ゆきてかえりし物語(中高生用)
2014-02-15 20:22 | by 井谷(主担) |
いよいよ2月末から映画「ホビット2 竜に奪われた王国」の公開が始まりますね。
原作の『ホビットの冒険』は、またの名を【ゆきてかえりし物語】と記されています。本来は、居心地のいい穴の家で飲んだり食べたりすることが大好きなホビット族のビルボ・バギンズが、魔法使いのガンダルフやドワーフたちと奪われた宝を取り戻しに行って、そしてまた帰ってくる話です。
トロルや大蜘蛛、そして竜との戦いという大冒険の途中、ビルボは世界を統べるひとつの指輪を手に入れるのですが、それはまた別の話。家にたどり着いたビルボはゆっくりとパイプ草を楽しむのでした。
さて、竜はともかく、700年前のヨーロッパ人にとって遠いアジアの国々は、何がいるのかわからない恐ろしい辺境の地だったかもしれません。そんなアジアへと旅をし、24年の歳月をかけて故国に帰ってきたヴェネチア商人がいます。
マルコ・ポーロは17歳の時、父や叔父とともに旅立ち、遙かなる砂漠を越えて中国につきました。当時の中国は史上最大の帝国モンゴルが治めており、異国から優秀な科学者や技術者が集まっていました。マルコ・ポーロも宮廷でしばらくをすごします。利発な青年マルコは皇帝フビライ・ハンに大変気に入られ、その命を受け近隣諸国を回り、どうやらスパイのような役割を果たしていたようです。24年後にヴェネチアに帰ってきてから隣国ジェノバとの戦いに参戦し、捕虜となった牢獄の中で自分の見てきたアジアの国々について語りますが、それを本としてまとめたものが有名な『東方見聞録』です。その中で初めて日本は「黄金の国ジパング」としてヨーロッパの人たちにその名を知られます。
今度はその日本から逆にヨーロッパへと旅をし、無事に帰ってきた4人の少年達を紹介しましょう。
信長の時代に来訪したイエズス会士は、教会学校で学ぶ優秀な少年達をローマ教皇のもとへ連れて行こうと考えます。それが天正少年使節と呼ばれる4人の少年(イタリア語でクアトロ・ラガッツィ)です。長崎を出た船はマカオ、マラッカからインド洋、アフリカ南端を越え、3年後にようやく教皇のいるローマへと到着します。
和服の正装をし、武士らしく礼儀正しい東洋の少年たちは熱狂的な歓迎を受け、新教皇即位の行列にも参加しています。バチカン図書館のシストⅤ世の間には、そのときの行幸図が掲げられており、馬に乗った4人の日本人がしっかり描き込まれているそうです。
教皇からの書簡や贈り物、印刷機などの科学技術を携え、出発から8年後に帰国した少年たちですが、日本の情勢はすっかり変わっていました。信長の次に天下を取った秀吉は、キリスト教を禁じていたのです。
4人の運命もそれぞれ違っていきました。あるものは棄教し、あるものはやがて病死。マカオに信徒とともに逃れたものもいれば、殉教したものもいます。殉教した中浦ジュリアンの傍らにいたフェレイラ神父については、遠藤周作の『沈黙』で詳しく読むことができます。
400年も前の日本からヨーロッパへの旅は、生きて帰れるかどうかもわからない遠い危険な旅だったでしょうが、遠いと言えばもっと遠い旅から帰還したものもいます。
7年の月日をかけて、3億キロも彼方にある惑星イトカワへ到着、そのかけらを採取して帰ってきた小惑星探査機「はやぶさ」の映像を覚えている人も多いでしょう。いくつものトラブルを乗り越え、途中行方不明になったりしながらもようやく帰還したはやぶさの姿には多くの共感が寄せられました。また、はやぶさの持ち帰った貴重なサンプルから、今後、宇宙や地球の成り立ちまでもが解明される期待が持たれています。
まだ見ぬ土地へのあこがれ、そして故郷へ帰ってくる喜びは、今も昔も変わらないものなのかもしれません。皆さんもいつの日か、壮大な旅に出てみたいとは思いませんか?
(東京学芸大学附属小金井中学校 井谷 由紀)