見える世界と見えない世界

2012-10-08 21:46 | by 渡辺(主担) |

 ●「ふしぎ、不思議のものたちよ」(対象:中学生) 
 今日は「ふしぎ、不思議のものたちよ」というブックトークをします。最初にストーリーテリングを聞いてくださいね。
 ▲「スコットランド民話」より“古屋の怪”三宅忠明編 大修館書店 1975年
(子どもがたくさんいるスコットランド人の男が大きな家に住みたいと思って、大きな家を見つけたけれども、その家には幽霊が出るという。その幽霊を退治すれば、その家をただで差し上げると言われて、まずは一人で泊まりに行くが…)

 今のおはなしはスコットランドの昔話で「古屋の怪」といいます。こわかった? でも、最後はクスッと笑えるおはなしでしたよね?(どこでやっても子どもたちは、最後はシンと固まってます。私の幽霊話は迫力なくて、あまり怖くないはずなんですけど。先生だけが必ず最後にニヤッと笑ってます。)

 さて、今幽霊が出てくるおはなしを聞いてもらいましたが、最初の本はお互いを幽霊かもと思っている男の子と女の子が登場する物語です。


   「トムは真夜中の庭で」フィリッパ・ピアス 岩波書店 1983年

 トムは弟がはしかになったので、うつるといけないと、家から離れたおばさんの家に預けられます。おばさんの家は古い屋敷をアパートにしたところで、おばさん夫婦は2階の部屋に住んでいます。おばさんはトムも病気がうつっているかも知れないと心配して、昼もトムを寝かせて静かにさせていたので、トムは夜、眠れずにいます。すると真夜中に1階にある大時計が13、時を打つのです。驚いたトムがそっと一階におりて、裏口のドアから外へでると、昼みたときは汚いゴミ捨て場のような裏庭が素晴らしい庭園になっていて、トムはそこでハティという少女と出会います。毎晩ハティに会いに行くのですが、ハティは3歳だったり、15歳くらいだったり、7歳だったり、日によって年齢がちがい、庭園も季節、時間がその日によって違う。ハティにとってはトムはいつもパジャマを着ていて、透けてみえる存在。でも二人は仲良くなっていきます。一つのスケート靴を時を越えて二つにして、二人で使って凍結した川をすべっていったり、トムの弟の夢の中にリンクしたり…。ところが、ハティが結婚を意識したとき、トムの姿が見えなくなる。最後にハティの正体がわかります。感動の最終シーンが待っています。

 二人は幽霊ではありませんでしたが、今度は本当の幽霊がでてきますよ。
  「家守綺譚」梨木香歩 新潮社 2004年
 今から百年くらい前の日本の物語。大学時代にボート部に所属していて、湖に沈んで死んでしまった親友の家に留守居番として入った若い男性が主人公。庭の百日紅(さるすべり)の精が現れたり、死んだ親友がボートに乗って、床の間の掛け軸の後ろから現れて話しこんでいったり、河童、桜鬼、小鬼、人魚、川獺(かわうそ)、狐、狸など不思議な者たちが次々と現れます。でも驚いているのは主人公ばかり、周囲はしごくもっともと言う感じで、そのあたりがなんかそこはかとない面白さですよ。最後に主人公は湖の底の世界に引き込まれていきますが、さぁ、どうなるでしょう?
 河童が何度か姿を現しましたが、次はその河童が主人公です。
 「かたはれ-散在が池の河童猫」 朽木祥 福音館書店 2005年
 
