異なる意見を切り捨てない

2021-02-10 11:35 | by 中村(主担) |

 自由研究の作品提出がすぐそこに迫ったある日のこと、一人の生徒からこんな質問を受けました。
「食品添加物について、賛成の立場から書かれた本はありますか」

 自分が研究テーマに選んだ“食品添加物”について、その是非を論じるための裏付けが必要らしいのですが、インターネットを主に活用しており図書資料にはまだ当たっていない様子。さらに話を詳しく聞いてみると、なんだか変なことになってきました。どうやらこんな理由で本を探しに来たようです。
「参考文献欄に図書資料を挙げなかったので、先生からインターネットだけで調べるのはダメと言われた。自分はすでに添加物肯定で意見が固まったので、賛成派の本を紹介してほしい」

 ん?これはつまり、参考文献欄に書名を書くためだけに本が必要ということでしょうか。
 
 レポートや論文では、調べたことをただダラダラと羅列するのを避けるために、問いの形でテーマを設定することがあります。「YES」「NO」で結論付けるクローズドクエスチョンのテーマ設定は、ゴールを明確にして限りある時間の中で進む方向を定めるのに有効です。しかし時として「結論ありき」の状態から探究が始まることもあり、物事を俯瞰して考える姿勢が必要となります。

 前述の生徒には、本校に所蔵している食品添加物関連の図書資料を数点提示し、インターネットの特性も伝えた上で、まずはこれまでに調べた周辺知識に誤りがないかを本でも確認するよう助言しました。
 また、何かについて自分の意見を述べるため他者の見解を参考とする時には、ひとつの見方だけでなく、必ず異なる主張にも当たることの必要性を説明しました。
 今回の場合は食品添加物について賛成派・反対派・中立派それぞれの立場から書かれた図書資料が揃ったので、その論拠となっている箇所も示しながら生徒に提供することができました。
 分厚い資料も1冊まるまる読まないとその主張が読み取れないわけではなく、例えば奥付ページの著者紹介を見ると「消費者に近いジャーナリストだから否定派かな」「研究者の立場なら良い面・悪い面ともに知っているかもしれない」などと著者の見解を推測できることもあります。
 すでにまとめ段階に入ってしまっている生徒からしてみれば、資料を読み返し自分の考えを練り直すのは、一からやり直しも同じこと。今から言われても困っちゃうよねと思いつつ、大切なことなので、この機会に資料と向き合う姿勢を養ってほしいなぁと思いました。

 最後に、たまたまこのレファレンスの直前に入荷していた1冊がとても役立ったのでご紹介します。食品添加物に関しては読者の不安を必要以上に煽ったり、逆にそのような本を強い言葉で糾弾したりといった少し偏った本が少なくない中で、私たちが添加物のイメージに惑わされることなく、科学的知見に基づいた情報から適切に食品を判断するためのポイントを丁寧に教えてくれます。
 
 『食品添加物はなぜ嫌われるのかー食品情報を「正しく」読み解くリテラシーー』
  畝山智香子著(化学同人)2020年 



           (東京学芸大学附属竹早中学校 司書 中村誠子)

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