「旅からはじまる新しい世界!」

2013-12-15 18:07 | by 小野寺(主担) |

今月は、狛江市立緑野小学校 司書の丸山英子さんから事例を提供していただきました。

丸山さんが現在お勤めの緑野小学校では、図書の返却・貸出もあるので、司書が45分間のブックトークをする機会はほとんどないのですが、昨年から2学期末に、6年生全員が5年生に向けてブックトークする活動に取り組んでいて、そのデモンストレーションとして、「ミニブックトーク」をおこなっているそうです。

今年は、以前に作ったプログラム「旅からはじまる新しい世界!」をアレンジしておこない、6年生の児童はそれを参考にして、3冊のブックトーク作りに取り組んだそうです。

ここでは、その元となったプログラムをご紹介します。


 
旅からはじまる新しい世界!

連休が終わったばかりですね。この連休にどこかに旅行した人もいるかな。

お気に入りのところに何度も行くのもいいけど、初めてのところにいくのは、やっぱりちょっとワクワクしますね。今まで知らなかった新しい世界が待っているような感じがしますよね。

そこで今日は、「旅からはじまる新しい世界!」というテーマで、みなさんにブックトークをしたいと思います。

最近は物騒なこともあるから、ひとりで知らないところを探検!という訳にはなかなかいかないけど、友だちと初めてのところへ行ってみたい…という人は多いかもしれませんね。

 

知らないところへ行くとき、皆さんは何を頼りにしますか?

そう、たいていの人は、まず「地図」とこたえるんじゃないかな?さらに「磁石」という人もいるかもしれないね。

今日最初に紹介する本は、初めてのところに、お友だちと二人だけで、「地図」と「磁石」だけを頼りに旅した小学5年生のお話。

 『ぼくらの地図旅行』。さて、まずこの本の表紙のカバーの内側を読んでみましょう。

ぼくらの地図旅行 (福音館のかがくのほん)
那須 正幹
福音館書店(1989/01/31)
値段:¥ 1,995


(拡大コピーしたものを示す。)

さて、わかるかな?

(地図記号を子供に聞きながら読み進める。)

 

そもそもの始まりは、シンちゃんと安井くんのけんかでした。

「野浜の海岸をドライブして岬に着いたけど、灯台がなかった」という安井くんに、シンちゃんが「地図と磁石さえあれば、どこにだって行けるよ!」

そこで、安井くんに「野浜の灯台まで行ってこい!」と言われ、結局近くにいたぼくも一緒に行くことになっちゃった。学校が休みの日、高校生の、シンちゃんのお兄ちゃんに地図と磁石を借りて、シンちゃんとぼくはお弁当と水筒を持って出発。

さあ、二人は無事、灯台にたどり着くことができるのでしょうか。

そして、「地図があったってだめさ」というこのセリフ!!これはいったい何なのでしょうか…。

あなたもぜひこの本で、二人と一緒に旅をしてみてください。

 

地図を頼りに未知の世界へ…といえば、「なんだか、宝探しの海賊みたい!」って思わない?「パイレーツオブカリビアン」って映画もあったよねえ。

海賊ではないけれど、「失われたうみねこ族の宝」の地図が出てくるのが『旅のはじまり』

旅のはじまり (黒ねこサンゴロウ 1)
竹下 文子
偕成社(1994/07)
値段:¥ 1,050


昔から「旅は道連れ」と言いますが、ちょっと変わった道連れに出会ったおかげで不思議な旅が始まります。

主人公のケンは長期出張中のパパのところに、一人で行くことになりました。

ケンは1歳のころから「ひとり旅の名人」と言われるほど…。ひとりで三軒さきのおうちのお庭までいっちゃって遊んでたって話なんだけどね。

そんなケンはもうとっくにひとりで電車やバスで隣町のおじさんのところまでは行ってます。

けれど特急にひとりで3時間も乗るっていう旅ははじめて。

でも自信満々。そしてワクワク。

ママは細かい注意をいろいろ言っているけど、そんなことは適当に流していよいよ出発。

特急のひとり旅って、どんな人が隣に座るか、ちょっとワクワクするよね。ケンの隣に座ったのは、なんと猫だったの。すらっとした大人の黒い猫。人間の言葉を話して、ちゃんと切符ももって。サンゴロウというこの猫は、ケンが行こうとしている終点のハナミサキのひとつ手前、アライハマで降りるという。何しにいくと思う?なんと「宝さがし」。古い宝の地図も持ってるっていうんだけど、スーパーの特売のチラシの裏に鉛筆で書いた地図で、その昔、あるじいさん猫からもらったんだって。

昔むかし、ねこには「うみねこ族」と「やまねこ族」がいて、仲が悪く、しょっちゅうけんかしていた。あるとき大きな戦いがあって、やまねこ族がうみねこ族の住む浜まで攻めてきた。うみねこ族は大切な宝物を海岸の秘密の場所に隠して船にのって逃げた。なかなか戻れなくて、今ではどこだかわからなくなってしまったらしい。

