『ちいさいおうち』

2018-02-13 17:25 | by 小野寺(主担) |

『ちいさいおうち』  
   
(ばーじにあ・りー・ばーとん ぶんとえ/
                     いしいももこ やく/岩波書店/1965年)


1965年の初版刊行以来、今なお現役で読みつがれている絵本の1冊です。
原書は1942年にアメリカで出版。国も時代もちがう現代の日本においても、子どもたちに読みつがれているその魅力は、どこにあるのでしょうか。

みなさんは、学校図書館でこの絵本を何年生に読み聞かせしますか?


本校では、毎年3年生の2~3学期に読み聞かせしています。
ちょうど子どもたちは、
社会で「むかしのくらし」の学習をしている頃です。

この絵本は、“ちいさいおうち”の視点で、四季の変化や年月の経過、田園風景の静けさや幸福感と
都市化していく街の喧騒が、美しく細やかな絵で描かれています。
文も静かな語り口で、読み聞かせすると15分くらいかかり、決して短いお話ではありません。
聞き手も読み手も、おしまいまで集中が求められます。

入学してから読みきかせやお話(ストーリーテリング)を続けてくれば、
3年生の後半にもなると、クラスみんなでこのような作品も楽しめるようになっていることを、
子どもたちの聞く姿が教えてくれます。
すでにこのお話を知っている子も、小学生になってもう一度読み直すと、
その味わいをより深く楽しんでいる様子です。

3年生の子どもたちが「むかしのくらし」の学習で本を探しにくるとき、
「“むかしの本”はどこですか?」と口にします。
でも、まだ歴史を学んでいない3年生には、肝心の「むかし」がいつ頃のことなのかがいまいちピンとこないようです。
〇〇時代という共通のものさしをまだ持っていないからです。
そこで「お父さん、お母さんが子どもの頃のこと?それとも、おじいちゃん、おばあちゃん?」など、
子どもたちがイメージしやすい具体的な事柄を出して、こちらから尋ねてみると、
「すこし前」「もうすこし前」「ずっとずっとむかし」という感覚に実感がわいてくるようです。

ひなぎくの咲く丘に建つちいさいおうちのまわりの風景は、時間の流れとともに変化していきます。
乗り物は馬車から自転車、自動車へと変わり、道路ができ、
次々とビルが建ち並び、鉄道も敷かれ、人々もせわしく行き交う街になっていくのです。
こうした様子を描くことで、子どもたちには時間の感覚が、より実感をもって受け入れられていくのだと思います。

ある女の子が読書ノートに、気に入った本の感想として、こんなふうに書いていました。
「ちいさいおうちが まわりのふうけいでかくされていくへんかが おもしろかったです。」

ぜひ、小学生に読み聞かせしたい絵本の1冊です。
(東京学芸大学附属大泉小学校 司書 小野寺愛美)

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