  河童の八寸は61歳、でも人間なら6歳くらいの幼い河童。親やたくさんの兄弟とにぎやかに沼で暮らしていたが、ある事件が起きて、親兄弟が急に姿を消し、一人でさびしく何十年も暮らしていました。あるとき長老河童に呼び出され、人間世界に修行に行くように命じられて、猫に姿を変えられます。決してぬれてはいけない、きゅうりを食べてはいけないと注意を受けて。そして、八寸は麻という女の子に拾われます。麻は母を病気で亡くしたばかりで、父とチェスタトンという名前のラブラドール犬と暮らしています。麻が猫の八寸をお風呂で洗ったら、一瞬、河童の姿にもどったり、八寸がきゅうりを食べてしまって、しばらく猫にもどれなくなったり、いろいろなことがありますが、最後に弱虫チェスタトンが大活躍。ところで、題名の「かはたれ」とは「彼は誰」、夜明け前の淡い光の中、魔法が働いて見えないものが姿を現す時間のことです。月の光の中のかわいい八寸に出会ってください。
八寸の住む散在が池は実在します。本当に河童が現れそうなところです。
 麻が八寸を世話したように次の本では、男の子が不可思議な存在を助けます。
 「肩胛骨は翼のなごり」デヴィッド・アーモンド 東京創元社 2009年
   マイケルが引っ越してきた家の庭には今にも崩れてしまいそうな古いガレージがあって、両親から危ないから入ってはいけないといわれていました。でも禁止されるとやってみたいのは誰もが同じ。マイケルがガレージにそっと入っていくと、うす暗い中になにやら不可思議な存在がいる! 力なく座り込んで、足元のハエとか、ネズミの死骸を口に放りこんでいる! マイケルはソーセージやハムなどを家から運んできてあげます。その不可思議なものは自分はスケルグというもので自分の種族はもう世界に自分しかいないのだといいます。マイケルと隣の少女ミナに助けられたスケルグはやがて大きな翼を広げて空に飛び立っていきます。マイケルには重い病気で命も危ぶまれている、まだ赤ちゃんの妹がいます。スケルグがその病室に飛んで来て、不思議なことが起こります。スケルグとは何者だったのか? 
スケルグには大きな翼がありました。次に登場するのも翼のある存在、グリフィンです。
 
 「グリフィンの少年」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 東京創元社 2007年
 
 グリフィンとは上半身が鷲で黄金色、下半身がライオンで白色の想像上の生き物です。この物語には「ダークホルムの闇の君」という前巻があって、魔法使いダークには男女の子ども二人に加えて、グリフィンの子どもが5人(羽?or頭?)いて、みんなで力を合わせて、魔法世界を一大遊園地にして荒らしていく人間たちを追いはらう物語です。続巻の「グリフィンの年」はグリフィンの末っ子エルダの魔法の大学でのキャンパスライフ。エルダを含めた6人の新入生がそれぞれとにかく個性的で、恋あり、冒険ありの物語です。「魔法使いハウルと動く城」の作者の作品ですよ。ちょっとドタバタ、ハチャラメチャラですが、エルダはかわいいし、最後に宇宙へポーンとすっ飛んでいくところなんか何とも楽しい。
さて、そのグリフィンが出てくる有名な物語というと・・・
  「不思議の国のアリス」ルイス・キャロル 岩波書店 
 
 どのあたりに登場するか知っていますか? だいぶ後のほう、にせ海ガメやロブスターたちと一緒にでてきますよ。チェシャ猫やハンプティ・ダンプティなど不思議なものたちがたくさん登場します。知っているようで案外読んでいない人が多いですよね。続編の「鏡の国のアリス」もおすすめですよ。
将来ぜひ英語版で読んでみて。言葉遊びの面白さが何ともすごい!
 最後は不思議なものたちのオンパレードのとてもきれいな本です。
 
 「空想動物ものがたり」マーグリット・メイヨー再話 岩波書店
 
 キマイラ、ペガサス、人魚、ミノタウロス、フェニックスなどなどが登場します。表紙にあるのはユニコーン。毒を入れられた水の中にその角を入れると毒が消えると言い伝えられている、空想上の動物です。中世のヨーロッパでは実在の動物と信じられていて、その角が実際に毒消しとして珍重されたとか。ではどんな生き物の角だったのでしょう? わかりますか?(答えがでなかったら)宿題です。 
  これらの個性豊かな不思議な存在 ― みな人間の想像力から生まれた存在です。
     すべての見えるものは見えないものに さわっている
      聞こえるものは聞こえないものに さわっている
     感じられるものは感じられないものに さわっている
            ノヴァーリス(ドイツの詩人・作家)
小さいころに信じていたサンタクロースがいた部屋、それは私たちの心の中にはちゃんと残っている。松岡享子さんの「サンタクロースの部屋」(こぐま社)にかいてあるその部屋、もしかしたら小さくなってしまっているかもしれない、そのスペースをこれらの本と一緒にふくらませてみてください。きっっと生きていく楽しさも一緒にふくらんでいくと思いますよ。
 
(ブックトーク構成:東京学芸大学附属特別支援学校 図書整備担当:田沼恵美子)

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