなく、学校司書との協働を通して授業の具体像を描くことができる場を設計することである。

 本県では、すべての公立高等学校(盲学校以外の特別支援学校を除く)に専任・専門・正規を前提とした学校司書が配置されている。こうした環境の中で、教員と司書が授業づくりを共に構想することができれば、学校図書館は読書活動を支える場にとどまらず、情報収集を起点として多様なものの見方・考え方に触れ、活字や長文に向き合いながら思考を深めていく学びを支える基盤となり得る。また、憩いの場や居場所としての機能も含め、学校図書館がもつ多面的な価値を授業と結び付けて捉え直すことは、国語科における言語活動の充実にも直結する。

 今年度の第2回(非集合型)研修では、午前中の時間を活用し、「国語科における学校図書館の活用」をテーマとしたプログラムを実施した。受講者には事前課題として、国語科の単元を題材に、所属校の司書と協働しながら簡単な授業案を作成することを求めた(図1)。授業案の表現形式は自由とし、各校の実情に応じて無理のない範囲で取り組めるよう配慮した。意図したのは、教員側が抱えがちな「図書館で何をすればよいか分からない」「司書に何を相談すればよいか分からない」といった心理的な壁を越え、協働の第一歩を踏み出す契機をつくることである。

     【図1】事前課題の内容

 

研修当日は、作成した授業案を持ち寄り、グループで共有・協議したうえで、仲間から得た気づきを踏まえて案を再検討する流れとした。受講者の振り返りからは、図書館活用のイメージが広がったことに加え、話合いを通して授業案が具体化したという実感が多く見られた。例えば、当初は構想段階にとどまっていた案が、他者の意見や問い返しを受ける中で学習の着地点や活動の手順が明確になり、実施可能性の高い形へと練り直されたという声があった。授業づくりの協議そのものが、授業内で求められる「意見の構築・再構築」に通じる営みであると捉え、今後の授業で試みたいと考える教員も見られた。

 また、司書との協働に関する振り返りも特徴的である。相談を通して、授業と結び付く資料の提案を受けたり、生徒の学習過程を共に想定したりする中で、自分だけでは見えなかった視点が得られ、授業案の解像度が高まったという声が多く聞かれた。教員側が図書館を「読書の場」に加えて、「教材をよりよく理解・活用するための場」として捉え直すに至った点も重要である。さらに、「これを機に積極的に連携したい」「2学期に実践し検証したい」といった記述も複数見られ、研修が授業実践への具体的な一歩を後押ししたことがうかがえる。

 図書館活用の具体的なアイデアとしては、点検読書や味見読書といった読みの手法、活字とマンガ等の媒体を比較しながら批判的に読む活動、図書館で「情報を集めたい」「集めなければならない」状況を授業内に設定する工夫、授業で作成した本のポップやチラシを図書館に展示する取組など、多様な提案が共有された。図書館の活用は読書活動の充実にとどまらず、情報へのアクセスや精査、読みの深化、表現活動の充実へと広がる可能性をもつことが改めて確認された。

 一方で、授業実践へ確実につなげていくためには今後の課題も残る。図書館活用は意識しなければ機を逸しやすく、時間割や単元進度の制約の中で後回しになりがちである。今回の研修で生まれた意欲を一過性に終わらせず、学期内に小さく試し、振り返り、次の実践へとつなげていく支援が求められる。また、教員と司書が「どのような学びを実現したいのか」という目的を共有し、協働が継続的に行われるよう、事例の蓄積と発信の在り方についても検討を深めていきたい。

 本研修は、学校図書館の活用を特別な取組として位置付けるのではなく、国語科の授業づくりの中に自然に織り込み、言語活動を深めるための選択肢として捉え直すことを目指したものである。図書館は、生徒が多様な情報に触れ、読みを更新し、学びを広げていくための重要な学習環境である。教員と司書がそれぞれの専門性を生かしながら協働する授業づくりが、各校の日常の中に確かに息づいていくことを期待したい。

 

(参考)受講者提出課題




 生徒の作品例

 

司書さんがだしてくれたアイデア

 

 


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