数学の先生にミニブックトーク!
2014-05-10 21:39 | by 井谷(主担) |
2月のある日「中学校数学の先生の読み聞かせ用に絵本探し…」と松江市の学校図書館支援スタッフの原田由紀子さんが、Facebookに書き込んでおられました。本委員会委員もいくつか紹介しました。多くの皆さんの紹介からまとめられたというブックトークを書いていただきました。(編集部)
いずれは中学校現場に戻る福原指導主事。彼の専門は数学なので、中学校で読み聞かせするとしたらどの絵本を選ぶかという質問とともに、6冊の絵本を紹介してみました。
以下、H(原田)とF(福原)指導主事のやりとりです。
H:S中の教頭先生が、昨年から朝読書でボランティアさんの当番と一緒に、読み聞かせ用に入っておられます。教頭先生の専門は理科なので、支援スタッフが紹介したのが『カモノハシくんはどこ?』(ジェラール・ステア作、ウィリー・グラサウア絵、河野万里子訳、福音館書店)なのですが、毎月入るクラスが違うので「この1冊で数年もつ」と言っておられます。
F:へぇ、そうなんだ。
H:図書館といちばん縁遠いのが「数学」と言われているのですが、数学の先生が読み聞かせをするとしたらどんな絵本がよいか、これから6冊の紹介をするので意見を聞かせてもらえますか。
F:いいですよ。
H:まずは、インドの算数の昔話で『1つぶのおこめ』 (デミ/作、さくまゆみこ/訳、光村教育図書)という絵本です。金色使いでゴージャスな感じの絵です。『むかし、インドのある地方にひとりの王様がいました。この王様は、自分は賢くて正しくて、王と呼ばれるにふさわしいと思い込んでいました』(1ページだけ読み、あらすじ紹介)と始まるお話なのですが、この王様は、そこに住む人たちが育てたお米を「わしがしまっておいて、飢饉の年がやってきたらみんなに分け与える」と言ってお米を家来に集めさせて米蔵にしまいこんでいました。そしてある年、飢饉がやってきました。けれど、王様は「王がひもじいおもいをするわけにはいかない」と、お米を分け与えることをしませんでした。そんなある日、王様は王様らしく宮殿で宴会を開こうと思って、1頭の象に米蔵から2つのかごいっぱいのお米を運ばせました。ところが、そのかごからお米がこぼれ落ちてしまいます。それに気づいた村娘のラーニがスカートで受けて集めました。このお米をどうしたと思いますか?
F:う~ん。村に持ち帰ってしまうと話が短く終わってしまうなぁ。
H:さすが、先読みできますねぇ。そうです。ここで終わったりはしません。ラーニは、集めたお米を王様に返しに行くのです。王様は、正直なラーニに感心して褒美をくれることになりました。そこで、ラーニは「今日は、お米を1つぶだけ、そして30日の間、それぞれ前の日の倍の数だけお米をください」と願い出ました。
F:似たような話を聞いたことがある。
H:1つぶのお米は、30日間、前日の倍の倍の、と繰り返していくと何粒になったでしょうか。という数の表が、最後のページにあります。10億つぶ以上になるとのことでした。
F:シンプルでわかりやすい話ですね。
H:次はイギリスの昔話と「さんびきのこぶた」同じタイトルですが昔話ではありません。この『3びきのこぶた』 (森毅/文、安野光雅/絵、童話屋)は、オオカミのソクラテスという哲学者と、カエルのピタゴラスという数学者が登場します。ソクラテスの悪妻クサンチッペに、食べ物を持っておいでと言われて、3匹のこぶたのことを思い出しました。
F:本物のソクラテスの悪妻の名前と同じクサンチッペですね。
H:さすが、先生は博学ですね。さて、こぶたをつかまえるためには、3匹が5軒の家のどこにいるかを考えなければなりません。(樹形図代わりの5軒の家の絵を見せる)
F:これは樹形図だね。なかなか難しい内容だね。樹形図というのはね・・・(絵に描いて説明していただく)
H:木のような形だから樹形図というんですね。だんだん絵が細かくなっていくので、小規模の学校ならのぞいて見ながらできるかなと思いますが。
