ほのぼのから一転

2022-09-02 21:00 | by 渡辺(主担) |

 町にやってきたあみ物が得意なおばあさんは、スリッパやじゅうたんを毛糸で編み、さらにベッドや家までも編んで暮らしていました。でも一人ぼっちは寂しいと、次に毛糸で編んだのは可愛い男の子と女の子。
 ところが二人が学校へ通うようになると、「毛糸の子どもは おことわり!」と学校は大混乱。さらに町では毛糸の家は柵で囲まれて、見世物小屋のようになってしまいました。
そこで怒ったおばあさんは・・・

『編みものばあさん』

ウーリー・オルレブ作 オーラ・エイタン絵
もたいなつう訳 径書房 1997年

さて、この作品がうまれた背景はどのようなものだったのでしょうか。
 
 この絵本の作者であるウーリー・オルレブ氏は、ポーランドのワルシャワに生まれました。ユダヤ人として第2次世界大戦中にゲットーに隔離され、14歳のときにベルゲン・ベルゼン強制収容所で終戦をむかえています。
 オルレブ氏の経歴を知ると、ユダヤ人として迫害を受けた経験が、この物語の背景に横たわっていることがわかります。人間のもつ自分とは異なるものへの困惑や無理解、拒絶反応。そうした負の面が集団の心理として働いたとき、人間は正しいことだと信じて突き進んでしまう、そのことを絵本というかたちで鋭く衝いているように思います。近年世界の情勢は複雑化していますが、差別や排除を考えるきっかけとして、今あらためて中高生に紹介したい絵本作品です。
 なお、オルレブ氏は1996年に子どもの本のノーベル文学賞ともいわれる国際アンデルセン賞の作家賞を受賞され、『壁のむこうの街』(偕成社)、『壁のむこうから来た男』(岩波書店)など、ホロコーストを題材とした青少年向け作品も書かれています。

(東京学芸大学附属国際中等教育:司書 渡邊 有理子)

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