サクラサイタカナー中学受験のお話ー

2023-03-13 10:35 | by 中村(主担) |

 暖かな日々が続く3月、東京では桜の開花も報告されました。4月からは真新しい制服を着た新入生たちが、期待と不安を胸に門をくぐります。国立大学附属中学校である本校には、生徒全員が中学受験を経て入学してきます。
 今や首都圏の6年生の5人に1人以上が受験すると言われています。ドラマ化もされた漫画『二月の勝者』では、その厳しく熱い様子がリアルに描かれ、大きな話題になりました。近年、中学受験を題材にした小説も多く出版されています。今回はそんな中から4冊の本を、中学受験を終えた人たち、そして保護者の方々や先生方にご紹介します。

 『金の角持つ子どもたち』(藤岡陽子著/集英社文庫/2021年)に描かれるのは、5年生までスポーツに打ち込んでいたまっすぐな少年です。サッカーのトレセンメンバーから外れてしまった俊介が次なる目標としたのは、最難関の中学受験。小6という遅いスタート、12歳の突然の決意に戸惑う親たち。しかし俊介が胸に秘める想いの強さが、やがて周囲を動かしていきます。
 俊介はなぜ中学受験を決めたのか・・・そこには親にも打ち明けられない、彼の負った心の傷がありました。懸命に努力を続ける俊介と、それを支える大人たちの変化に、胸が熱くなります。「人は挑むことで自分を変えることができるんだ。十二歳でそんな気持ちになれる中学受験に、意味がないわけがない」という先生の言葉は、時に迷い挫けそうになってしまう人たちの心に響くでしょう。
 『翼の翼』(朝比奈あすか著/光文社/2021年)「さよなら、田中さん」(『さよなら、田中さん』収録 鈴木るりか著/小学館/2017年)には、中学受験の闇に迷い、じわじわと子どもを追い詰めていく親の姿が描かれています。著者である朝比奈あすかさんは子どもが、そして鈴木るりかさんは自身が中学受験を経験しており、親の立場と子どもの目線でそれぞれ物語が進みます。
 初めは“子どものため”だったはずの受験、それがいつしか、溢れる情報に踊らされ、見栄やプライドに歪められ、子どもの努力や気持ちを置き去りにしてしまう。異常な家庭を描いているようでいて、実は中学受験の沼に嵌る家庭では多かれ少なかれ、こんな日常があるのかもしれません。
 主人公たちの苦しみの果てに光は射すのでしょうか。ぜひ親子で読んでほしい2作品です。

 最後にご紹介する『きみの鐘が鳴る』(尾崎英子著/ポプラ社/2022年)は、同じ塾に通う4人の少年少女の視点で受験最後の1年間がつづられます。友達とうまくいかなくて転塾してきたつむぎ、教育虐待ともいえるような父親の管理のもとで委縮してしまう涼真、発達がでこぼこで得意なことと苦手なことの差が大きい唯奈、不登校の姉と母からの期待にプレッシャーを感じて保健室登校を続けている伽凛。それぞれが違った悩みを抱えながら、「志望校合格」という同じ目標に向かって、ひたむきに進んでいきます。
 時おり登場する塾長の言葉が、子どもの胸に、そして読者の心に響きます。1年を通して少しずつ成長していく子どもたち。モブキャラなんていない、一人ひとりが主人公の中学受験が描かれています。

 
 さあ、中学受験を終えてつかの間の休息を味わっている、もうすぐ中学生の皆さん。あなたのサクラは咲きましたか。合格することが成功なのではありません。この受験を通して何か得たものがあったなら、振り返ればきっとサクラが咲いているはずです。
 皆さんの新しい世界が、希望に輝くものでありますように。

 (東京学芸大学附属竹早中学校 司書 中村誠子)

次の記事 前の記事