『やとのいえ』を読み聞かせて

2022-08-01 10:53 | by 宮崎(主担) |

 今年の司書講座では、「絵本『やとのいえ』ができるまで」と題して、著者、編集者、監修者のみなさんから、1冊の絵本ができるまでのお話をうかがうことができました。あらためて、3人のプロフェッショナルが情熱を注ぎ、時間をかけて、すばらしく丹念に作られた本だということがわかりました。また、参加者の方から、読み聞かせにもすごくよかったというレポートもいただきました。ここでは、竹早小学校での読み聞かせの様子や感想を紹介するとともに、寄せられた実践例もご紹介します。

『やとのいえ』八尾慶次/著 偕成社 2020


 竹早小学校では、1学期は高学年の4クラスに、読み聞かせを行いました。密を避けるため、離れて座り大きなモニターと実物投影機を使用して、大きく映しながら読み聞かせる方法をとっています。


はじめ、この絵本に出会ったときには、すばらしい絵本だけれども、絵が細かいので、読み聞かせには向かないのではないかと思っていました。けれどもやってみると、全然そんなことはなかったと認識を改めました。子どもたちは、まずらかんさんのかわいらしい様子にひきつけられ、たくさん書き込まれている生きものを見つけて喜びます。絵の力のすごさを感じます。また、家のまわりの様子も、絵本のテキストに、少し解説に書いてあること、例えば「電気が通った」とか「自動車が走るようになった」などを追加して読んでいくと、自分たちでも、絵を読み、さまざまな発見をして声を上げるようになりました。そして、開発が進んでいく場面では、やとのいえの運命に心を寄せ、「えー、ダメ!」「ひどい!」など悲鳴のような声を上げ、最後の家の再建と、らかんさんの変わらない様子にホッとしたような、満足そうな様子で終わることができました。


 子どもたちの感想にも、絵本のメッセージがよく伝わったことが表れています。
・今自分が住んでいるところはおじぞうさんの近くのように自然をこわして道路が作られたり、新しい家が作られていったのかなと考えた。自分の家の周りも昔は自然がいっぱいだったのかなと思うと、それを住宅地などに変えた人間の力はすごいなと思った。 

・ページひとつひとつの絵がどんどん変わっていく面白さに興味をひかれました。そして私の便利なこの生活の裏には、いろいろなものが取りこわされていると知りおどろきました。
 ・私もこの村に住んでみたい。どんどん今っぽくなってきて、日本はこんな感じに新しくなっていたんだなあと思いました。 
今ここにいる場所も昔は何があったかタイムマシンで見てみたい。 

 このように、この絵本に出会うことで、子どもたちもそれぞれ自分の地域の歴史をより身近に考えることができると思いました。

 また、絵本のモデルとなった多摩市の学校司書さんからも、読み聞かせの様子が寄せられました。多摩市では各校にこの絵本が寄贈されていて、市内めぐりの学習に合わせて、3年生に読み聞かせしたそうです。開発が進む場面では、子どもたちが「ええー!」と声を上げたりしてとてもよく聞いてくれたとか。また司書さんの工夫として、各ページの年代を「今から〇年前」と説明することで、「おばあちゃんが生まれたころ」とか「おかあさんが子どものころ」などと理解しやすかったそうです。また絵は拡大しなくても、少し遠めでも十分よく伝わったとの報告でした。

 地元でなくても、日本人にはなじみの深い風景が描かれています。日本全国いろいろなところで、読み継がれていってほしい絵本だと思っています。竹早小学校でも2学期には、今回の講演でお聞きした裏話なども紹介しながら、3,4年生に読むのを楽しみにしています。

(東京学芸大学附属竹早小学校司書 宮崎伊豆美)


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