イギリスの女王さま

2022-10-04 11:19 | by 松岡(主担) |

 2022年9月8日にイギリスのエリザベス女王が96歳で亡くなりました。6月に即位70年の記念式典が行われ、その様子は日本でも多く取り上げられた矢先だったので私自身とても驚きました。
 恥ずかしながらイギリスの歴史や文化にさほど明るいわけではありませんが、これまで出会った本の中から、エリザベス女王やイギリスに関連した図書をブックトーク形式で紹介していきます。






『女王さまのワードローブ イギリス国民に愛されつづける女王エリザベスの物語
ジュリア・ゴールディング/文 ケイト・ヒンドレー/絵 前沢明枝/訳
BL出版 2022年


 この本は、エリザベス女王が身につけるドレスやスーツ、装飾品を紹介しながら、誕生から現在に至る歴史を追うことができる中身の濃い絵本になっています。
 戦争の時代には王族であってもその影響は大きく、当時は配給券で買った生地を仕立てた質素な服を身につけたり、1945年には王位を継ぐ前のエリザベスは自ら女子国防軍に入隊し、仕事をしていたことなどを知ることができます。
 公務の中で身につけるドレスは豪華ですが、それはエリザベス女王としての「仕事着」でもあります。価値ある宝石もたくさん持っていますが、一番よく使うのは両親からプレゼントされた真珠のネックレスでした。
 外に出るときはたいていぼうしをかぶっていて、服と合わせたり、時には流行を取り入れたり、大胆なデザインで遊んだりもしていたそうです。
 ワードローブからエリザベス女王の人柄やイギリスの歴史を垣間見ることができる一冊です。

 お出かけの際に欠かせないぼうしですが、もしそのぼうしが風に飛ばされてしまったら…。







『女王さまのぼうし』

スティーブ・アントニー/さく せなあいこ/やく
評論社 2015年


 女王さまがお出かけしようとバッキンガム宮殿を出ると、ぼうしが風に飛ばされてしまいます。女王さまと衛兵たちはぼうしを追いかけてロンドンの名所を駆け回ります。
 地下鉄や橋の上など、軽やかにぼうしを追いかける女王さまとページを追うごとに増えていく衛兵たちがとてもユニークな絵本です。
 不思議な色使いだな、と思ったら、絵本の中で使われている色はイギリスの国旗と同じ色のみを使っていることがわかりました。
 
 では、イギリスの国旗を改めて見てみましょう。





『世界の国家・国旗』
弓狩匡純/著
角川書店 2020年

 国旗の図鑑はたくさんありますが、この本はその国の国歌も一緒に知ることができます。エリザベス女王の葬儀でも歌われた歌は正式な国歌ではないそうですが、イギリスで多く歌われている賛歌です。
 この歌は君主が女性の時は「God save the Queen(女王陛下万歳)」、男性の時は「God save the King(国王陛下万歳)」と歌詞が変わる珍しい歌です。
 同じ年に行われた式典でも、葬儀では「King」と歌われ、即位70年の記念式典では「Queen」と歌われていた違いにどこか寂しさを感じました。

 6月に行われたエリザベス女王の即位70年を記念する行事「プラチナ・ジュビリー」では意外なサプライズがありました。
 祝賀コンサートが始まる際に公開された映像の中で、エリザベス女王がバッキンガム宮殿でお茶会をする相手は…






『くまのパディントン』
マイケル・ボンド/作 ペギー・フォートナム/画 松岡享子/訳
福音館書店 1967年


 イギリスの有名な児童文学の主人公「パディントン」だったのです。ロンドンにあるパディントン駅でブラウン一家に出会ったので駅名が名前になった小さいクマのお話は日本でもとても人気があり、私も大好きな作品です。
 パディントンは作品の中でもデパートのえらい人や有名な俳優などに出会います。女王さまの前でも紳士的に振る舞うのでしょうが、パディントンにはとんでもないアクシデントもつきものなので、私は少しハラハラして見ていました。
 しかしながら、エリザベス女王の方が一枚上手で、帽子からマーマレードサンドイッチを取り出したパディントンに対し、「私も(いつも持っているの)よ」とバッグからマーマレードサンドイッチを取り出し、にっこり微笑む女王の姿にユーモア溢れる人柄を感じ、私もパディントン同様「わあ」とため息をついてしまいました。

 70年という長い間君主の座にいたエリザベス女王に焦点を当てると、イギリスの歴史や文化が見えてきます。また、王室の格式を大事にしながら国民に慕われる親しみやすさを兼ね備えたエリザベス女王の人物像も窺い知ることができます。
 関心をもったところを入り口にして本を探してみると、新しい発見があるかもしれません。

 (東京学芸大学附属小金井小学校 司書 松岡みどり)

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