変体仮名を読んでみる

2021-12-13 11:41 | by 中村(主担) |

 現在、中学3年生が国語科の授業で、年間を通じて個人研究に取り組んでいます。「国語に関係していたら何でも構わない」という自由なテーマ設定であるため、「言霊」「流行語」「方言」「世界の国歌の考察」「黎明期の英語学習」など本当に多様なテーマで各自が研究を進めています。
 ある生徒が自身の研究に必要な情報を集める中で、地方の文学館のデジタル資料にたどり着きました。江戸時代に出版された本で、変体仮名で書かれています。調べたところ、必要な箇所の一部はインターネットや論文等にも活字で掲載されているのですが、その前後の文章はなかなか活字になっているものを見つけることができません。そこで生徒が「このくねくねする字を自分で読んでみたいので、こういう文が読めるようになる参考図書はありますか」と尋ねてきました。
 
 古典の学習を始めてまだ日の浅い中学生くらいだと少し難しいかもしれませんが、実は変体仮名が読めるようになると、意外と昔の書物が(なんとなく)読めるようになります。「くねくねする字」の実態を自分の力で確かめたいという生徒の意欲を感じたので、以下のような段階を経て支援をおこないました。


①文字の変遷を知る


 中学生くらいになると、平仮名や片仮名のもとになった字(字母)が何であるかは基本知識として身に付いている人がほとんどです。「安→あ」「阿→ア」など、私たちが現在使っている仮名は1音節に1字が対応しています。しかしこれは100年ほど前に制定された仮名であり、それ以前は同じ音に対応する仮名はいくつもありました。まずはそういった文字の変遷を分かりやすく説明しているウェブサイトを紹介し、様々な変体仮名を一覧で見ることができるサイトをいくつか挙げました。

 〇人文学オープンデータ共同利用センター
 「まめ知識 | ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター
 「Unicode変体仮名一覧 | 日本古典籍くずし字データセット (rois.ac.jp)
   くずし字、変体仮名とは何か、その概要が簡潔に平易な言葉でまとめられています。また、「Unicode変体仮名一覧」では変体仮名286字が一覧となってそれぞれの字母を確認することができます。

 〇国立国語研究所
  国語研変体仮名字形データベース (ninjal.ac.jp)
   見たい文字種を選択すると、文字画像が表示されます。活字ではなく手書きの画像を見ることができるので、調べたい文字により近い形の画像が見つかるかもしれません。


②読みたい文を1文字ずつ区切る 
 
 実際に資料を使いながら変体仮名を読んでみようと思っても、くずした書体が連なってサラサラと書かれた文は、いったいどこからどこまでが1文字なのかよく分かりません。しかも、古典学習にある程度なじんだ人ならいざ知らず、中学生では古文の知識もそれほど深くありません。昔の言葉で書かれている文章に見当を付けながら文字を予測して調べていく・・・というやり方は難しくてできません。
 この「文字の区切り方」に関しては、いろいろ調べてみましたが適当な資料が見当たらず、やはり「慣れれば区切れ目も分かってきて読めるようになっていく(=慣れるしかない)」という結論に至ります。文字の区切りに関しては、すぐに生徒一人では無理と判断し、大人が支援して1文字ずつ区切っていきました。


③変体仮名を調べる

 
 文字が分解できたら、いよいよどの文字がどの変体仮名にあたるか、本やインターネットで調べていきます。昔の書物は手書きなので、「これはこの文字だ」とはっきり判別できるものばかりではありません。「この画像の形に近いからこの文字かな」とか「この文脈なら次の字はこれかな」など、ある程度の推測が必要になってきます。根気のいる作業になりますが、1文字ずつ丁寧に、変体仮名の一覧から目的の形を探していきます。










『字典かな』笠間書院(2006年)
  変体仮名を五十音順で探すのに使いやすい字典です。それぞれの字母を確認することで、少しずつ変体仮名に慣れて見当をつけられるようになっていきます。
『くずし字解読辞典』児玉幸多/編 東京堂出版(1993年)
  平仮名だけでなく漢字のくずし字についても調べることができます。
『変体仮名とその覚え方』板倉聖宣著 仮説社(2016年)
  間違えやすい仮名の見分け方も丁寧に説明しています。

④現代語に訳す

 これも中学生には難しい作業ですが、古語辞典などを片手に、判読した文章を分かりやすく口語訳していきます。「変体仮名を調べることと比べれば、現代語訳なんて簡単だと感じた」と生徒の弁。
 これで江戸時代の文書をほぼ自分の力で読むことができました。


 この学習をきっかけにして変体仮名に興味を持った生徒が、後日「こんなサイトがあったので今、練習してるんです」と言って、変体仮名を読むための練習サイトを紹介してくれました。

 〇Yuta Hashimoto「くずし字学習支援アプリKuLA」
   変体仮名を学ぶためのアプリです。基本的な形が身に付いてきたら
   『方丈記』など実際の書物を読んで訓練する機能も付いています。
 
 この生徒は「古文書解読検定」なるものも探してきて、いつか受検したいと言っていました。
 博物館などに展示されている昔の書物を自力で読めるととても感動するはず。この生徒にとって、変体仮名への興味が今後新しい世界の扉を開くきっかけとなっていたら嬉しいです。
 
  (東京学芸大学附属竹早中学校 司書 中村誠子)

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