今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京大学教育学部附属中等教育学校

2016-12-04 06:54 | by 村上 |

 今月は、同じ国立の附属学校つながりで、親交のある東京大学教育学部附属中等教育学校の司書教諭 勝亦あき子先生と学校司書の菅瑠衣さんに、図書館の紹介をお願いしました。近年、探究学習を核として学校図書館活用が急速に進んできた様子を詳細なレポートで紹介いただきました。


1.概要


 東京大学教育学部附属中等教育学校(以下、東大附属)は、全校生徒数約720名の中高一貫校です。毎年男女60名ずつ合計120名が入学し、2年ごとにクラスと担任を替えながら、中高6年間ほぼ同じメンバーで過ごします。本校は双生児研究を行う「ふたごの学校」でもあり、1クラス40名あたり約7~8名が双子の片割れです。長年、生徒個々の興味・関心を重視し主体性を育む学習活動を展開してきましたが、10年ほど前から協働学習も全面的に導入し現在に至っています。

 東大附属の図書館は蔵書数約3万冊。年間貸出冊数は約6千冊で1日あたりの平均来館者数は約100名です。授業での活用も増えており2015年度の授業利用回数は300時間を超えました。


2.卒業研究を支える図書館


 ここでは、本校の教育課程上の大きな特色である卒業研究のおおまかな流れと、卒業研究のために生徒がどのように図書館を利用しているかをご紹介します。

 本校では30年以上ほぼ同じ形で卒業研究を課しています。5・6学年の生徒は全員、1年半かけて自ら立てた研究テーマに取り組み、16,000字以上にまとめる「卒業研究」を提出します(卒業要件)。教員も全員体制で卒業研究を担当し指導します。

   まず、生徒は4学年の終わりに卒業研究のテーマを決めなくてはなりません。このテーマを決めるためには3人の教員を説得し、承認印をもらうことが必要です。毎年2月になると、校内のそこかしこで教員を呼び止め、懸命にプレゼンしようとする4学年生徒の姿がよく見られます。

 図書館ではテーマ決めのために本やインターネットで情報検索をしてノートに記録する生徒の姿が見られます。教員の助言で調べ物に来る生徒もいますが、テーマが決まらず困った表情で漠然と相談しに来る生徒もいて、カウンターの司書が相談に乗ることもしばしばです。

  5年生からは卒業研究が本格的にスタートします。授業は5・6年通して毎月1回設定され、生徒はここで指導教員に毎月進捗状況を報告し、教員から助言を受けます。生徒はパソコンでA4の紙1枚分の小レポートを作成し、この報告に備えます。5年生の1月には4800字の中間報告書を提出して中間発表会を行い、6年生の7月に卒業研究本体と1600字の要旨を提出します。その後9月に発表会を行い、10月の文化祭で全員分の卒業研究を展示・公開します。
 卒業研究の授業前日頃から当日昼頃まで、図書館には報告用の資料を作成するために多くの生徒が来館し混雑します。だいたいは家庭で書いてきて、印刷する時に少し手直しを加え、その後プリントアウトする生徒が多いようです。また卒業研究が終わると図書館に来て文献を探しに来る生徒もいて、ここでも司書が相談に乗り活躍します。
  1月の中間報告や7月の提出直前ともなると、生徒の姿は更に多くなり、互いに情報交換して製本の仕方を確認したり、目次や注などの書式や印刷方法を司書に相談したりする姿がよく見られます。ノートパソコンは争奪戦となり図書館内は大混雑です。期日に卒業研究を完成させて提出しないと進級・卒業に関わるため、生徒も必死です。
  提出日の6年生の表情を見ていると、卒業研究には全員で行うからこそ得られる独特の達成感があるようです。こうした卒業研究に打ち込む先輩達の姿を見て「すごいなあ」「大変そうだなあ」とつぶやく下級生もおり、先輩の背中は後輩達のよきモデルとなっているようです。

 図書館に上級生がやって来て真剣に頑張る姿を多く見かけるようになったことで、図書館全体の雰囲気が前向きに引き締まり、下級生達にもよい影響を与えていることを実感しています。


.学校図書館による探究的学習や授業支援


  東大附属の学校図書館では2009年度以降、蔵書資料の電算システム化、校内ネットワークの図書館内無線化、ノートパソコン配備(20台)というように、活用型の学校図書館への変革が少しずつ進んでいました。そして2011年度から2013年度にかけて教育学研究科の根本彰教授(当時)に協力し、学校図書館を核として卒業研究など探究的な学習の支援のありかたを探る実践研究を行いました。

   当時、本校に在職していた東京大学図書館の司書と共に行った図書館改革の取り組みが契機となり、多くの生徒や教職員が来館・利用することで、本校の図書館は名実ともに活用型の図書館として生まれ変わり、2012年度には貸出冊数が前年度の3倍と大きく伸びました。

