授業と学校図書館

授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。

先生のひとこと

今の時代にあえて『手描きで学ぶ 地図トレーニング』

2026-05-13 15:57 | by 岡田 |

2026-05-10 12:26 | by 岡田 |

書籍の魅力をお届けしたく、著者の教員に直撃インタビューをお願いしました。

 本校の地理教諭 栗山絵理先生が『手描きで学ぶ 地図トレーニング』を古今書院から出版しました。GPS などデジタルが中心となった教育現場において、あえて「紙」という媒体に「手描き/手書き」で取り組む地図教育の意義を提案する一冊です。日常的に本校で図書館授業を取り入れている栗山先生に司書がインタビューをお願いしました。

『手描きで学ぶ 地図トレーニング』栗山絵理 2026 古今書院 ISBN978-4--7722-5365-9

https://www.kokon.co.jp/book/b674410.html

Q1.実際ワークに取り組んでみると、普段とは違う脳の部分がすごく働く気がして「地図脳」という言葉をはやらせてもいいぐらいだと(笑)思いました。ご自身ではどのように感じていらっしゃいますか。
 
A1.そうですね、「地図脳」とは素晴らしいフレーズだと思います! 今後流行っていくと嬉しいです。本書には「地図脳」を鍛えるトレーニングがたくさん掲載されています。私も大学の講義で最初の15〜20分間に本書のワークを3つくらい実施して解説をしていますが、毎回とても良い「脳のトレーニング」になることを実感しています。解説が終わると軽く運動をした後のような清々しい気分になります。読者の皆さまにも、その爽快感を味わっていただきたいと思います。
 
Q2. 司書として調べてみたのですが類書があまりない分野だと改めて思いました。本書の位置づけや、他の地図・地理関連書との違いについて教えてください。
 
A2.既に手に取っていただいた方々にも「類書がない」と評してもらうことが多いです。また、地理教育の「臨床の書」と評していただくこともあります。地理教育の理論や実践を解説している書籍は多いと思いますが、実際に「書き込み/描き込み」をしながら理屈を学び、技能を習得するという書籍は少ないかもしれません。私は将来、『参加型の地図帳』を作ることが夢のひとつなのですが、本書も「読者参加型の書籍」として位置付けていただけたら嬉しいです。
 
Q3.表題の「描」が赤字になっています。キーワードに「手描き/手書き」という二つの言葉が並んでいますが、「描く」と「書く」をあえて両方取り入れた意図はどこにありますか。
 
A3.一般的には「書く」を使うと思いますが、地図は「描く」ものだと思います。私のイメージでは、「書く」は記録や記載をするという左脳的な動作であり、「描く」は絵画や空間的なものを想像する右脳的な動作です。これらの2つの動作を「地図」をベースに統合していくことができると思います。そして、読者の頭の中に空間的な要素を思い描き、「頭の中の地図(メンタルマップ)」をトレーニングして欲しいという意図もあります。
 
Q4.学大附属高校の地理授業現場で、本書の内容につながるような印象的なエピソードがあれば教えてください。
 
A4.毎年、地理の初回の授業で、2つの手描き地図の学習を体験してもらっています。1つは「通学路」の地図、もう1つは「世界地図」を描くというものです。不思議とニヤニヤしながら地図を描いている高校生が多いです。手描き地図の学習は、私が初任の頃から実施しており、「いつか皆さんの手描き地図を分析して地理教育に応用したい」と生徒たちに伝えてきました。手描き地図の学習を面白がってくれて、地図の掲載を快諾して応援してくれた高校生のおかげで本書が完成しました。当初は「通学路」と「世界地図」の2つのスケールの間には何らかの相関関係があると仮説を立てていました。しかし、実際に分析してみると、この2つのスケールの手描き地図の情報量には強い相関関係がないことがわかりました。そこで、2つのスケールを頭の中で繋げるトレーニングが地理教育において必要だと考え、このような章立てで本書をまとめました。読者の皆さまには、「マルチスケールの地図」を頭の中に思い描けるようになってもらえたら嬉しいです。
 
Q5.学大附属高校生徒が実際に書いた地図が掲載されていますが、どのような視点・基準で選ばれたのでしょうか。
 
A5.主に63期生に協力していただき、1年次と3年次で経年比較ができる事例かつ論文等に掲載されることを承諾してくれた生徒の事例を掲載しています。本当は協力してくれた全員のものを掲載したいところですが、その章で説明したい事柄の事例として最適なものを選んで掲載しています。
 
Q6.スマートフォンで行き先を検索し、矢印に従えば目的地に着ける時代になりました。その一方で、いま改めて「地図の多様性」が必要だと考える理由はどのような点ですか。
 
A6.近年、スマートフォン上の地図アプリがとても便利だと思います。デジタル地図はそれ自体大いに活用すべきだと思います。一方で、デジタル地図が使用できない状況に陥った時に、周辺の地図が頭の中で思い描ける人とそうでない人では行動に大きな差が出ると考えます。例えば、防災訓練をすると地図上で現在地を特定できない人が多いと聞きます。私は、地理の学習を通じて、まずは地図上で現在地を特定できるようになって欲しいと感じています。さらに、あらゆる地図を見て、頭の中に地図情報を蓄積していって欲しいと考えています。そして、「マルチスケールの地図」を頭の中に思い描ける人が増えたら良いと思います。
 
Q7.まえがきに「将来教職を目指す大学生のべ100名以上」とありますが教育実習生に見られる、地図や地理に対する意識の変化や気になる点についてはいかがでしょうか。
 
A7.さまざま個性的な教育実習生を見てきましたので、一概には言えませんが、真面目な大学生ほど、まず「正解」を知りたがるように感じます。世の中には「正解」のない事柄もたくさんあります。教科書にも「正解」があるとは限りません。大学とは「正解」が明確でない事柄を研究課題として追究していくところだと思います。また、高校の教育現場でも「正解」のない課題に取り組む「探究活動」を指導しています。本書も第11章を除いて解答を掲載していません。まずは自分の頭で考えてみることが大切です。本書を読むことで、すぐに「正解」を探しすぎない練習にもなるかもしれません。
 
Q8.地理授業で本校の学校図書館を毎年活用してくださって感謝しております。学校図書館活用のいい点、おすすめポイントなどをぜひ教えてください。
 
A8.学校の図書館はさまざまな本との「出会いの場」だと思います。本校の図書館は快適な空間作りとおすすめの書籍コーナーが秀逸です。また、気軽に本を手に取ってみることができる点が図書館の良い点だと思います。私の本も実際に手にしてみていただくと、あらゆる工夫に気づいていただけるかもしません。ぜひ、図書館に足を運んで、本書を手に取ってみてください。

 本書はワークを重視し、多様な手法を通して地図の楽しさを体験できる構成になっています。高校生が描いた 4,000 枚以上の地図、そして 100 名を超える教育実習生の「地理授業」を見てきた経験をもとにまとめた、実践的なメンタルマップの本でもあります。スマートフォンで地図を見ることが当たり前になった今、最後に手描きの地図を作成したのはいつだったでしょうか。教職課程で地理教育を学ぶ大学生だけではなく、本書の参加型・演習形式のトレーニングは、知性を刺激したい社会人や高校生にも新たな気づきをもたらします。ぜひ手に取って皆さんご活用ください。

                    (東京学芸大学附属高等学校 司書 岡田和美)


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