サンゴロウに一緒に行こうって誘われて、ケンはもちろん「うん」って答えたわけ。でもね、問題はお父さんがハナミサキまで迎えに来てるってこと。サンゴロウは一つ前のアライハマで降りて、すぐママに電話して「間違えて手前で降りちゃったから、次の電車で行くから、パパに言っといて」って言えばいいって言うのよ。次の電車まで1時間あるからその間になんとかすればいいって。

さて、作戦はうまくいくのか。二人は宝物を手に入れることができるのか…。ぜひ読んで確かめてみてください。

この本は「黒ねこサンゴロウシリーズ」の第1巻です。気に入ったらぜひ続きも楽しんでください。なんと「旅のつづき」ってシリーズもあるし、別の出版社から出されたサンゴロウが伝説の黒猫として登場する「ドルフィン・エクスプレス」シリーズもあります。こっちはさらに男のロマンって感じのお話です。

 

地図や道連れがあればとっても心強いけれど、ひとりっきりは心細いよね。しかも迎えに来ているはずの人がいないとなるともう大変。そんな物語が『霧のむこうのふしぎな町』

霧のむこうのふしぎな町 (講談社文学の扉)
柏葉 幸子
講談社(2006/09/21)
値段:¥ 1,365





静岡に住む小学6年生のリナは、夏休みに東北の「霧の谷」というところに一人で出かけていきます。初めての一人旅。いつもは長野に行くんだけれど、今年はお父さんにすすめられて、「向こうへは連絡しておくから。あの町につきさえすればあとは心配ないよ。」と言われて、東京と仙台と、2箇所も乗り換えて。

ところが駅に着いてみたら、小さな駅だし、迎えの人は来ていない。思い切って通りすがりの人に「霧の谷へはどうやって行ったらいいんですか?」と聞いてみても、「さあ聞いたごとねえなあ」。挙句の果てに迷子に間違われて、駅の近くの交番に連れて行かれます。

とにかく事情を説明すると、おまわりさんは「霧の谷」を調べてくれました。すると、30年ちかく前に閉山になった銀山村の方らしいというのです。

町外れの神社のわき道を登っていくのだとと聞いて交番を出ると、向こうからリヤカーつきの耕運機でやってくるおじいさんがあり、おまわりさんが神社のあたりまで乗せていってくれるよう頼んでくれました。

しばらくいくと、そのおじいさんが「霧の谷に行くのか」と聞くのです。驚いて「どうしてわかったのですか?」と聞くと、おじいさんはずっと昔に、やっぱり神社のところまで同じくらいの男の子を乗せたというのです。リナの持っている傘を指して、それと同じ傘を持ってリナに似ていた…と。

それがこの傘。(表紙を見せて)おとうさんに持たされた傘。

神社のところで降りてしばらく行くと「霧の谷」という雨ざらしの板があります。するとふと風が吹いてきて、まるで道案内でもするように傘がとんでいき、リナは不思議な町に入り込みます。

そこは東北の山奥とは思えない、石畳の町並みでまるで外国のよう。さてこれからどんな世界がリナをまっているのでしょうか。

 

このお話は、「千と千尋の物語」の宮崎駿監督に発想のきっかけを与えた作品と言われています。

 

お話、それも冒険話の主人公なんて、なんだかすっごく勇気があってかっこいいってイメージがあるかもしれないけれど、このお話のリナは美人じゃないし、ちょっとデブだし、特にどいうということのない女の子です。

つぎに登場する少年も、やはりかっこいいとは程遠い存在でした。

 

『ローワンと魔法の地図』

ローワンと魔法の地図 (リンの谷のローワン 1)
エミリー ロッダ
あすなろ書房(2000/08)
値段:¥ 1,365

まず出だしを読んでみましょう。(7ページ8行目まで)

バクシャーというのは表紙のこの動物。乳を搾ってミルクやチーズ、バターなどを作るほか、長い毛からは、織物にする灰色の太い毛糸を取り、畑を耕し、作物や荷物を運ぶ、リンの谷の人々の生活は、バクシャーに頼りきっているといっていい。まあ、牛と羊と、馬を合わせたような存在かな。そのバクシャーは塩分を含むリンの谷の井戸水は飲めません。病気になってしまうのです。山から流れてくる川の水だけが、彼らの命を支えていました。その川の水が止まってしまったのです。

村の人々は、原因は山にあるはずだと考えますが、あの山には大変な危険が潜んでいて、頂上には竜が住むと言われ、旅人も近づきません。

村人たちは相談し、力も勇気もあるメンバーのグループを送り出すことに決め、魔女と呼ばれる老女シバに秘密の山道を教えてもらいに行きます。

シバは、一本の枝をローワンに投げつけ、ローワンは額に怪我をしますが、なんとそれは山の地図で、ローワンが持たないと地図が浮き出てこないし、それを誰かが書き写すそうとしても決して写せません。つまり、ローワンも一緒に行くしかないのです。

でもローワンはまだ少年ですし、何より村一番の弱虫でした。お父さんは村一番の勇敢な男でしたが、自宅が火事になったとき、家族を助け出し、最後に屋根裏に残っていたローワンを助けて、自分は命を落としたのでした。