  2015年からは、本校の後期課程生徒に東京大学図書館の利用証を発行し、東京大学教育学部図書室をはじめ本学図書館を利用できる制度が整いました。現在は利用証の発行については本校図書館が窓口となり、本当に利用する意味があるかを確認した後に、教育学部図書室に発行手続きを依頼していますが、この制度を利用して卒業研究で東大図書館の蔵書資料を借りる生徒も見られるようになってきたため、今後更に利用指導を工夫したいと考えています。

 2014年度以降、残念ながら週35時間の非常勤体制になってしまいましたが、現在本校での図書館業務を担っている学校司書も、公立校での司書や司書教諭の経験を活かしレファレンスや授業支援にあたっており、授業のために区立図書館に参考資料の貸出依頼をするなど、精力的に仕事をしています。


  概要でも述べたように、本校では2015年度に年間約300時間以上の授業で図書館が利用されました。教科や学年、授業の目的により、その活用方法は様々ですが、現在ではほぼ全学年が授業で図書館を活用しています。図書館が授業のために参考資料を揃え、様々な学年・授業で活用されるようになると、「図書館は調べ物をしたりレポートを書いたりする場所」という認識が生徒に定着します。このように図書館での授業が日常化するにつれて、本校では、授業で来館しただけではしゃぐような生徒は見かけなくなりました。現在では、授業計画における当然の選択として図書館を活用し、授業を行う教育実習生もいるほど、図書館の学習センター機能は生徒・教職員に認識されています。


4.生徒自身による新たな活用が生まれる、居場所としての図書館


   一方図書館側では、授業のために来館する生徒に様々な形で読書促進のためのアピールを欠かさないようにしています。授業に来た「ついでに」本を借りたり展示を眺めたりする生徒も多く、再訪のきっかけとなる情報を得ているようです。本校では、2012年度から新着図書やリクエストへの回答、新聞や雑誌、娯楽的要素の強いコミックやライトノベルをあえてカウンター付近に置き、司書と生徒とのやりとりが生まれやすい動線にすることで生徒のニーズを把握するように努めています。図書館の面積が広くゾーニングを行いやすかったため、静かに集中する空間と対話する空間、娯楽要素の強い空間と学習要素の強い空間のメリハリをつけながら現在に至っています。

   このエンターテイメントゾーンは昼休みの時間帯ともなると中学生で一杯になりますが、実は授業の空き時間に図書館で自習する高校生も息抜きのために訪れ、しばらく新聞や雑誌を眺めたり司書と雑談したりしてから、また自習に戻っていきます。こうした生徒の居場所としても図書館はおおいに活躍します。このため、保健室やカウンセリングルームともゆるやかに連携し、本の情報交換を交えながら「フツー」に過ごす思春期の生徒の日常を見守っています。

 最近では部活動に打ち込む生徒が週末の試合のトーナメントを調べに来たり、文化祭のポスターデザインの図案を探しに来たり、ちょっとした調べ物のために生徒が来館することが増えています。

 今年流行したのは、来館する生徒に向けた簡単な意識調査です。「二つのポスターのうちどちらのレイアウトデザインがよいか」など、二者択一でシールを貼って回答できるような形式のポスターを自作し、司書の了解を得てカウンター近くに掲示します。卒業研究の予備調査の一つとして行う場合もあるようです。

生徒自身が新しい図書館の活用方法を編み出す場面は今後更に増えていくことでしょう。

5.おわりに


 本校の図書館では、教科教育や教育実践演習、教育実習などで多くの学生が訪れる機会も大切にしたいと考えており、機会を見つけて活動場所として提供するようにしています。

 目的のある人もない人も、真面目に過ごしたい人も、休憩したい人も、すべての生徒や教職員を迎えるのが学校図書館の本来の姿です。そして多様な人が訪れることで学校図書館は更に居心地のよい空間に変わります。居心地のよさを感じる人が多ければ、居心地を悪くしないゆるやかなマナーも自然と発生します。特に教職を志す学生の方には、ぜひ学校図書館に多くの人が来ることで様々なよい効果が生まれ、循環していくことを知ってもらいたいと思います。

 授業準備で新聞記事を探しに来て、コピーをしながら空き時間の生徒の進路相談に乗る先生、ネタ探しや指導案の印刷に来る教育実習生、お昼休憩で司書室にお弁当を食べに来た後、しばし歴史小説を楽しむ事務職の方、ゴミ回収に来たついでに本のリクエストをくれる用務員さん、通り道にしてくれる先生まで、多くの生徒と教職員の協働によって本校の図書館は今後も成長し続けます。


参考文献:


根本彰「東京大学附属中等教育学校における探究学習と学校図書館」『カリキュラム・イノベーション 新しい学びの創造へ向けて』 東京大学教育学部 カリキュラムイノベーション研究会 編(東京大学出版会 , 2015年10月 pp.92-93


『公開研究会記録 中等教育における卒業研究カリキュラム -学校図書館サービスを視野に入れて-』東京大学大学院教育学研究科生涯学習基盤経営コース 図書館情報学研究室 2014年3月 111p.


(文責 図書館運営委員会 司書教諭 勝亦あき子)


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