F:見せるのに書画カメラがあるといいね。
H:もう1冊、安野光雅さんの「美しい数学」『ふしぎなたね』 安野光雅/作、童話屋 シリーズです。
F:数学だから森毅さんなんだね。
H:1個のたねから実った種と、翌年育てる種の数を視覚的にしています。数えながら袋に入れてまとまりを作っていっています。(ページをめくりながら絵を見せる)
F:う~ん。これ(の読み聞かせ)はないな。
H:では、このシリーズから『壺の中』(安野雅一郎/作、安野光雅/絵、童話屋)はいかがでしょう。(あらすじ紹介)
F:壺の中なのに海があるんだ。階乗の話だね。
H:話は単純ですが、話に続けてこれを点「・」で表現しています。画面いっぱいになってしまったので、「18ページの10倍で180ページもひつようなことになるではありませんか!それはとてもたいへんなので、もうこうさんしました」と最後は描くのをあきらめています。
F:これは、展開がわかりやすいじゃないですか。
H:数えるのをあきらめた話の次は、こんな数え方の表現もあるという『コブタをかぞえてⅠからMM』 (アーサー・ガイサート/作、久美沙織/訳、BL出版 )という絵本です。
F:個人的には興味深いなぁ。千を「M」という表記をするのを初めて知ったけど、読み聞かせには難しいね。
H:私たちが使っている数字には、ローマ数字もあります。が、数も数えられることは意外ではないですか。(数表記を確認しながらページをめくりながら見る)
F:アラビア数字はたし算して10のかたまりができると、ひとケタくり上がる。でも、ローマ数字は文字表記自体が変わってしまうので計算に向かないですね。商売人は10より12を好みます。
H:なんで、商売人は12好きなんですか?
F:人間は十進法を使っているので、計算では10を単位にするけど、約数をたくさん持っている12は物々交換の時代には便利だったんでしょうね。
H:なるほど使い勝手のよい最小の数ってことなんですね。では難しげな数学が続いたので、最後は、やさしいお話にします。
『王さまライオンのケーキ』(マシュー・マケリゴット/作絵、野口絵美/訳、徳間書店)(あらすじの紹介)という絵本です。礼儀正しいアリが、王様の食事会に招かれて出かけていきます。アリの他に、コガネムシ・・・が招かれていましたが、気位が高かったり行儀が悪かったりしています。話は、王様がふるまったケーキが最後にこなごなになってしまい・・・
F:あ、なるほど。落語に同じような話があるね。くまさんがはっつぁんに「なくならない羊羹」と言って、永遠に半分にしていく話。反比例のグラフと同じで、永遠に0にはならない。(反比例のグラフを図示)
H:反比例の話なんですね。そして、まだ続くんです。王様のために、アリは明日ケーキを1つ焼いて持ってくると言い、コガネムシが・・・と続きます。このお話は、誰も批判されず、王様の心の広さも感じられます。
F:倍の倍の・・・という展開は新しいですね。ライオンとアリが対峙しない終わり方でいいな。ただ、中学生には(内容が)幼いかも。
H:これで紹介は終わりです。さて、中学生に読み聞かせるとしたらどの絵本を選びますか?
F:教科書の内容に重ねあわせて考えると、中学3年生か高校生になると思う。読むとしたら、1番は『1つぶのおこめ』で、2番は『壺の中』 かな。
H:ご協力ありがとうございました。
F氏は、絵本のテーマを数学的に聞きとり、生徒に授業で教える時期はいつごろかと考えながら、おつきあいしてくださいました。随時テーマについての解説もしてくださいましたので、絵本を使った数学の授業を受けているようで楽しかったです。
今回、「数学の先生用」として、安野光雅絵本で思いつく3冊をFacebookでつぶやいたところ、方々のみなさんから絵本の紹介とともに反響があり、実践に至りました。図書館員は情報源をいかに広く持つかということが大事である、と久々に思い出しました。ご協力いただいたみなさまに感謝いたします。
(松江市教育委員会学校教育課指導研修係学校図書館支援スタッフ 原田 由紀子)