平安時代のあやしい物語

2020-09-06 14:49 | by 宮崎(主担) |

日本史を勉強する6年生に、学んでいる時代に合わせて、文学作品の紹介をするブックトークをしています。物語のなかで登場人物と一緒にその時代を体験することで、歴史の教科書に書いてあることがぐっと身近に感じられることがあると思うからです。今回は平安時代です。

 

6年生のみなさん、社会科でやっている日本史の勉強は楽しいですか? 歴史の勉強って、何年に何があって…とか暗記と思うと面白くないけど、その時代を身近に感じられるとぐっと面白くなります。それには、その時代の物語を読むのがいちばん! その時代の登場人物をよく知ると、ずっと昔のことも遠い世界のこともぐっと身近に感じられますね。

 

そこで今日は、平安時代をより身近に感じられる物語を紹介したいと思います。平安時代のお話には、鬼や幽霊、妖怪のような不思議なものがたくさん出てくるのが面白いところです。まずは平安時代に書かれた短いお話を読みますね。(『超訳日本の古典 今昔物語 宇治拾遺物語』(学研)より「幽霊をしかりつけた宇多上皇の話」を読み聞かせる)

どうですか? なんだかすごくカジュアルに幽霊が出てきて、平安時代の人には、不思議なものがたくさん見えていたのかなと感じられますね。ここに描かれている宇多上皇は実在の人物で、平安文化の基礎を築いた天皇だったそうです。その宇多天皇の若い頃を描いた物語がこの『天邪鬼な皇子と唐の黒猫』(渡辺仙州 ポプラ社)です。

この物語は、宇多天皇の残した日記のなかで、猫をかわいがっていたというエピソードをヒントに描かれたようで、まだ天皇になるという運命も知らずに質素な暮らしをしていた皇子・定省(さだみ)が、急に天皇となった父から黒猫を譲り受けるところから始まります。猫なんか好きでもないのにと文句を言いつつ、なんだかんだ熱心に猫の世話を焼くツンデレな様子がおかしくて定省という人が好きになってしまいます。でもこの物語の面白さは定省のことだけではありません。

もっと面白いのは黒猫自身の物語なのです。実は物語の語り手はなぜか人の言葉を操れる黒猫。海の向こうの唐の国で大きな町のボスネコだったのに、うっかり人間につかまって日本に来る船に乗せられ、土産として天皇に献上されてしまったのです。ちょっと『ルドルフとイッパイアッテナ』(斉藤洋 偕成社)のようで面白いのですが、俺様としたことが、とぼやきつつ、マイペースに周りの猫と渡り合いながら勢力を広げていく黒猫が本当にいいキャラで、しかも大きな秘密を持っています。この秘密が明かされていくのも、読みどころなのですが、ここはネタバレしないようにして、皆さんには故事成語事典を近くに置いて読むのをお勧めしたいと思います。

 

さて、怪しい黒猫の次は、化け狐の登場です。『きつねの橋』(久保田香里 偕成社)では、一旗あげようと源頼光に仕え、チャンスをうかがっている平貞道という若者が主人公です。ある日化け狐が出て皆が困っているという橋で、見事きつねを捕まえるのですが、結局逃がしてやることになり、葉月と名乗るその白狐と縁を結びます。そして葉月の怪しい力を借りたり、逆に助けてやったりもしながら、貞道は様々な困難を乗り越えていくのです。この平貞道も実在の人物で、大江山の鬼退治で有名な源頼光の4人の従者「頼光四天皇」のひとりです。『今昔物語』に出てくる「牛車に負けた豪傑」のエピソードや、幼少時代の藤原道長を助けるエピソードなどもあり、平安時代をもっと知りたくなること間違いありません。作者の久保田香里さんは、歴史物語をたくさん書いていて、枕草子で有名な清少納言に仕える少女を描いた『もえぎ草子』(くもん出版)なども平安貴族と庶民の暮らしをくっきりと描いていてとても面白いです。

 

さて、きつねが出てきたのも橋でしたが、最後に紹介するのは鬼が出てくる『鬼の橋』(伊藤遊 福音館書店)です。自分のせいで妹を死なせてしまったと失意の日々を送る少年篁(たかむら)が、妹の落ちた古井戸から、あの世とこの世を隔てる三途の川にかかる橋に迷い込んでしまうのです。ここで篁は、死んでなお鬼から都を守っていたあの征夷大将軍坂上田村麻呂に出会い、地上へ戻ることができます。この主人公の少年篁というのも実は実在の人物小野篁で、優秀な役人だったのですが、昼間は朝廷で仕え、夜は地獄で閻魔大王に仕えていたという伝説が残る不思議な人物です。また、篁が都で出会うもう一人の主人公みなしごの少女阿子那と角を切られた鬼の飛天丸の二人のきずなが本当に切実で胸に迫ります。鬼としては人を喰いたいけれども人間になりたい飛天丸が、寝ている阿子那を前によだれを垂らしながら必死に我慢するシーンは、今大人気のマンガ『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴 集英社)を思い起こさせます。鬼滅のセリフで有名になった「生殺与奪の権」という言葉も出てきて、もしかしたら作者はこの作品に影響を受けているのでは?と思いました。鬼滅ファンの人にもそうでない人にもお勧めしたい物語です。見た目は地味ですが、面白くてぐいぐい読める本です。

 

ほかにも陰陽師安倍晴明が活躍する『風の陰陽師』(三田村信彦 ポプラ社)など、平安時代の物語には、ちょっと怖くて不思議な物語がたくさんあります。ぜひ読んでみてくださいね!
(東京学芸大学附属竹早小学校司書 宮崎伊豆美)



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