なんで、高校図書館に絵本があるのですか?

2022-01-04 10:55 | by 岡田(主担) |

 附属高等学校では様々な教員からの依頼を受けて本の紹介を行なっています。高校の授業で行う本の紹介は生徒の理解を深めるためのものを要求されますので、オフィシャル(正式)な内容となります。とはいえ、硬い内容だけでは資料の魅力が伝わりません。選書も教科書を離れた、多様なジャンルからと心がけています。「なぜ高校図書館に絵本があるのですか」と教員からよく質問を受けますが、絵本も例外ではありません。授業で学びの教材として活用しています。一人で読んでも、誰かに読んでも有意義な時間を過ごせるのが絵本の力の一つでもあります。今回はその一例を紹介したいと思います。


『羅生門』日野多香子 2012 金の星社 ISBN:978-4-323-07245-6
国語の図書館授業『羅生門』(芥川龍之介)で紹介した絵本です。子供への読み聞かせにも適しています。鬼は異形のものとして本校では探究テーマにもよく扱われます。鬼とは何か、異質な他者としてのイメージだけではない資料として生徒に紹介しました。



『お母さん、お父さんどうしたのかな?』トゥッティ・ソランタウス 2016 東京大学出版会 ISBN:978-4-13-063404-5


『子どもにどうしてあげればいい?』トゥッティ・ソランタウス 2016 東京大学出版会 ISBN:978-4-13-063405-2
保健のグループ学習に活用しています。1学年がそれぞれのテーマでプレゼンをする際に、精神疾患についての本の質問を受けます。重いテーマで専門性の高い分野でもあります。この本は家族の中で一番影響を受けやすい子供の視点から精神疾患とは何かを手に取りやすい絵本の形で表しています。今問題になっているヤングケアラーの側面からの利用もおすすめです。必要としている人に必要な箇所を、信頼関係のある形で読み伝えることができるのも絵本の優れているところです。



『ここが家だ』ベン・シャーン 2006 集英社 ISBN:4-08-299015-1
高校生にもファンが多い、庵野秀明監督の映画「シン・ゴジラ」で、第五福竜丸を説明する際の資料として展示する絵本です。ゴジラの定義には「放射能をあびて目覚めさせられた生命体」とあります。その時代背景として、第五福竜丸の名前をあげると、どのクラスでも深く頷く生徒がいます。夢の島公園内にある第五福竜丸展示館で実際に見学した印象をもとに、絵本の持つ表現の深さや多様性を味わって欲しい一冊です。


『8月6日のこと』中川ひろたか 2011 ハモニカブックスISBN:978-4-309-90916-5


『絵で読む広島の原爆』那須幹 1995 福音館 ISBN:4-8340-1265-4


『風が吹くとき』レイモンド・ブリッグズ 1982 篠崎書店 ISBN:4-7841-0156-X

コロナの影響で修学旅行がタイ、韓国の海外から急遽、瀬戸内海近辺に変更になりました。広島での平和学習のプログラムをあえて本校では義務付けませんでしたが、多くの生徒が広島記念資料館を工程表に組み込みました。上記に紹介した絵本は司書なら定番のものですが、小中学校の図書室に当たり前にあった絵本をベースに、高校の学習で再度出会うことは生徒たちにとって大変幸せなことだと思います。慣れ親しんだ絵本だからこそ学びあえる修学旅行資料です。


                (東京学芸大学附属高等学校 司書 岡田和美)

次の記事 前の記事