今月の学校図書館

こんなことをやっています!

長野県下伊那郡高森町立高森北小学校

2020-10-28 22:59 | by 金澤(主担) |

 9月27日に開催した「Zoomによる緊急学習会 学校図書館と著作権」に登壇いただいた長野県高森北小学校の司書、宮澤優子さんのお話が、とても印象的だったので、ぜひ原稿を!とお願いしました。高森町では、今年度から「高森町子ども読書支援センター」が稼働し、公共図書館と学校図書館が、連携しながら子どもの読書支援に取り組んでいるそうです。高森町の教育大綱である「なりたい『自分』への挑戦」のために学校図書館が日々どのように活用されているか、報告していただきました。



1 概要

長野県南部の下伊那郡に位置する高森町は、人口約13000人の町です。小学校2校、中学校1校、3校ともに専任の学校司書が配置されています。高森北小学校は全学年単級、児童数127名の小規模校です。ほたるの幼虫を飼育し放流する活動を長く続けており、毎年6月に学区内で開催される「やまぶき天伯峡ほたる祭り」では「ほたる太鼓」の演奏をします。

高森町には今年度稼働した「高森町子ども読書支援センター」があり、公共図書館と学校図書館が持つ物的・人的資源を最大限に活かし、町の子どもたちの読書を支援する取り組みが始まっています。社会教育と学校教育の枠組みの中で、なかなかうまく連携できなかった部分をセンターという「しくみ」がつなぎ、物・人・場が、動きやすく共有しやすい状況が生まれました。それによって公共図書館の児童サービスも学校図書館の機能も向上し、高森町の教育大綱にうたわれる「なりたい『自分』への挑戦」をサポートする読書支援を行っています。

2 高森北小学校の図書館の日常

 入学したばかりの1年生にオリエンテーションを行うとき、高森北小学校の学校図書館目標である「読む」「調べる」「知る」「楽しむ」について必ずお話しします。中でも「図書館はなんでも調べられる場所、なんでも知ることができる場所」ということを、具体的な事例を紹介しながらお話しするようにしています。その具体的な事例とは、前年度の1年生、つまり今年の2年生が持ち込んだレファレンスです。あんなものを持って来た、こんなものを連れて来た、こんな事を調べに来た、それを話すだけで1年生は目を丸くします。でもそれによって、図書館はそういう物や事を持ち込んでいい場所だと認識します。するとどうでしょう、そう時間がたたないうちに何かを握りしめたり、何かを連れたり(!)した1年生が図書館にやって来ます。「先生、これ何?」と。(そういう時の「先生、手、出して!」は大変危険なので警戒します!)そうすればしめたもの、一緒に調査が始まります。

これはレファレンスですから、司書が調べて本や資料を提示し回答とすることももちろんできますが、あえて一緒に調査をスタートさせます。その中で、調べたい事(テーマ)をきちんと決めること、本の探し方、目次や索引の使い方、メモの仕方、そういった調査の基本スキルを一緒に体験してもらうのです。もちろんこれらは全て「図書館の時間」や国語の授業できちんと扱うよう年間指導計画の策定や教材化がされていますが、一緒に調べよう!というレファレンスが日常的に繰り広げられており、子どもたちはどんどんそのスキルを向上させていきます。友達と共有したい!と思えるような調査がされると、必ずアウトプットをしたくなりますので、もちろんそのサポートもします。

昨年の事例から一つ紹介しましょう。スモモ

の未熟果を通学路で拾って来た1年生がおり、他学年も巻き込んで何日もかけて調査した事例がありました。休み時間になると「調査隊」が図書館に集合し、1年生では使えないレファレンスツールを5年生が代わりに調べてくれました。「梅かもしれない!」と言い出した1年生のために、校地内の梅の木まで梅の実をとりに行き比較させてくれた6年生もいました。自分の通学路をうまく説明できない1年生にかわって現地調査をしてくれた3年生もいました。最終的にスモモの未熟果だと分かった後、本当にそこにスモモがなるのか?を確認するというところまでやり尽くしました。学年をまたぎ少なくない人数でわいわいと調査していましたので、最初はただ見守っていた子どもたちも結果が気になり始めました。もちろん調査隊のメンバーは、みんなに知らせたくてうずうずします。そこで図書館の掲示板に大々的に結果を発表し、採取して来た比較用の梅の実や、拾って来た未熟果の種を調べるために半割りにしたものを展示し、それぞれが検証できるように調査に使った資料を全部並べておきました。調査隊の調査の軌跡を多くの子どもたちが追体験したのです。

