今月の学校図書館

こんなことをやっています!

兵庫県立視覚特別支援学校図書館紹介

2021-11-30 09:51 | by 村上 |

 これまで、いろいろな学校図書館を紹介してきましたが、今回初めて視覚特別支援学校の図書館について、司書の森下洋平先生にご執筆いただきました。



 兵庫県立視覚特別支援学校は、弱視や全盲といった視覚障害を持った児童生徒が通う学校です。幼稚部から高等部、また高等部専攻科理療科という鍼、灸、指圧、あん摩マッサージの国家資格を取るための学科まで幅広い年齢層の生徒が通っています。自宅からの通学が難しい児童生徒は寄宿舎に入り、学校生活を送っています。

 今回は本校の図書館の紹介をさせていただきます。
 
 
































 本校の図書館は大きく分けて、一般図書(拡大本を含む)、点字図書、音声図書の三つの図書を扱っています。




















 一つ目は一般図書です。弱視の児童生徒や教員が授業の資料として使うことが多いです。その中でも一番人気があるのはDVD付きの図鑑です。大きな図説に加え、音声と映像を見ることもでき、文字を読みにくい児童生徒でも楽しむことができます。
  幼稚部や小学部の教員が拡大図書をよく利用しています。中学部や高等部の生徒がよく利用する拡大本もあります。(写真左下)
  













※拡大本とは、視覚に障害のある人のために文字を読みやすい大きさに書き直した本の事です。
  基本的にこれらの拡大本はボランティアから頂いており、多くの方の善意によって成り立っています。また、もっと大きく表示したい時には、拡大読書器を使うこともあります。(写真右上)

 そして、本校が扱う図書の二つ目が、全盲の児童生徒へ向けた点字図書です。
 
 
 
 これらの点字図書も、拡大本と同様に多くはボランティアによる点訳や、寄付によって成り立っています。
 三つ目が、デイジー図書(音声図書)です。
 
 
 人気があるのは、副音声付きの映画のデイジー図書です。また理療科の生徒は国家試験へ向けての試験勉強にデイジー図書をよく使用しています。























 図書館ではデイジー図書を聞くための機械「プレクストーク」の貸し出しもしています。
  これらのデイジー図書も、拡大図書、点字図書と同様に、ほとんどがボランティアから頂いたものになっています。
 視覚障害者用のための電子図書館である「サピエ図書館」「点字絵本の会」から点字図書データのダウンロードをする場合や、ボランティアから点訳データをメールで頂いて、図書室の点字印刷機で印刷し、製本することも多くあります。 
      
(写真左下=プレクストーク     写真右下【点字印刷機(左)とモニター(右)】















  また、触る図書資料も扱っています。幼稚部や小学部低学年の児童生徒は、触る絵本や音の鳴る本をよく利用しています。
     
 














調べ学習をするPCには「PC-Talker」という音声読み上げソフトが入っています。
 













これからの課題と役割

 
 点字図書、拡大図書、デイジー図書のほとんどが、ボランティアに頼っている部分が多いです。お陰様で読書感想文などの課題図書などは毎年そろえることができています。しかし、話題の本や、流行りの本、児童生徒からのリクエストなどは、すぐには対応しにくいのが現状です。また点字図書はどうしても巻数が多くなるので、すぐに書架が埋まってしまいます。【写真右 ボランティアさんから届いた点字図書など】

 解決策として、今後期待していること、積極的に取り組んでいきたいこととしてICT機器の利用があります。ICTの普及に伴い、本校でも点字使用の児童生徒一人に一台、「ブレイルメモスマート」という機器を配布しています。
 
 これは、点字図書、デイジー図書をデータとして何十冊も取り入れることができます。大量の点字教科書や、何冊にもわたる物語を、これ一台で持ち運びできることになります。今後、電子書籍はますます普及していくことと思います。それに伴って点字図書、デイジー図書もデータとして必要な児童生徒へ届けられるようなっていって欲しいと考えています。また最近では「聴く読書」「オーディオブック」というものが普及しています。本校では児童生徒に一人一台ずつipadを用意していますので、学校としてこうしたオーディオブックなども活用できないかと思っています。

