「教育の新動向と学校図書館」報告

2017-01-14 15:52 | by 中山(主担) |

 2017年1月7日 東京学芸大学W201教室において、「教育の新動向と学校図書館」をテーマに、千葉大学アカデミック・リンク・センターの小野永貴氏より「高等学校の高度教育と学校図書館―国際バカロレアを中心に」と国立教育政策研究所の福本徹氏より「新学習指導要領と学校図書館―学校図書館がアクティブラーニングを実現するには」と題して、お話しいただきました。
 長野、新潟や京都からいらした方もあり、65名の参加でした。
中堅学校司書研修パート2.pdf 夏に行った公開の中堅司書研修の折の「続きが聞きたい」との要望に応えたものでもありましたが、これは司書教諭や教員の方々と一緒に聞きたい内容でした。広報を教育系の方にもお知らせすべきであったと反省です。
 
 前半の報告は お茶の水女子大学附属中学校司書 奥山文子さんに、後半を筑波大学附属駒場中学校・高等学校司書 加藤志保さんにお願いしました。



    
第一部 「高等学校の高度教育と学校図書館ー国際バカロレアを中心に」小野 永貴氏(千葉大学アカデミック・リンク・センタ― 特任助教)

 国際バカロレアとは何かという基本を補ってくださった後、今年度「日本国際バカロレア教育学会第1回全国大会」で報告された内容をもとにお話くださいました。

 まずは、小野氏から、学校図書館法第2条に学校図書館の目的は「教育課程の展開に寄与し・・・」とあるが、勤務校の教育課程を把握しているかと会場への問いかけがあり、

 教育課程は全国すべての学校が同じわけではなく、学習指導要領によらない教育課程の編成を認められた学校というものもあり、変化する教育課程に学校図書館はついていかねばならないとされました。

 

 近年、高度教育を志向する動向がある。文部科学省が推進するスーパーサイエンスハイスクール、スーパーグローバルハイスクール(以下SGHとする)等学習指導要領によらない教育課程の編成を認められた学校がその一例である。SGHにおいては主な取り組みに探究学習が挙げられていて、学校図書館が積極的に関わる可能性が大きい。今後はグローバル教育への文部科学省の強力な後押しがあり、国際バカロレア認定校も増加が予測される。

 国際バカロレア(以下IBとする)とは、IB機構が提供する国際的な教育プログラムであり、国際的に通用する大学入学資格を授与している。その教育プログラムの特徴は知識を得るだけでなく、「学び方を学ぶ」ことに重点がおかれ、「探究する人」「知識のある人」「考える人」など10の学習者像 (英語版を描いている。また多言語主義であり、16歳から19歳のディプロマ・プログラムには3つの独特な科目がある。それはEE(課題論文)、TKO(知の理論)、CAS(創造性・活動・奉仕)である。特に実践的な研究活動を行うEEでは、学校図書館が大きく貢献できるのではないだろうか。入試に「IB枠」が設けられる日本の大学も登場した。高校時代の科目の成果が、大学の合否の判定に使われるということは、学校図書館の支援が大学の合否に直結する可能性がある。

 IBの候補校申請において、図書館機能も細かく確認される。IBにおいて学校図書館の評価基準と、日本の学校図書館が重視してきた点を比較したところ、大きく異なるのは対象年齢への特化した設計、多言語主義、オンラインデータベース、オンラインジャーナルの購読であった。IBと学校図書館に関する海外の書籍では、より複雑な大学図書館へ生徒を送り出す準備として、高校段階から自信をもった図書館利用者に育てることが重要と説かれている。日本の学校図書館でもそのような意識を高めることが、今後の課題であろう。
 http://ibo.org/en/become-an-ib-school/useful-resources/resource-library/#dp
  http://ibo.org/globalassets/publications/become-an-ib-school/dp-application-candidacy-en.pdf
  http://ibo.org/contentassets/4217cb074d5f4a77947207a4a0993c8f/afc-dp-2016-en.pdf

 小野氏の報告の後、実際にIBの認定校である東京学芸大附属国際中等教育学校の司書渡邊有理子さんと、東京都立国際高等学校の司書 宅間由美子さんが、認定までの図書館の改善の過程や教育プログラムについてお話されました。IBの審査員は、司書に生徒のためにどのように資料を探しているのか、どこまで生徒の要求に応えるつもりなのかをインタビューしたり、生徒にも司書の提供資料やワークシートが役に立ったかなどの仕事ぶりを確認したりしていたそうです。IBの審査は、図書館の環境整備や資料の充実だけでなく、図書館がどのよう利用されているのか、司書も関わって本当に生徒の探究学習にとことんつきあい支える気概があるのかを重要視していることが伺えました。