3 学校図書館の限界

さて、時には学校図書館の資料だけでは埒があかないこともあります。そもそも学校図書館の蔵書は公共図書館に比べて非常に少なく、どうしても教科学習を中心とした教育活動への資料提供を優先したコレクションを構築するので、公共図書館のように十分に網羅的でなく、とりわけ指導要領にない事案についての資料はとても貧弱です。子どもたちが持ち込むものは、目についた知らないもの、ふと思い立った知りたいことなど、彼らの好奇心を刺激したものならそれが学校での学習と関係があろうがなかろうがお構いなしです。朝、家を出る直前にテレビで見たことだったり、大人の話を小耳に挟んだ不確定情報の真偽だったり、都市伝説のようなものだったり、それはそれは多岐にわたるのです。子どもたちの無邪気な疑問は、ときに壮大な調査とそれによる回答を必要とするものも少なくありません。ですから頻繁に公共図書館に資料提供の依頼をしますし、それでもダメで専門機関につなぐこともあります。小学校ですが、大学のリポジトリから論文を引っ張ってきたことも何度かあります。

ところが、それらに頼っても子どもたちの要望に応えられないこともありました。著作権法第31条の「図書館等」に学校図書館が含まれていないため、叶わなかったことがあります。せっかく探し当てた資料を複写で手渡すこと、存在がわかっていておそらくそこには情報があるだろう資料を、タイムリミットに間に合わずに手渡せなかったことなどです。また、子どもたちが自由にインターネットに接続できれば叶うだろうという事案もたくさんありました。(ということで昨年度末に図書館にWi-Fiを整え、タブレットを使って調べたり、資料に到達するための情報を獲得したりすることができるように環境を整えました。ここは自力で解決ができる部分です。)司書としてのキャリアスタートが公共図書館だった私は、公共図書館でできることができないもどかしさを何度も感じてきました。

4 子どもたちにとっての学校図書館

我が校は、町の図書館から離れて(車で10分程度)いる。だからこそ、学校図書館をフルスペックにしたい!と、あれやこれやと頭を廻らせ、知恵を絞ります。子どもたちが読みたいものを読み、知りたい事を知り、彼らにとって一番身近な図書館として「なりたい『自分』への挑戦」ができるように、サポートしていける図書館を目指し、アップデートし続けたいと考えています。るため、子どもたちが自力で日常的に使えるのは学校図書館と、2週間に一度来校する移動図書館車だけになります。となると、学校図書館は彼らにとって一番身近な図書館なのに、機能にだいぶ制限のある図書館であると言えます。特に地方においてその傾向が強いのかもしれませんが、子どもたちの人生の中で一番最初に出会う図書館が学校図書館である場合も多く、そして我が校と同じように唯一自力で使える図書館であることも多いのです。


5 子どもだけじゃない、学校図書館の利用者

 学校図書館のサービス対象は教職員も含まれています。読書サポート、学習資料の提供、情報リテラシーの指導のお手伝い、そして最近多いのが著作権に関する問い合わせです。私は高森町子ども読書支援センターの職員も兼務していますので、各学校の様々な取り組みのお手伝いに出向くのですが、著作権に関しては自分の学校のみならず町内の学校から問い合わせがあります。最終的な判断や手続きのためにはもちろん専門家につなぎますが、そもそも「これは著作権的にセーフ?アウト?」といった意識が出てきたのは、職員研修や、折に触れて学校現場における著作権のことに触れてきたからかと思います。

 学校にICTが普及し、オンライン授業や各種配信の事案が増え、著作権法第35条に関する改正も続き、その変化に対応するための情報提供が大変重要です。最新情報を提供し、共有し、教育活動を支えられる学校図書館であり続けたいと考えています。 著作権の研修を

すると真っ先に起きるのは現場の萎縮だと感じています。それまであまり意識してこなかった著作権がちらつくようになり、著作権による「制限」のほうに意識が向くようになるからかと思います。そして次の段階が、そうはいってもやらなくちゃ、わからないことは聞けばいい!となります。実はここで、子どもたちのレファレンスに寄り添うのと同じく、先生方の著作権的な解決に寄り添い、一緒に解決の過程をたどることをしています。これが繰り返されると、先生方の著作権への理解が深まり、自己解決できるようになるという、さらに次の段階に移行していきます。

(文責 高森北小学校・高森町子ども読書支援センター 宮澤優子さん)

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