今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京学芸大学附属国際中等教育学校

2020-12-01 13:49 | by 渡辺(主担) |

 2020年も残すところ1か月。今月は東京学芸大学附属国際中等教育学校の総合メディアセンターのようすをお伝えします。

*6教科による教科横断型授業
 先月から中等3年生に、6教科(国語、公民、化学、数学、英語、技術)で「水俣」をテーマにした教科横断型の授業がおこなわれました。本校では国際バカロレアの教育システムの導入により、すべての教科科目で共通の単元イメージを持つことが、カリキュラムマネジメントの土台となっています。
 この授業においても、「水俣」をテーマに複数の教科から学び、多角的に物事を捉える力をどのようにしてつけるか、という先生方の取り組みに「ぜひメディアセンターも加わってください」と要望があり、さっそく館内に「水俣」をテーマにした資料を一堂に集めました。

 

 国語では3年生全員が『苦海浄土』(石牟礼道子著 講談社)を読みすすめ、公民では高度経済成長期の社会構造を学びました。さらに化学ではメチル水銀生成までの過程を知り、英語では”Happiness"の定義を考えプレゼンテーション。そして技術では技術者倫理について考え、数学においては当時の水俣認定基準を考察していきました。
 さまざまな角度やデータから学ぶうちに、レファレンスでカウンターを訪れる生徒たちも増えてきました。そのなかの一つが「『苦海浄土』の中でふれている、1959114日に熊本日日新聞に掲載された「水俣騒動の背景」の記事を手に入れたい。」という問い合わせでした。
 

 ところが新聞の有料データベースでも記事が閲覧できるのは1988年以降。また、熊本日日新聞からバックナンバーを取り寄せるには、数日後に迫る生徒の発表の日に間に合いません。なんとかネットに掲載されていないかと、水俣関連の資料を探しているうちに、熊本大学附属図書館のサイト内の、「新聞記事見出しによる水俣病関係年表」
http://www.lib.kumamoto-u.ac.jp/suishin/minamata/5chronicle/index.html 
にたどり着きました。ここで熊本日日新聞の一部の過去記事を見ることができ、1959年までさかのぼると、『苦界浄土』でふれていた「水俣騒動」の元記事が掲載されていました。(『苦海浄土』の中では、記事の掲載日は1959年11月3日となっていましたが、実際には1959年11月4日掲載でした)


中高生のレファレンスでは、すでに生徒自身がネットで検索しても見つからないときに来ることが多く、資料の入手が難しいこともあります。だからこそ資料を提供できたときには、生徒の図書館や司書にたいする信頼度が上がることを感じます。生徒が資料を必要なタイミングや知りたいという気持ちがピークのときに、いかに間に合わせて資料を提供できるか、ということはレファンレンスをするうえで、とても大切なことだと思います。
  


*動物パレード?!
 館内授業のない午後、カウンターで仕事をしていると、突然無言でゾロゾロと動物たち入ってきました。「何?!誰?!」と私が唖然としていると、最後に美術の先生が入ってきて「面白いでしょう。高2の美術選択者が作った張り子の被り物です。ゾウなんて、衣装も全身グレーですから」と。動物たちが一斉に被り物を取ると、見慣れた顔がニヤニヤと微笑んでいました。「これから廊下を歩いてきます!」という生徒たち。授業中にこの姿で廊下を歩いたら、教室の生徒たちはさぞびっくりするに違いありません。「あとで廊下を動物パレードした反響を教えてね!」とお願いしました。

*図書委員会企画
「リサイクルブックエイド」

 毎年恒例のとなった図書委員会のイベント「リサイクルブックエイド」。これは館内で購読している雑誌の中から、学校で保管をしない娯楽雑誌を中心に、家から持ってきた古本1冊と雑誌1冊を交換する、というものです。集まった古本は教育NGOを通じて換金され、アジアの子どもたちの教育支援に使われます。生徒にとっては国際支援になり、メディアセンターとしても廃棄される雑誌が活用されるため、イベントとしてはすっかり定着しました。今や初日は希望の雑誌を手に入れようと、生徒たちが競い合うように館内に飛び込んできます。本来は年度末が迫る3学期におこなってきましたが、新型コロナの流行により今年は3月に実施できず、この時期の開催となりました。

 
*図書委員会企画「クリスマスの読書イベント」

 12月にはいると、今年も図書委員が館内にツリーを飾りました。すぐに期末テストを控えているので、うかれた気分にはなれませんが、「せめてメディアセンターからは楽しいことを発信しよう!」と、図書委員はクリスマスの読書紹介ポップをつくりました。長靴と雪だるまの形に切った色紙に書かれたポップと一緒に、紹介された本を並べると、「テストが終わったらこの本読みたい!」「私のおすすめの本も書いて貼っていい?」という生徒も現れ、図書委員も嬉しそうでした。
 今年は新型コロナウイルス感染症の流行により、さまざまな学校行事が延期や中止となりました。そうしたなか、図書委員の生徒たちが「特に1年生は入学式もなく、運動会も文化祭もなくなってしまったから、メディアセンターで楽しい思いをしてほしい」と話す気持ちに司書の私も心温かくなりました。来年は、一日も早く日本中の子どもたちがのびのびと学校生活をおくれることを願います。
(東京学芸大学附属国際中等教育:司書 渡邊有理子)
 


次の記事 前の記事