出合いの場
2019-01-04 21:10 | by 富澤(主担) |
12月になり、クリスマス気分が盛り上がってくるのにあわせ、クリスマスの本を集めて、表紙が見えるように並べておきました。すると、他の本がつぎつぎと手に取られていくのに、動かない本があることが見えてきます。題名に「サンタ・クロース」や「クリスマス」といったわかりやすい単語がなく、表紙も、上品で美しく洗練されているのですが、一見地味でどんなお話なのか想像がつきにくいこの本も、ずっと棚に残ったままでした。
『ちいさなろば』(ルース・エインズワース作/ 石井桃子訳/ 酒井信義 画)福音館書店
いつもひとりぼっちでさびしい、ちいさなろば。クリスマス・イブの夜、サンタ・クロースに足を痛めたトナカイの代わりを頼まれ、応じます。すると翌朝、目をさましたろばが目にしたのは、願いどおりのすばらしい贈りものでした。
水彩画の絵も美しく、お話の内容とあいまって、クリスマスにふさわしい温かさを感じさせてくれる良い絵本なのに、もったいない。それならば、と2年生の一つのクラスに読み聞かせしました。とても集中して聞いていて、「贈りもの」が登場した場面では、感嘆の声があがります。最後に、表表紙にはちいさなろばがさみしげにひとりぼっちでたたずんでいるけれど、裏表紙では、「贈りもの」と一緒に楽しそうにしている姿が描かれていることも、あらためて表紙と裏表紙を見せながら伝え、本をとじました。すると、ため息とともに「こういうお話はいいねえ」と、まるでこちらの意図をくんだような声が聞こえてきたので、うれしいやらおかしいやら、思わず頬がゆるんでしまいました。
良い本なのに、題名と表紙だけの情報では、手にとられにくい本は他にもたくさんあります。
例えば・・・
世界最古の叙事詩をもとにした大型絵本、
『ギルガメシュ王ものがたり』
(ルドミラ・ゼーマン文/ 松野正子訳)岩波書店
太陽神から、メソポタミアの都ウルクをおさめるために遣わされた王ギルガメシュは、自らの力を示し、長く歴史にとどめるため、人々に城壁づくりを命じる。苛酷な労働に苦しんだ人々は神に助けをもとめ、ギルガメシュに対抗する人間エンキドゥがやってくる。
同じ作者による、『シンドバッドの冒険』(脇明子訳)シリーズは、「シンドバッド」が有名なために良く借りられていますが、こちらには手をのばしている姿を見たことがありませんでした。四大文明については、今後学ぶ日がきますし、教養としても知っていてほしいし、また何より、私自身が小学生の頃に出会って強い印象を持っていた本でしたので、4年生に読み聞かせしました。
最初に読んだクラスで、なじみのない響きの固有名詞に、少し苦戦している様子がありましたので、読んだあとに登場人物の絵を見せながら名前と関係を再確認し、それ以降のクラスでは、読む前に主な登場人物の名前を伝えておくようにしました。世界最古の叙事詩であることと共に、二冊の続編、『ギルガメシュ王のたたかい』『ギルガメシュ王さいごの旅』と、古代文明についてのノンフィクションの資料も紹介したところ、続きや関連資料のほうに借り手がつきました。
子どもたちがあまり積極的に手を伸ばさないような本でも、読み聞かせすれば、その魅力を丸ごと紹介することができます。図書の時間の醍醐味の一つだと思っています。
(東京学芸大学附属大泉小学校 司書 富澤佳恵子)