心がちょっと疲れたら

2021-09-10 16:35 | by 中村(主担) |

 長いお休みが明けて学校が始まりました。とは言え、緊急事態宣言も延長されてまだまだ制約の多い毎日は続きます。新学期の学校生活にちょっと心も体も疲れてしまった・・・そんな人も多いのではないでしょうか。
 9月は学校にとって、独特な緊張感が漂う時期。1冊の本が、図書館という空間が、皆さんの心に寄り添う存在であればと思います。

 「今どうしようもなく毎日がきつい。」そんな人に1冊手渡すとしたらまず思い浮かぶ本があります。漫画家の西原理恵子さんが朝日新聞の連載記事「いじめられている君へ」に寄稿した文章を絵本化したこの『いきのびる魔法―いじめられている君へ―』(小学館 2013年)は、読み手に「うそをついて下さい」と語りかけるところから始まります。「うそはあなたを守る大切な魔法」「大人はみんなそうしてる」そんな言葉が続き、16歳まではとにかく生きて、と訴えます。なぜ16歳か?それは、16歳になればいろいろな選択肢があるから。働いて、お金がもらえるから。自分で選び取れる自由があるから。子どもの生きる世界は狭く、ときに残酷です。そして「逃げてはいけない」「頑張らなければいけない」というひたむきな気持ちが、時に自分を壊してしまうこともあります。西原さんは戦場カメラマンだった夫の言葉を引用しながら、とにかくこの戦場を生き抜いてほしいと伝えるのです。
 
 この絵本は2部に分かれていて、ふたつめのお話「うつくしいのはら」では、ひとりの女の子・ひとりの兵士の視線を通して、人間として生きる意味、学びの尊さが描かれています。どうして学校に行かなくちゃいけないんだろう、どうして勉強しなくちゃならないんだろう。そんな気持ちから抜け出せなくなったときに思い出してもらえたらと思います。

 「行けない」。そんな気持ちを描いた物語は少なくありません。行きたいと思うのに行けないこともあれば、明確な理由はないけれどなんとなく行きたくない・・・という場合もあるでしょう。
 『雨の降る日は学校に行かない』(相沢沙呼著 集英社 2014年)『西の魔女が死んだ』(梨木香歩著 新潮社 2001)には、学校や教室に行けなくなった少女が登場します。いじめやスクールカーストに悩んだり、保健室登校の仲間が教室へ戻っていくのを複雑な気持ちで見つめたりする主人公たち。自分を肯定できず苦しむ彼女たちに必要なのは「さぁ頑張ろう、外へ一歩踏み出そう!」と手を引く誰かではなく、ありのままを認めて自分らしい成長にそっと寄り添ってくれる存在です。立ち止まったままどうしたらいいか分からない、そんな主人公の道しるべとなる言葉が、きっと読み手の心も支えてくれるはず。
 生徒に人気の作家たちによるアンソロジー『行きたくない』(加藤シゲアキ/阿川せんり/渡辺優/小嶋陽太郎/奥田亜希子/住野よる著 KADOKAWA 2019年)では、学校や子どもの世界だけではない、様々な「行きたくない」気持ちに触れることができます。大人だってロボットだって、行きたくないと思うことがある。自分だけじゃないんだな、とちょっと安心できるかもしれません。後ろ向きな気持ちがテーマなのに、どの話も読後は少しだけ上向きな気分になれる、そんな余韻を残す短編集です。

 
 
 物語だけではなく、「こんな時どうしたらいいの」「ちょっとだけ元気がほしい」という思いに応える、サラッと気軽に読める本も現在展示中です。皆さんの心に寄り添える1冊が見つかりますように。










 『泣いたあとは、新しい靴をはこう。』日本ペンクラブ編 ポプラ社 2019年
 『10代から身につけたい ギリギリな自分を助ける方法』井上祐紀著 KADOKAWA 2020年
 『人生はニャンとかなる!明日に幸福をまねく68の方法』水野敬也/長沼直樹著 文響社 2013年
 『学校では教えてくれない 自分を休ませる方法』井上祐紀著 KADOKAWA 2021年
 『ネット中傷駆け込み寺』佐藤佳弘/スマイリーキクチ著 武蔵野大学出版会 2021年


         
  (東京学芸大学附属竹早中学校 司書 中村誠子)

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