 そして、児童生徒が学校の図書館を気軽に利用することで、将来に向けて視覚障害者が利用できる本の種類や、図書館サービスを知り、自ら発信して図書館を利用できるスキルを身に付けてほしいと考えています。熱心に点字本を借りていき「このシリーズが読みたい!」とリクエストしてくる中学部の生徒がいる一方で、読書に興味のない生徒や、資格試験へ向けての勉強が忙しく、なかなか読書にまで手の回らない大人の生徒など、人それぞれです。しかし、児童生徒は卒業後の方がはるかに長い人生を送ります。いつか、点字図書やデイジー図書を利用したいと思う日が来るかもしれません。学校の図書館という身近な存在である利点を生かして、折にふれて児童生徒が授業等で図書館を利用した時や、ふと立ち寄った時に様々な図書の種類を紹介し、インターネットの図書館(サピエ図書館や点字絵本の会)の存在や、地域の点字図書館でも本が借りられることを伝え、人生の楽しみの一つとして、図書館の存在を意識づけしていきたいと考えています。
(文責 兵庫県立視覚特別支援学校司書 森下洋平)


 様々な場面で学校図書館が児童・生徒の学びを支えていることがうかがえます。そこで、森下先生に、具体的にはどのような場面で使われているのかお聞きしてみました。以下がお返事です。



 幼小学部では校内歩行の途中や図書の時間で図書館にやってきます。入室時の挨拶の練習もかねて「失礼します。」と言って入ってきてから自分で絵本や音の鳴る本、触る本を選びます。先生と一緒に絵本を選んで読み聞かせをしてもらうことも多いです。気に入った本があれば、そのままカンターへ持ってきて、「本を貸してください。」「ありがとうございました。」と本を借りる練習もします。音の出る「えいごにほんごおうたえほん」「音の出るどうぶつ図鑑」「のりものずかん」は人気で、いつも順番待ちです。

 小学部高学年になってくると、社会や理科などでの調べ学習で使うことが多くなります。小学部6年生は1学期に「水」について調べたいと図書室に資料を探しに来ました。図書館には「点字毎日」という点字新聞もあり、点字図書と合わせて借りていくこともあります。またSDGsについての調べ学習でも、一般図書と点字図書、インターネットを使って調べ、学習を進め、文化祭で調べた内容を掲示していました。最近はDVDの「おしごと図鑑」を見て、どんな職業があるかを調べていました。

 中学部ではコロナ感染症の影響で、お家や寄宿舎の自室で過ごす時間が増えたため、本を読む機会が増えたという生徒もいます。よく本を借りる生徒は幅4cm、高さ28cmくらいの点字本を4冊~6冊ずつ、週に一度借りていきます。ハリーポッターシリーズや探偵物が人気です。重複障害のある生徒は、自立活動の時間などで訪れ、数の本やマナーの本などを先生と一緒に借りて、奥のテーブルで読んだりします。

 高等部では調べ学習で来ることが一番多いです。特に修学旅行の下調べなどで、旅行雑誌や、ディズニーの本などをよく読んでいました。また文化祭ではラジオ劇をするのですが、その台本となる物語を探しに来ていました。

 高等部理療科では国家試験へ向けての過去問題集や、デイジー図書を借りに来ることが多いです。またデイジー図書を聞くためのプレクストークという機械を借りていく生徒もいます。
 学部、学年を問わず、自分で作った点字の文章を印刷しに図書室の点字プリンターを使ったり、作業学習の時に、印刷した点字用紙を、製本し点字本を作るといった体験をしたりします。


 2019年6月には「読書バリアフリー法」が制定され、障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現が謳われていますが、学校のなかにある図書館はその要となりそうですね。貴重な記事を執筆いただき、ありがとうございました。
(東京学芸大学附属世田谷中学校司書 村上恭子)



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