今月の学校図書館

こんなことをやっています!

長野県 軽井沢風越学園のライブラリーが脈打つとき

2022-12-12 13:24 | by 富澤(主担) |

 今月は、軽井沢風越学園について、学校のこと、建物の真ん中にあり、とても風通しの良いライブラリーのこと、そこでの学びと遊びについて、2020年の開校から携わる司書教諭の大作光子さんにご執筆いただきました。学校図書館の在り方には、その学校が大切にしていることが強く結びついていることを改めて感じます。



.学校概要・ライブラリーの基本情報

 軽井沢風越学園(長野県)は,幼稚園と義務教育学校の約290名の子どもたちが通う,2020年度に開校したばかりの学校です。幼稚園から9年生までの12年間を通じて暮らしと学びの接続,教科とプロジェクトの学びを大切にしています。学校図書館(以下,ライブラリー)は,校舎内に広がるようにして書架があるため次の4つのエリアに区分しています。















「絵本・遊びエリア」・・・幼稚園から2年生くらいまでの子ども向け絵本や童話,遊びから発見につながる

「読みものエリア」・・・3年生以上くらいの子ども向け物語・小説などの文学(9類)

「探究エリア」・・・知りたい・調べたいこと,ワクワクする気持ちを応援する(0類から8類)

「創作エリア」・・・生き物の観察・実験などから表現することにつながる(4類,5類,7類の一部)

 図書は日本十進分類法で分類されていますが,各エリアは0類から順番に配架されていないところもあり,子どもたちの活動に合わせて置かれています。ライブラリーは子どもたち・スタッフが読む,調べるのみならず,創ることにつながる場所だと考えており,屋内と野外,遊びと学び,個別と共同,学校と地域を緩やかにつなぐハブでありたいと考えています。



 現在の蔵書は約32,000冊,子どもたちが授業で書いた作品が閲覧可能な電子書籍が共有・公開可能なRomancerクラスルームを導入,図書館システムはLibMaxクラウド版により4年生以上はOPAC利用可,職員は専任司書教諭1名,嘱託司書(常勤)1名体制で運営しています。


.子どもたちの暮らし・学びと学校図書館

(1)幼稚園の暮らし・日常には本があります。園児は雨でも雪でも日中屋外での生活をしており,そこで出会う生き物や事物に心が動きます。朝と帰りのつどいの時間には1冊ずつその時々の絵本が読まれます。

 










 義務教育学校の国語の授業のとりくみで小・中学生がライブラリーに来た園児に絵本を読み語ることがあります。「どんな本を読んだらいいかな?この間はむずかしすぎたみたいなんだよね。」と,子どもたちが絵本選びの相談に来ることもあります。













(2)授業の文脈に寄りそうライブラリーの利用指導

 12年生は週に4回ライブラリーの時間があります。読書や作家(書くこと)やことばの時間です。この時,担当スタッフと共に子どもたち向けの本を選書してブックトラックに集めたり,授業の中で子どもたちに読み語ったりしています。












 中学生の理科「科学者の時間」の担当スタッフからは,地学分野の学習のために準備した「問い」に子どもたちがライブラリーの本を使って学んでいけるようにしたい,という相談がありました。そこで私から,提示された「問い」に関連する本をどのような視点で選書しているか(蔵書構成),問いに対して本の種類が適切かを判断するには?という内容をミニレッスンしました。











 その後,子どもたちはライブラリーの探究エリアに行き,仲間と相談しながら本を選ぶと理科室に戻り,一人でじっくり読んだり,ノートにまとめたり,隣の人と話しながら調べたりしていました。先人たちに学び,自らの知をつくることを時間をかけて実感していきます。

 








 
現在は固定的な情報活動の授業というかたちではなく,各授業の必要性に応じて,子どもたちがライブラリーを賢く自分の学び繋げられる人になれるよう意識して実践しています。


(3)地域とのつながり

 ハブとしてのライブラリーでは,これまで町内にある軽井沢書店でのP O P展示と書籍の販売,町内の学校や軽井沢町立図書館とのPOP交流,バリューブックス(V B:上田市),藤原印刷(松本市),美篶堂(伊那市)との手製本など,地域の本にまつわる専門家と本を子どもたちにつなぐ取り組みをしてきました。










           
⇧藤原印刷さんと本の解体ワークショップ


               軽井沢書店さんでのPOP展示と書籍販売⇨











⇦美篶堂さんと手製本ワークショップ

 それは,子どもたち
に本の文化をまるごと伝えたいという想いがあるからです。著者だけではなく,出版社,編者,印刷,製本,書店,図書館など,さまざまな人々の願いがあって本があることを実感を伴いながら知ってほしいのですね。そして,子どもたち自身も知をつくることができる,文化の担い手であることに自信をもってくれたらいいなあ。

探究を支える選書・蔵書構築

 開校時に約2万冊だった蔵書は110ヶ月を経て1万2千冊以上増えました。国語・ライブラリーの時間に寄りそう本として,絵本,童話などの読みものはシリーズの続編を除いてほぼ目を通して選書しています。日本語表現として出会ってほしい言葉であるか,読後に明るい未来を想像することができるか(時に葛藤や深い考えを呼ぶものであるか),総合芸術としてつくり手の想いを感じられるかなどを大切にしています。

 ノンフィクションでは,一つのキーワードから子どもたちの探究はどのように広がるかを予想し,子どもが有する知識や関心の浅い段階から深い段階という視点と本の性質として入門書か専門書であるかという視点を四事象で捉えるようにしています。例えば,「色」をキーワードにすると,絵の具の色と光の色の違いに始まり,どうして目は色を区別するのかという人体の仕組みや動物の見え方との違い,花火はどうやって作れるか,色の名前はどうやって決めているのか,世界の色にはどのようなものがあるかなど,という問いが広がることが予想されます。入門的な本でも子どもの深い探究に応える本もありますし,知識が浅い段階でも絵本などで専門的に書かれている本もあります。蔵書構成比率のバランスは正直悪いですが,それよりも子どもの好奇心に応える蔵書を構築するための選書を意識しています。










.司書教諭と学校司書と教員とのゆるやかな連携・協働

 開校して3年目にして常勤の司書を迎えることができました。司書教諭が授業や校務で校内を“回遊”しているようになればなるほど,図書館業務を安定して担える専門職の存在が欠かせません。先に実践紹介をしたように,情報の活用を体系的に学ぶ授業はありませんが,できるだけ多くの授業を見て子どもに関わり,そのことを元にしてスタッフや司書と話すように心がけています。あるスタッフから「Eさんがフードロスとか食料問題に関心があって,プロジェクトを伴走してみようと思うのだけど,どんな資料を読んでおいたらいいかな?」というレファレンスを受けたときは嬉しかったですね。資料提供のその先に,スタッフ一人一人の学び・授業づくりをエンパワーできるライブラリアンでありたいと思います。ライブラリーは学園の心臓のような存在で,今日も遊びと学びを循環させていきます。

(軽井沢風越学園 司書教諭 大作光子)

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