今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京学芸大学附属国際中等教育学校

2021-05-02 12:05 | by 渡辺(主担) |

  新緑の美しい季節を迎えました。
 今月は東京学芸大学附属国際中等教育学校の総合メディアセンターのようすをお伝えします。

●「バリアフリー絵本の世界展」の開催
 毎年この時期は、館内で「バリアフリー絵本」の展示をおこなっています。所蔵している布の絵本に加え、東京布の絵本連絡会から借りた布のタペストリーや遊具と共に、生徒たちには紙やデジタルの本だけではなく、布でできた本があることを紹介しています。布の絵本はフエルトなどにひもやボタン、スナップ、ファスナー、マジックテープなどを用い、はずす、はめる、ひっぱる、むすぶなど、障害のある子どもたちが作動学習をおこなうことができる絵本です。しかし現在では障害をもつ子どもたちだけではなく、敬老館や養護施設でも手指の機能訓練の一環として使われるようになってきました。












 
  本校では直接こうした絵本を必要としている生徒がいるわけではありませんが、家族の中で、または近しい人たちのなかに必要としている人がいるかもしれません。またはボランティア部の生徒たちのように、作ることに関心を持つ子もでてくるでしょう。
 総合メディアセンターの運営コンセプトの一つに「多様性を認め合う空間にする」ということがあります。生徒にはこうした絵本を必要としている人たちがいるということを、ぜひ作品に触れながら感じてほしいと思っています。本校では海外からの帰国生も多く在籍していますが、異文化への理解だけではなく、日常的に困難な状況にある人たちへ思いをはせ、寄り添う心をもつことは、グローバルな視点を持つうえでもとても大切なことだと思っています。
 
 このバリアフリー絵本展示では、布の絵本に加え「点字絵本」や「さわる絵本」、「多言語絵本」なども展示しています。南アフリカで出版されている多言語絵本『the rights of a child』(子どもの権利)は、南ア国内の主な11言語で書かれており、それぞれの言語の文章が色別の枠におさめられています。例えばズールー語は、各ページの緑色の枠の中の文をたどることで読みすすめることができます。同じ1冊の絵本を、南ア国内のどの民族の子どもたちでも一緒に楽しめる工夫がなされているのです。生徒たちとは「日本も今は日本語以外の言葉を母語にしている人たちが大勢暮らしているから、こういう多言語絵本はいいヒントになるね」と休み時間に話しています。

左:『てんじつきさわるえほん ぐりとぐら』なかがわりえこ文 おおむらゆりこ絵 福音館書店
右:さわる絵本『これ、なあに?』バージニア・A・イエンセン 偕成社

上:『the rights of a child』Desmond Tutu , Kwela Books&Lemniscaat Publishers 2004

 そして毎年このバリアフリー絵本展にあわせ、読書補助具「リーディングトラッカー」や「カラーバールーペ」(左下の写真)を紹介しています。2016年の障害者差別解消法の施行により、国公立学校では合理的配慮の提供が法的義務となりました。リーディングトラッカーのような読書補助具の常備は、学校図書館でできる配慮の一つです。
 購入当初はカウンターに表示をして置いていましたが、なかなか気づく生徒はいませんでした。でも、年に一度こうした展示に合わせて紹介することで、「本当に文字が大きくなって見やすいね!」と試してみる生徒が増えたのです。「読書や教科書を読むときに使ったほうが見やすい人は、この展示が終わったあとも、いつでもカウンターで貸出ししますよ!」と声をかけるいい機会となっています。
リーディングトラッカーを試す生徒たち

学校図書館における「合理的配慮」については、過去のこちらの記事も合わせてご一読ください。
http://www.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/htdocs/index.php?action=pages_view_main&block_id=113&active_action=journal_view_main_detail&post_id=438#_113

●メディアセンターの心の癒し
 「えっ?ぬいぐるみがいる!小学校の図書館にもいなかったのに・・・」と、毎年びっくりする生徒がいます。館内には大型ぬいぐるみがおり、生徒たちにはすっかりなじみとなっています。「司書さんって、ぬいぐるみが好きなんだね」と言われますが、実は私が置いたぬいぐるみは一つもありません。1体は前司書さん、2体は養護教諭が「保健室よりもこちらに置いた方が大勢の生徒たちの心の癒しになるでしょう」と連れてきたのです。
 その後は管理職から「中国に出張に行ったので生徒たちに」と、パンダのぬいぐるみも加わりました。”だんだん児童館みたいになってきた・・・”と思っているのですが、緊張して入学してくる1年生には、メディアセンターに親しむ親善大使のような存在となり、在校生にはある時は勉強のお供に、ある時は椅子!?にもされています。そして、卒業生が訪れると「わ~、熊野(くまの)ビター館長、今もいるんだね!」とぬいぐるみとの再会を喜んでいます。今では司書だけではなく、彼らもメディアセンターの雰囲気をつくるうえで欠かせないメンバーとなりました。
 今年もコロナ禍で制約された学校生活が続いていますが、少しでもメディアセンターで過ごす時間が生徒たちの心の癒しとなることを願いながら運営をしていきたいと思います。

(東京学芸大学附属国際中等教育:司書 渡邊有理子)

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