村の子どもたちと同様に、小さいうちから走ること、登ること、飛ぶこと、泳ぐこと、戦うことの訓練を受けましたが、なにをやっても上手くいきませんでした。年のわりに身体も小さいし、引っ込み思案で怖がり。

ローワンは、村でバクシャー係りをしていますが、それが簡単な仕事だったからです。でもローワンはバクシャーが大好きだったし、バクシャーもローワンが大好きでした。

そんなローワンが、恐らくもっとも向かない仕事、この冒険に一緒に行くことになったのです。ローワンはちゃんとついていくことができるのでしょうか。そしてこの旅は村を救うことができるのでしょうか。

 

ローワンの旅は、リンの谷の運命をかけた劇的なものだったけれど、ローワン自体も大きく変わったはず。旅にはそんな力もあるんだね。

お話の世界だけでなく、実際の旅も、自分の生き方が変わる、大きなきっかけになることがあります。

 

『サボテン島のペンギン会議』の著者、川端裕人さんも、そんな旅をしたひとりです。

サボテン島のペンギン会議 (人と“こころ”のシリーズ)
川端 裕人
アリス館(2002/09)
値段:¥ 1,365

はじめに、「ペンギン」と聞いて、どんなことを想像する?南極の氷の上を、ヨチヨチ歩きするかわいい姿?

でも、川端さんが南米のチリで出会った光景は、ぜんぜん違うものでした。

南半球の真夏、強い日差しの中、フンボルトペンギンという種類のペンギンが、一面に広がるサボテンの根元に巣穴を掘ってヒナを育てていたのです。しかも厳しい環境を生き抜く野生動物としての鋭い視線。可愛いなんてとんでもない。「サボテンの島の目つきの鋭い鳥」でした。まあ、中にはそんな種類もいるよね…と思ったあなた、実は日本の動物園や水族館でペンギンを見たことがある人なら、気づかすに会っている可能性が高いそうです。なぜなら、日本国内で飼われている7割以上がフンボルトペンギンなんだって。世界中で日本ほどフンボルトペンギンを飼っている国はないらしい。

川端さんはもともと生き物が大好きで、ペンギンにはなんとなく興味があって、神奈川県横浜市で「フンボルトペンギン保護国際会議」という大きな国際会議が開かれるというので出席したのがことの始まり。そこで出会った「ペンギン会議」という団体のメンバーと仲良くなって、毎年野生のフンボルトペンギンを観察に行っていると聞き、同行させてもらったのがこの旅だったのです。

川端さんがこの旅を終えて、自分自身に出した宿題。それは「かわいいペンギン、すずしいペンギン、撲滅運動」。さあこれはいったいどういうことなのか。この本を読んで、川端さんと旅をするとわかるはず。きっとあなたのペンギンを見る目も変わっているんじゃないかな?

 

ものの見方や考え方が変わるだけじゃなく、一つの旅がその人の人生そのものを大きく変えてしまうってこともあります。

今日最後に紹介する本、『アラスカたんけん記』

アラスカたんけん記 (たくさんのふしぎ傑作集)
星野 道夫
福音館書店(1990/02/15)
値段:¥ 1,365





この本の作者は有名な写真家の星野道夫さんという人です。はじめのところを読んでみましょう。(3ページ4行目までを読む)
エスキモーの人々は、日本人と同じ顔をしているそうです。祖先は日本人の祖先と同じなんですね。でも生活は驚くほど違いました。彼らとの生活を通して、アラスカはどっかりと星野さんの心に腰を下ろしてしましました。いつか必ず戻ってこようと心に決めたのです

星野さんは慶応大学の学生でしたが、大学を卒業して2年間写真の勉強をして、初めてアラスカに行ってから6年後、とうとうアラスカに移り住みました。テントを担いでアラスカたんけんの旅がはじまりました。動物を探しながら1年の半分はテントで暮らし、冬の間はアラスカ大学で動物の勉強をしました。この本は、そのアラスカの自然の写真と、星野さんの文章で出来ています。

実は、星野さんは1996年に取材で訪れたロシアのカムチャッカで、テントをヒグマに襲われ、亡くなってしまいました。享年44歳。その後の調べで、星野さんを襲ったクマは、野生のクマではなく、人間に餌付けされて、人間との距離をとれなくなっていたクマだったらしい。

星野さんはたくさんの優れた写真や文章を残し、今も大変人々に愛され続けている写真家です。中でもクマやオーロラの写真は有名で、教科書にも載ったりしています。

他にも『森へ』『ナヌークの贈り物』など、子供用にまとまられている本もあります。ぜひじっくりと鑑賞してください。

 

楽しい旅、ハラハラドキドキの旅、考えさせられる旅、人生が変わる旅、…旅はいろんな世界をあなたに広げてくれますね。そして本もまた、あなたに新しい世界を紹介してくれるでしょう。(以上)


今年のデモンストレーションでは、
『ぼくらの地図旅行』『ローワンと魔法の地図』『サボテン島のペンギン会議』の3冊を取り上げました。
 

ブックトーク作成:狛江市立緑野小学校 丸山英子
(文責:東京学芸大学附属大泉小学校 小野寺愛美)


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