2学期の展示から

2022-10-11 09:09 | by 村上 |

行事も多い2学期は、生徒の日常も忙しそう。加えて、東京学芸大学附属学校には、9月、10月とあわせて100人以上の教育実習生がやってきます。昼休みには息抜きにやってくる生徒で、静かに満員御礼状態ではありますが、図書館としてはこまめに展示や掲示を更新し、何気なくでもいいから視野に入れてもらえればと思っています。

【翻訳家 三辺律子さんがゲストティーチャーに!】
 本校では、20人弱ぐらいの生徒が、それぞれのテーマに分れ、担当の先生の指導のもと探究的な学びを約半年にわたって行っています。英語の本の翻訳に取り組んでいる生徒のために、三辺律子さんが9月初めに図書館で講演をしてくださいました。それにあわせて9月は「翻訳特集」の展示をしばらく行っていました。

 三辺さんが訳されるのは、欧米の中高生が主人公の作品が多いので、何冊かは原書も入れています。そこで翻訳されたものと一緒に原書を並べました。

 また、本校では英語の絵本も収集しているので、日本語版があるものを一緒に並べてみました。

 絵本は、言葉こそ少ないのですが、実は翻訳は難しい。灰島かり著『絵本翻訳教室へようこそ』(研究社 2005)の冒頭には、絵本の翻訳の心構えが書いてあります。2022年7月に出版された『はじめて読む!海外文学ブックガイド』(越前敏弥他 河出書房新社)は、人気翻訳家が勧める、世界が広がる48冊という副題がついていて、三辺さんも著者のおひとりになっています。翻訳家ほど、その本を何度も何度も読み、味わいつくした人はいないのでは?とかねがね思っています。その翻訳者が海外文学初心者に勧める本なのですから、好みさえあえば中学生の心にヒットするはず。

 講演では、日頃どんなところに気をつけながら翻訳をしているのかを、お話くださいました。印象的だったのは、「わたし、わたくし、俺、僕、拙者…」が、英語ではすべて「I」で表現されるが、英語にはたくさんの表現があるのに、日本には一つしかないというものがあるというお話でした。どちらが優れているではなく、それぞれの国で長い時間をかけて熟成された言葉があるのだとあらためて思いました。『翻訳できない 世界のことば』(エラ・フランシス・サンダース著 前田まゆみ訳 創元社 2016)は、まさにそんな世界の言葉をすくいあげた一冊です。

 実際に翻訳に取り組んでいる生徒にとっては、三辺さんのどの言葉も、これからの活動に役立つものばかりで、とても充実した2時間だったようです。


 もう一つ、新たに加わったのは、世中版りんごの棚です。東京学芸大学図書館に、「りんごの棚」ができたことを知り、毎週1回世中図書館に研修とボランティアを兼ねて来てくださっている東京学芸大学4年生の岩田さんに作成をお願いしました。

 私も「りんごの棚」の存在を知ったのは、夏に名古屋の志段味図書館を伺った時です。ネットで「「りんごの棚」と検索すると、たくさんの図書館で同様な取組をみることができます。

 誰もが「読書」を楽しめるために、様々なカタチの「本」があることや、一見外からはわからない「識字」に関する障がいなどについても、中学生にもぜひ知ってほしいと思います。
 (東京学芸大学附属世田谷中学校司書 村上恭子)

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