 小野氏のIBの制度、理論について大変わかりやすい説明の後、お二人からの実情の紹介があり、理解がより深まり、学校図書館運営に携る司書、司書教諭にとってIBがより身近に感じられ、未来を見据えた学校図書館運営を考える時間になったと感じられました。
 
 http://www.ibo.org/about-the-ib/the-ib-by-region/ib-asia-pacific/information-for-schools-in-japan/

2017.1.9 奥山文子

 

 

 


 第二部 「新学習指導要領と学校図書館-学校図書館が「アクティブラーニング」を実現するには」 福本徹氏(国立教育政策研究所 総括研究官)
 

「学習指導要領」の位置づけ、概要、変遷についておさえた上で、平成29年改訂に向けてどのような検討がなされているのか、内容の力点、方向性、注視すべきことについて、膨大な資料とともに紹介と解説をいただきました。多大な情報と、豊富な事例やデータを取り入れながら、次のようなことをお話いただきました。

①   学習指導要領は現在改訂作業中で、平成26年の大臣諮問から、平成2812月の中教審の答申までの間にも、内容が変わってきている。最新の情報を入手し後追いを続けることが重要。

(現時点で中教審の答申は300頁弱にも及ぶものが出されているが、「そのうち、第1部「学習指導要領等改訂の基本的な方向性」70頁弱を読んでおきましょう。今なら間に合います!」と福本先生より激励のことばあり)

②   新学習指導要領改訂の力点「資質・能力」について、「社会情勢」「存在しない職業への準備」「知識基盤社会」などの変化に対し、「知ってる」プラス「できる」ことが必要であり、これからの学びにおいて「未知の問題を解決」する力を育成しなくてはならない。そのために、「使って学んで身につける」学び方「アクティブ・ラーニング」の視点が取り入れられている。

③   今回の改訂で繰り返されている「アクティブ・ラーニング」とは、学習法・授業法そのものではなく、どんな方法かに依らず、下記(アクティブラーニング的な学び)を達成できることを目指す視点のことである。

・「主体的な学び」:学ぶことに興味や関心を持ち、自己ののキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる

・「対話的な学び」:子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める

・「深い学び」:習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう

④   今回の改訂で特に理解しておくべきは、各教科で習得する知識や考え方について述べた「見方・考え方」(「答申」別表に詳細あり)である。教科を超えて汎用的な資質・能力を育てていく「見方・考え方」は、各教科を学ぶ本質的な意義を示し、教科と社会をつなぐ。

⑤   これらがトータルで実現するために「カリキュラム・マネジメント」の考え方が必要となる。目標の達成に必要な教育の内容を組み合わせ、教育課程のPDCAサイクルを作り、教育内容と資源を効果的に組み合わせることなどだ。

 上記のようなお話に加え、大学の変化と高大接続のお話や「平成28年度全国学力・学習状況調査」から「授業時間外の読書時間」や「図書館へ足を運ぶ頻度」、「読書好きかどうか」との成績との相関を示す興味深いデータも紹介いただきました。授業時間外読書は2時間までのほうが2時間以上よりもよい、図書館への来訪頻度は週4回以上よりも13回までのほうがよい、読書は好きな方がよいという結果(小・中の児童質問紙相関係数より)があり、各校で生かしていくことが大切である。

 追いついていくことがやっとで正確に聞き取ることができたかどうかいささか心もとなくはありますが、「新学習指導要領」が改訂により目指そうとしているものが、背景や目的も含めてご説明いただいたことで、ぼんやりした理解からくっきりした把握へと変わってきました。

 今回お話いただいた「新学習指導要領」で示される(であろう)内容(育成を目指す資質・能力や、そのための学び方等)は、学校図書館をフィールドにしたときに、力強く支えることができ、豊かに展開することが可能だとイメージできます。そのイメージを教員が持ちうるかどうか、教員と共有できるかどうかが各校の現場で問われてくるだろうと思いました。(その意味でも「学校図書館をフィールドに」の観点を促す文言が今後告示に至るまでに増えないかな、という淡い期待を抱きたいところです。)

お話を聞き、日を経るごとに、今回の改訂は学校にとって、とっても大きな変化なんじゃないか? 知らずにぼんやり過ごしてしまい、変わりゆく学校の一員として同じウェーブに身を置けないとしたら残念じゃないか? との思いが増していきます。福本先生の「今なら、間に合いますよ」の言葉が頭の中をぐるぐるリフレインしています。

学校がどう変わるのか、学校図書館はどう変わり、どう支えることができるのか。知ることも、考えることも、今からでもまだ間に合うはず!
 
   http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1380731.htm

2017.1.10 加藤志保

  白百合女子大学准教授の今井福司氏が、同時ツイッターをされていたものをトゲッターにおまとめくださいました。以下をご参照ください。
 
https://togetter.com/li/1068021


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