オリエンテーションでのブックトーク
2021-04-10 06:20 | by 村上 |
今月は、オリエンテーションで行ったブックトークを再現しました。テーマは「図書館」です。
みなさんにとって、身近に本があることは当たり前のことかもしれません。でもそれって、誰にとっても当たり前だと思いますか? この本『わたしは10歳、本を知らずに育ったの。』(合同出版 2017)は、内戦や貧困のために、小学校に通えなかったり、身近に図書館がない子どもたちのために図書館を作り、翻訳絵本を届ける活動を30年以上してきたシャンティ国際ボランティア会の方が書いた本です。この本によれば、今読み書きができない人は、世界に7億5000万人いるそうです。そのうちの7割がアジアの人たちで、63%が女性だと言います。もし読み書きができなかったら、誰かに何かを伝えるには、話し言葉や絵や映像に頼るしかありません。いっさい文字を使わずに学び続けることがどんなに困難なことか、想像してみてください。
アジアの貧しい地域に暮らす女の子は、無償の労働力と考えられ、教育は必要ないという考え方がいまだに残っている地域があるそうです。昔の日本も同じような考えの人がたくさんいました。シャンティ国際ボランティア会では、こういった地域に図書館を作り本を提供するだけではなくて、読み書きができるような援助や、図書館を運営していくノウハウを、地域の人に学んでもらう活動もしているのです。
東京学芸大学附属国際中等教育学校で、学校司書をしている渡邊有理子さんは、難民キャンプで図書館づくりをされた経験を持っていて、当時のことを書いた本が、「図書館への道』(すずき出版 2006)です。こちらもぜひ読んでほしい1冊です。
以前本校に来ていただき、当時の活動についてお話していただいたことがあります。渡邊さんは、お母様が文庫活動をされていて、それこそ小さい頃からたくさんの本に囲まれて育ってきた方です。見知らぬ土地で、言葉も十分通じない人たちを相手に図書館をつくることに不安はなかったのですか?と伺ったときに、「子どもの頃から大好きだったおさるのジョージやのねずみのぐりとぐらが一緒に行ってくれると思えたから、思い切って飛び込めた」と話されたことが忘れられません。
幼いときに出会った大好きな絵本は、その後の人生を励ましてくれるし、良質な絵本は、国境を超えて子どもたちを楽しませてくれるのだと、あらためて絵本の力を感じました。
同じように、貧しい地域の子どもたちに本を届けたい、教育の機会を保障したいと考えた人がいます。それが『マイクロソフトでは出会えなかった天職:僕はこうして社会起業家になった』(矢羽野薫訳 ダイヤモンド社 2003)を書いたジョン・ウッドです。彼は、中国マイクロソフト社で働くエリートサラリーマンで、何十億ものお金を動かし運用するという仕事をしていました。たまたま休暇で訪れたのが、ネパールの山奥の小学校。生徒数は450名。校長先生が校内を案内し、図書室も見せてくれたのですが、そこには本が一冊もありません。「本はどこにあるのですか?」と尋ねると、校長先生は鍵のかかった戸棚をあけ、旅行者が置いていったおよそ小学生にはふさわしくない本を見せ、悲しそうに、「これでは子どもたちに読書の習慣をつけることはできません。」とつぶやきました。そして「あなたはきっと本を持ってきてくださると信じています。」と言ったのです。この一言が、ジョン・ウッドのその後の人生を大きく変えました。高い地位も給与も、さらには恋人にも別れを告げ、貧しい地域の子どもたちが、学び続けることができるしくみを作ることこそ、自分の使命だと信じ、その活動に邁進したのです。2000年、ジョン・ウッドは、Room to Read というNGOを立ち上げました。21年後の今、その活動はさらに大きなものとなっています。
すべての人が無償で本が読める公的な「図書館」が現在のように当たり前にどこにでもあるようになったことに、とても大きな影響を与えた人がいます。『図書館を心から愛した男』(アンドリュー・ラーセン=文 カティ・マレー=絵 志多田静=訳 六曜社 2017)として絵本にもなっているアンドリュー・カーネギーです。スコットランドで機織り職人として働いていたカーネギーのお父さんは、織物が工場で安く作られるようになると、生活がたちゆかなくなり、カーネギーが13歳の時、一家でアメリカに移住します。学ぶことが大好きだったカーネギーも家族を支えるために働き始めますが、もっと多くのことを学びたいと思っていました。そんな時に、働く若者のために、私設図書館を提供してくれたのが、ジェームズ・アンダーソン大佐です。毎週土曜日、カーネギーはこの図書館に通い詰めました。
この図書館でたくさんのことを学んだカーネギーは、のちに鉄鋼王と呼ばれるほどの大成功をおさめました。仕事で得た莫大な利益を、自分を成功に導いてくれた「図書館」をつくることにつぎ込みました。1883年、最初の図書館を生まれ故郷のスコットランドの村につくると、その後なんと世界中にカーネギーは2500もの図書館を作ったのです。21世紀の今も、その多くが、本を貸し出し続けています。
最後に紹介するのは、この本『デンマークのにぎやかな公共図書館』(吉田右子著 新評論 2010)です。みなさん、図書館って静かにしないといけない場所だと思っていませんか?特に公共図書館は、たくさんの人が利用するから、声を出すと、司書の人に注意されてしまうかもしれませんね。でも、私は本来図書館というところは、静寂が支配する必要はないのでは、とずっと思ってきました。だから、この本のタイトルを初めて見たときはとても嬉しかったのです。そして、読んでみて、これこそ私が思い描いてきた図書館だと感じました。実は、世中の図書館も、にぎやかな図書館だったのです。昨年から、新型コロナウィルスの感染防止のために、図書館での会話が制限されていますが、そうはいっても、図書館は本との出会いの場です。ぜひ本棚の前で横に並んで、友達と本の話で盛り上がってほしいです。
そして、「図書館」には司書と呼ばれる専門職がいます。司書は、皆さんが知りたい情報にたどり着く手伝いをする人です。今あえて「情報」と言ったのは、これからの時代は、様々なメディアを活用して学ぶことができるようになりつつあるからです。この図書館でも、授業ではネットの情報や、有料データベースも活用できます。昨年からは、電子図書館システムも使えるようにしました。今やちょっとした疑問は、ネットで調べるのが当たり前だし、昨今はYouTubeに代表される動画が、学びのツールとしても使われていますよね。それでも、私はぜひ皆さんに、3年間、たくさんの「紙の本」が並んだ図書館という空間もおおいに活用してほしいと思っています。デジタルにはデジタルの、そして紙には紙の良さがきっとあるはずです。今日は記念すべき最初の一冊を本棚からじっくり探してみてください。