『原爆;広島を復興させた人々』
2018-08-23 13:03 | by 村上 |
8月は広島・長崎に原爆が落とされ、終戦を迎えた月だが、学校は夏休み中のため、授業に関連した時以外では戦争に関する展示を7月や9月に行ってはいない。けれども、今年はこの7月出版された『原爆:広島を復興させた人々』(石井光太著 集英社)を核に、中学生に向けた展示コーナーを作りたいと準備している。
戦後生まれの私自身は、物心ついた時には、8月6日は原爆で亡くなった方を慰霊し、平和記念式典が厳かに行われる日であり、原爆ドームは平和を希求する象徴として存在し、広島平和記念公園があることは当然のこととして受け入れていた。しかし、そうなるまでの道のりはけっして当然ではなかったのだ。今回石井さんの丁寧な取材と、圧倒的な筆力により、平和都市ヒロシマの礎となった人たちの思いが、胸にズシリと響いた。
広島県立図書館の司書さんに、「この本で取り上げられている方々のことは広島の皆さんには周知のことなのですか?」とお尋ねした。「石井さんの書かれた内容は、広島の人間ならほぼ聞いたことはある人達の話ですが、それぞれを詳しくは知らないというのが現状です。多くの人が復興に関わった当時を俯瞰できるのはすばらしいと思います。」というお返事をいただいた。
本のなかで、石井さんが復興させた人としてとりあげているのが、原爆資料館の初代館長 長岡省吾氏、平和都市ヒロシマの実現のために奔走した広島市長 浜井信三氏、広島平和記念公園を設計した建築家 丹下健三氏、そして14歳で被爆し後遺症に苦しみながらもその後資料館の館長も務め、平和に尽力した高橋昭博氏の4人である。『原爆』を読み終えた後、『人間の記録37 丹下健三 1本の鉛筆から』(丹下健三著 日本図書センター 1997)や、『ヒロシマを残す:平和j祈念資料館を作った人・長岡省吾』(佐藤真澄著 汐文社 2018)も読んでみた。どちらも興味深い本ではあったが、前者は大人向け、後者は小学校高学年から読める正統派ノンフィクションに分類され、いい本には違いないが読み手が限定されそうだ。それに対し、石井さんの書かれた『原爆』は、重くて深いテーマを扱っているが、読み始めると引きずり込まれてしまう。読み終わればきっと、もっと知りたくなる…そんな気がする。それは、この4人が単に偉業を成し遂げた立派な人として描かれているのではなく、そこに至るまでの人間的な苦しみ、悲しみ、喜びが、その人の息遣いとともに伝わるような書き方をされているからかもしれない。
市民の方々から寄贈され、原爆資料館に収められた遺品にまつわるエピソードにも胸をしめつけられた。写真集『ひろしま』(石内都著 集英社 2008)や『さがしています』(アーサー・ビーナード 文・ 岡倉禎志 写真 童心社 2012)、『この世界の片隅に』(こうの史代 双葉社 2009)などと一緒に、ジョン・ハーシーが1946年に取材して書いた『ヒロシマ』(法政大学出版局)やワイド版岩波文庫となっている終戦から7年後に出版された『原爆の子;広島少年少女のうったえ』も並べて、手に取ってくれる生徒を待ってみようかと思う。
(附属世田谷中学校司書 村上恭子)