今月の学校図書館
こんなことをやっています!
東京都多摩市立多摩永山中学校
2021-04-11 15:53 | by 中村(主担) |

今月はそんな多摩市から、授業や委員会活動で様々に活用されている多摩永山中学校の図書館の様子と、そこに配置された通級指導学級でおこなわれているビブリオバトルについてご紹介します。
1.概要
多摩永山中学校の学校図書館は校舎2階の端、職員室や校長室のすぐ脇に位置しており、生徒が足を運びやすく先生方の目も届きやすい場所にあります。


校長室前には展示コーナーが常設され、季節や行事に合わせて学校司書が展示替えをおこなっています。
2.授業での活用
①POP王選手権
三省堂のPOP王こと内田剛氏を職員研修にお招きしたことを機に、8年ほど前から国語


美術の授業ではないので、絵のうまさは重要ではありません。どんなシーンを切り取ったか、どこに視点を当てたか、キラリと光る言葉が使われているか、など、国語的な観点から投票や評価がおこなわれます。
②探究学習

司書の秋山さんによると、事前に先生から授業についての話が伺えることで、その単元でのよりよい探究学習の方法を提案できるそうです。また、用意した資料を先生があらかじめ確認してくださることで、「準備できた資料の範囲内で課題を設定する」ことが可能になります。その結果、生徒が「このテーマは本では調べられない」「やっぱりネットだよね」と思うことが減り、図書を利用しながら学習に臨めるとのことです。先生によっては生徒の気持ちになりながら探究学習を追体験し、ご自分で成果物を作ってくださる方もいらっしゃるとか。生徒が課題に向き合う過程で「どこにつまづき」「どのような支援を必要としているか」について、先生自らが体験することで、実感をもって取り組めるのはとても良いことだと思います。
3.特別支援学級でビブリオバトル
多摩永山中には昨年度まで情緒障がい等通級指導学級(通称:こぶし学級)が設置されていました。こぶし学級で指導の一環としてビブリオバトルが採り入れられたのは6年前のこと。昨年度はコロナ禍で中止せざるを得なくなりましたが、それまでずっと継続しておこなわれていました。
(※通級とは、通常の学級に籍を置きながら、一部特別な支援を要するため、特別支援学級に通い指導を受けるという仕組みです。通常の学級の学習には概ね参加できているけれど、行動や学習に気がかりのある生徒が、その改善のために週1回、それぞれの在籍校から通います。今年度4月までに東京都の公立中学の通級指導学級は、各校に設置された特別支援教室へと完全移行し、特別支援教室担当教員の巡回日に生徒が在籍学級の授業を抜けて同じ校内で指導を受けるという制度に変わっています。)
通級には、他者の前で自分の意見を発表することに強い不安や緊張を感じる生徒がいるので、指導には様々な場面で発表活動を採り入れているそうです。ビブリオバトルは自分の思いを整理して発表したり、相手を受け入れ理解したりすることに繋がります。ただ、チャンプ本を選ぶというよりは「5分間人前で発表できた達成感」を成功体験として積み重ねていくことに重点を置くため、投票のやり方をアレンジしています。
ビブリオバトルの公式ルールをきちんと伝えた上で、こぶし学級独自のアレンジルールとして「評価カード」を用い、発表を聴いた後にメッセージを記入して発表者に手渡します。発表者にとっては「選ばれなかった」という気持ちを抱くことなく、評価してもらえた自分の良いところに気づきます。また、聴く側にとっては一人ひとりの発表をよく聴き、相手の良いところを探す練習になります。



「続きが気になる!」「表現力が豊か!」など、肯定的な言葉の書かれた数種類の評価カードを人数分用意し、発表を聴いた後で感じたこと・伝えたいことを1枚以上記入します。適当な言葉がない場合はフリーカードに自分なりの観点で良かった点を記入し、発表者に直接手渡しします。自分が受け取ったカードは、最後に束ねて持ち帰ります。あとに残るものがあることで達成感を味わい、人からの肯定的な意見を繰り返し見ることで自信にも繋がることを期待しています。
ビブリオバトルでは本来原稿を用意しませんが、こぶし学級では基本的にメモ程度の事前準備をします。個人の特性に合わせて“箇条書き”や“マッピング”など、やりやすい方法で思考を整理し、安心して発表に臨めるようになっています。
また、ビブリオバトルを続けるうちに、ディスカッションタイムを有意義なものにするには「質問する力」がとても大切だということも分かってきました。ソーシャルスキルトレーニングの時間を利用して『黄金体験』というカードゲームで遊んだり、帰りの会で双方向のやり取りをする時間を作ったりしながら質問力のスキルアップを目指し、地道な積み重ねによって少しずつ質問の内容が充実していくことが実感できたということです。
通級でのビブリオバトルではまず、生徒にとって「読みたいと思った・思ってもらえた」ことが重要な目当ての達成であり、それに付随して授業の狙いである発言力や質問・反応のスキルが身に付いていくものだということが、この実践から伺えました。
この春から通級は、各校設置の特別支援教室へと移行します。生徒の移動負担がなく、個々の特性に合わせたきめ細やかな指導ができる反面、指導を受ける時間が減少傾向にあり、これまでの小集団指導から個別指導へとシフトしていくそうです。ビブリオバトルが今後も続けられるかは未定ですが、こぶし学級を離れた先生方がそれぞれの学校で、また一歩発展させた新たな取り組みをされることを楽しみに、またお話を伺いたいと思います。
多摩永山中学校では学校図書館を身近な存在としてみんなが自然と親しみ、活用している様子がよく伝わってきました。管理職をはじめとした先生方、司書や用務主事などいろいろな立場の人が、学校図書館に目を向けて生徒の学びを支えていました。
お話を伺った方:西島明佳先生(現・府中市立府中第三中学校指導教諭)
秋山涼子さん(多摩永山中学校図書館司書)
資料提供:小川ひかり先生(現・江東区立南砂中学校教諭)
文責:中村誠子(東京学芸大学附属竹早中学校図書館司書)