「パンタグラフ」の構造と歴史

2022-02-09 17:17 | by 富澤(主担) |

 本校には、3年生以上の学年に海外からの帰国児童を受け入れ、日本語等の支援を個別に行う「国際学級(通称「ゆり組」)」があります(1,2年生は、通常学級に編入する)。英語をはじめ、滞在先の言語で勉強してきているので、国語と外国語を読みかえた「日本語」の時間を設けて、通常学級での日本語の授業についていけるようになることを目指して学んでいます。

その「日本語」の時間に、3年生の男の子が「パンタグラフについて知りたい」と、担任の先生と一緒に来館しました。「パンタグラフ」とは、電車の屋根の上に設置されている、電気を取り入れるための装置のこと。先生から詳しく話をきくと、子どもたち一人一人が、自分の興味関心のある事柄について資料を調べ、その資料から文章を書きぬいて、それを生かしながら作文を書く、ということに取り組んでいるとのことでした。                         パンタグラフ(シングルアーム形)⇒   
 
その子は、とても電車が好きで、また詳しい様子で「パンタグラフには色々な種類があるけれど、どういう作り(構造)になっていて、どんなふうに、なぜ色々な種類が出てきたのか、変わってきたのか、その歴史が知りたい」というリクエストでした。

【構造】

小学校3年生で、これだけ明確な質問ができることに、まず感心しましたが、児童書がカバーしている範囲を超えたピンポイントなテーマです。幸い、構造についての資料は、蔵書で賄うことができました(鉄道は町探検や移動教室の際に、しばしば取り上げられるテーマなので、一般書も数冊所蔵しています)。図解・電車のメカニズムー通勤電車を徹底解剖(ブルーバックス)』(宮本 昌幸(編集,著)、講談社、2009)に記載があり、喜んで借りました。



 

【歴史】

しかし、鉄道自体の歴史ならまだしも、その一部の装置の歴史となると、学校図書館所蔵の資料では、ほとんど歯が立ちません。辛うじて「ビジュアル日本の鉄道の歴史(全3巻)」(梅原淳(著)、ゆまに書房、2017)シリーズには、時代ごとに整理された車両の写真が多数掲載されていて、パンタグラフの形も確認できるものがあるので、それを見ながら凡その年代の割り出しができるかもしれない、と、借りてくれました。

調査を続けると、国産パンタグラフの製造を長年担ってきた東洋電機製造株式会社が、独自に『東洋電機技法』という専門雑誌を刊行し、そのバックナンバーをインターネット上に全文掲載していることと、その第108号(2001-9)「日本におけるパンタグラフの歴史と東洋電機」(小野寺正之、新井博之、p.2~8)という、ぴったりの記事が連載されていることがわかって、小躍りしました。しかし、全3回の連載の予定だったはずですが、実際には、第一回目(パンタグラフ以前の集電装置と、パンタグラフの登場まで、戦前の歴史についての解説)分の記事しか書かれなかったのか、NDLサーチで検索してみたり(NDLサーチ経由でも、全文を読むことができます)、その後の巻号の目次を丹念にみたりしたのですが、第二回目と第三回目の記事を見つけることはできず、終戦後の歴史については、わかりませんでした。

J-STAGEにも、「パンタグラフの歴史」(森口真一、菅野博一、『日本機械学会誌』198285766p1031-1036という記事が、やはり全文公開されています。1975年までの「パンタグラフ発展系統図」(p.1032)の掲載もあり、一覧性があって、内容も詳しいのですが、記事自体が1982年に出されていることもあり、それ以降については、知ることができません。せめて2000年代に出された資料がほしいということで、区立図書館の蔵書にあった『電気鉄道技術変遷史』(電気鉄道技術変遷史編纂委員会/著、オーム社、2014を取り寄せてみたところ、あまり詳しく図解されてはいませんでしたが、書きぬきはできそうな記述がみつかったので、提供しました。

なお、『電気鉄道技術変遷史』は、区立図書館の蔵書検索では、なかなか見つけることが難しい資料なのですが、NDLサーチでは目次が検索情報に含まれていたため、「パンタグラフ 歴史」といった、直感的な検索ワードでたどり着くことができました。また、2021年11月に刊行された『鉄道(小学館の図鑑・NEO25)』長根広和 (監修)、 土屋武之 (監修)、小学館)には、p.91にパンタグラフについて、現在では主に、シングルアーム形、ひし形、下わく交差形の3種類が使われており、シングルアーム形が主流になっていることが書いてありますが、変遷の理由や、具体的にいつ頃登場したのか、等の情報はありません。児童書としては詳しい記述だと思いますが、「パンタグラフ」を主題にした場合には、やはり、物足りないのではないかと思います。

「インターネットでばかり調べようとしてしまうので、紙の資料の良さにも触れてほしかった」と、子どもたちを図書館に連れてきてくださった先生のおかげで、司書も大変勉強になりました。これをきっかけに、図書館を利用するハードルが下がってくれたらと願うばかりです。

(東京学芸大学附属大泉小学校 司書 富澤佳恵子)




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