古典✖デジタルコンテンツ

2022-12-08 16:13 | by 中村(主担) |

 中学3年生が3年間の国語古典学習の集大成として、「好きな古典作品を1つ選び、調べたことを映像で紹介する」という授業をおこないました。(この研究は来年1月の公開研究会で発表され、今年度中にはこのデータベースに事例を掲載する予定です。)
 扱う作品は「上代から近世まで、国語便覧に掲載されている文学ならなんでもOK、ただしこれまで授業で学習しなかったもの」です。いろいろな古典作品を知ってもらい、この先の高校・大学での授業に興味をつなげてもらいたいという目的があります。
 生徒は『古事記』『今昔物語集』といった有名なものから、『風姿花伝』『醒睡笑』といった学校でもなかなか触れる機会のない作品まで、幅広い古典文学をチョイスしてグループ学習を進めました。
 最終的には、班ごとにパワーポイントで作成した映像を流しながらプレゼンをします。その時の約束事のひとつとして、「必ず図書館や博物館などのデジタルコンテンツを活用する」、具体的には各所蔵機関が提供する古典籍、屏風絵などのデジタル画像を1枚以上パワポ画面に挿入する、という条件を課しました。1人1台がタブレット端末を持つ時代に合わせて、古典の授業も新しいものを採り入れていこうという試みです。

 膨大なデジタルコンテンツから目的の作品に関する資料を生徒自身で探すことができるよう、今回は事前に先生と相談の上、あらかじめ3つの関連サイトを紹介し、さらに個別の相談に応じていきました。

 
『誠忠義士四拾八人廻り雙六』(部分) 一鶯斎国周画/東京学芸大学附属図書館所蔵
 


 生徒には、デジタルコンテンツを活用する上での検索方法や著作権について事前に説明し、以下のサイトを単元のはじめに紹介しました。


Ⅰ. ジャパンサーチ(国立国会図書館)

 書籍・文化財・美術・放送番組など、わが国の幅広い分野のデジタルアーカイブと連携し、多様なコンテンツをまとめて検索・閲覧・活用できるプラットフォームで、令和4年12月8日現在、102機関、196のデータベースと連携し、26,531,064件のデータを収録しています。国内の著名な美術館・博物館・図書館や大学などが公開しているデジタルアーカイブをここからまとめて横断検索することが可能となっています。
 「大学教育・商用利用可」などの絞り込み検索もできます。「PDM(著作権の保護下になく、誰もが無許可で、営利・非営利関係なく複製や改変等も自由におこない利用することができる)」や「CC-BY(著作権者のクレジットを表示することで改変や営利目的の二次利用もできる)」といった表示のものを選べば、著作権の侵害を心配することもありません。出典の記載例が1クリックでコピーできるのも、生徒にとってはありがたいようです。
 「マイノート」「マイギャラリー」などユニークな機能もあり、古典に限らず様々な授業での活用が期待されるほか、特定の目的を持たずに好きなコンテンツを閲覧するだけでも楽しめるウェブサイトです。

Ⅱ. アンドラデジタルアーカイブリンク(有限会社ウィリング) 

 大学や官公庁、美術館・博物館などが運営・公開しているデジタルアーカイブのウェブページを検索できるサイトです。令和4年12月8日現在、240もの大学と、130を超える機関のデジタルアーカイブを掲載し、各機関の運営するウェブサイトへと導いてくれます。
 「国立大学」「私立大学」「大学以外」などのカテゴリーから検索するほか、「古文書」「浮世絵」「標本」「楽器」などのタグからお目当ての資料を探したりもできます。
 『ジャパンサーチ』と連携していない大学や博物館の中にも素晴らしい古典籍のデジタルコンテンツを所蔵しているところは多いので、今回はこちらのサイトもよく活用されました。

Ⅲ. 東京学芸大学教育コンテンツアーカイブ(東京学芸大学附属図書館)

 東京学芸大学の教育・研究活動成果としてのデジタル資源を収集・公開するプラットフォームです。今回の古典の授業では、附属の強みを活かして大学図書館の全面協力のもと、大学所蔵のデジタル資料も活用することができました。
 数として多くはないものの、東京学芸大学附属図書館には古典文学に関連した“すごろく”など面白いコレクションがあります。今回の授業に合わせて、生徒が使っている国語便覧での古典作品タイトル(『源氏物語』『東海道中膝栗毛』など)のタグや、ズバリ「国語便覧」というタグを、各デジタル資料に付けていただきました。これにより、デジタル資料のタイトルが『源氏かるた絵合』『五十三驛滑稽膝栗毛道中圖會』となっていて一般的な古典作品タイトルでは検索に引っかからないようなものも、生徒自身の手で確実に探し出せるようになりました。
 資料によっては「みんなで翻刻」による翻刻ページが載っていたり、先生目線では「学習指導要領コード」から学習指導要領と教育要領の内容を確認できたりすることからも、授業に寄り添った案内ができ、心強いサイトでした。


 生徒たちは様々なデジタルアーカイブに触れ、自分たちのプレゼンに使いたい画像を探して上手に採り入れていました。変体仮名で記された古典籍の文章、美しい絵巻の一場面、作者の肖像、作品に登場する道具の写真・・・様々なデジタルコンテンツが活用され、見応えのある映像が並びました。
 
 今回生徒が作ったパワポの映像作品は、公開研究会で発表したり、今後本校のデジタルアーカイブに掲載していったりと、校内だけでは収まらない活用を考えています。そのため、本来なら出典の記載の必要ない画像を使う場合でも、基本的なクレジットは掲載することを徹底しました。単元のはじめにクリエイティブ・コモンズについても説明しました。それでも出来上がった作品を見ると、個人のブログから転載した出所不明の画像があったり、無断転載不可の人物相関図を無許諾で貼り付けたり・・・といった、不適切な引用がありました。著作権についての意識を伝えることの難しさを感じています。
 貴重な資料が手元の端末から自在に閲覧できる時代。著作権をむやみに恐れて教育活動の幅を狭めることなく、正しいルールを知って積極的にデジタルコンテンツを活用してほしいと思います。それには繰り返し、丁寧にその意味を伝えることが大切だと感じた授業でした。
 
 (東京学芸大学附属竹早中学校 司書 中村誠子)


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