今月の学校図書館

こんなことをやっています!

兵庫県姫路市立豊富小中学校

2021-08-31 08:39 | by 村上 |


 今月は、兵庫県姫路市立豊富小中学校教頭の井上幸史先生に、執筆を依頼しました。7月末に「GIGAスクール構想と学校図書館」と銘打った研修には多くの方に参加していただきましたが、そこで聞こえてきた声は、学校司書にはタブレットが配布されず、アカウントがもらえていない自治体が多いらしい…ということです。全校生徒が1人1台の端末とアカウントが使える環境の豊富小中学校では、情報空間としての学校図書館の価値が高まり、学校司書の存在が欠かせないものとなっています。そこでどのような学びが行われているのかをぜひ、お読みいただけたらと思います。(編集部)


Ⅰ はじめに

 姫路市立豊富小中学校は令和2年(2020年)4月1日、隣接する豊富小学校と豊富中学校が一つになり義務教育学校として開校しました。里山と里川に囲まれた豊かな自然に恵まれた環境の中、前期課程(いわゆる小学校)1年生~6年生と後期課程(いわゆる中学生)7年生~9年生の児童生徒731名が学びを深めています。特色ある教育活動の一つとして読書センター・学習情報センターとしての学校図書館の機能向上を掲げ、ICTの活用とともに取り組みを推進しています。ICT活用の様子は学校ホームページ「ICTカテゴリ」に掲載していますので、もしよろしければご覧ください。

 1人1台端末については、2020年9月14日に整備が完了しました。これは全国的にも非常に早い時期の導入だと言えます。導入当初から全校での積極的な活用を推進しており、学び・くらしに欠かせない道具として日常生活になじんでいます。もちろん学校図書館にも無線が整備されており、書籍の情報とともにウェブ上の情報にあたることができる環境が整っています。

 この1人1台端末や資格情報としての1人1アカウントの付与により、児童生徒がアクセスできる情報量が飛躍的に増え、表現や活動の幅も大きく広がりました。資料の検索だけでなく、共同編集やオンライン会議、デジタル付箋を用いたリアルタイムの意見交流など、クラウドの活用により時間や空間を超えた情報のやり取りも当たり前になっています。情報の消費者としてだけでなく、テクノロジーを活用して情報の創り手となることが求められる時代。このような中だからこそ、知の拠点、そして情報空間としての学校図書館の役割はますます重要になっていると感じています。

 本稿では、学校司書による学習支援の中で1人1台端末やクラウドを活用した事例のうち、8年生(中学校2年生)の総合的な学習の事例を紹介したいと思います。1人1台端末導入後すぐの実践です。少しでも皆様の実践の参考になれば幸いです。

Ⅱ 事例の紹介

1 テーマ 
海外の問題に関心を持ちSDGsの視点を持って調べ、課題に気づく。

2 ねらい
〇海外の国についての理解を深め、SDGsの視点を持って  
その課題に気づくとともに解決方法について考える。
〇Chromebookの活用に少しずつ慣れ班で協働編集する方 
法を学ぶ。
〇調べたことを班ごとに発表することを通じて、分かりやす 
く伝える技術や表現力を高める。

3 学習展開(学校図書館2時間 教室2時間 発表1時間×3回)
(1)ケニアのこどもたちをとりまく状況について調べ、それぞれの問題がSDGsのどの目標に関連するか考える。
(2)班のテーマを決める(以下の6つより)。
   テーマ:「貧困」「教育格差」「医療格差」「女性の人権」「児童労働」「難民問題」
(3)調べ、まとめる(Googleスライドで共同編集)。
(4)発表3回。Jamboardを使い評価し合う。発表資料、発表方法を改善する。
(5)生活状況に問題を抱えた3人の子どもの事例について、課題と解決方法を考える。
(6)ルーブリック評価を取り入れた振り返りをする。

4 学校司書による支援
〇資料の準備と展示・関連サイトの紹介 本校蔵書、本校前期蔵書、姫路市立図書館、加古川市立図書館、高砂市立図書館から借り受け 
〇著作権に関する資料の作成と指導(参考文献の書き方、写真やグラフの引用、情報カードの利用法)。 
〇レファレンスと作業のサポート。 
〇分かり易いスライド作りや発表方法のアドバイス。 
〇レファレンス協同データベースへの資料登録。

5 支援のポイント
〇SDGsをテーマにすると、“遠い国の話”“かわいそう”“日本は幸せ”と他人事で終わってしまう恐れがあります。そこで、問題を身近なところへ引き寄せ、現状や問題解決策を考えられるような資料収集と提供を心掛けました。
〇本やネット上の写真やグラフを引用するときのルールを指導しました。グラフ引用時は一次資料まであたり、不可能な場合はスプレッドシートを使いグラフを作り直して引用するよう指導を行い、関連してグラフの作り方なども支援しました。
〇簡単に検索できる環境にある為、逆にネット情報だけに頼りがちになります。どういう時に本を使い、ネットを使うべきかを助言しました。
〇共同編集の為、スライド間の整合性がとれるよう助言しました。

6 成果
〇以前は生徒の作業が学校図書館から離れるとアドバイスをするタイミングがありませんでしたが、ドライブ上で各班のスライドを共有できる為、学校司書はいつでも作業の進捗を確認でき教員とも情報共有しやすくなりました。コメント機能を活用し、発表資料の完成までに細かい部分までアドバイスが可能となり、生徒も随時改善することができました。
〇本校では数年前より授業や探究学習の中だけでなく、日常生活の中でSDGsに触れる環境作りをしています。特に学校図書館では常設コーナーをはじめ、新聞記事や本と共に図書館内外に展示や掲示をするとともに、SDGs関連の資料も積極的に購入しています。これらの継続的な環境づくりが理解を深める一助となりました。
〇14歳前後という年齢的に難しいテーマでしたが、深く調べ、じっくり考え、身近な問題としても引き寄せることができていました。また、コロナの影響、災害時での問題、企業の取組など幅広いテーマに触れており、多様な資料から情報収集できたと思われます。
〇一部の生徒はスプレッドシートを使いグラフ作成に挑戦できました。

7 課題
〇紙の資料の信頼性とインターネット情報の新鮮さ、複数の資料から情報を集め、取捨選択するなど、今までと変わらない部分もあります。様々な資料の特性を生かした調べ方ができるように指導すること、またよりレベルの高いプレゼンが求められる中、質の高い資料収集と情報提供を引き続き行うことが課題だと感じています。
〇“イメージ画像”と“データとしての写真”の効果的な使い方の指導、引用ルールを徹底しました。併せて、参考資料としてプレゼンテーション・著作権・情報モラル関連図書を購入しました。
〇まとめる・発表する部分が“紙”から“プレゼンテーションアプリ”となり、本やネット上の写真やグラフなどが取り込みやすくなりました。説得力のある発表資料を作ることができると同時に、今まで以上に著作権(写真・グラフ・表)や情報モラルが重要となり、学校司書が理解しておく必要があると感じています。

8 資料
〇『世界国勢図会2019/20年版』矢野恒太記念会
〇『この世界を知るための大事な質問』野澤亘伸/宝島社
〇『世界がぐっと近くなる SDGs とボクらをつなぐ本』池上彰/監修 学研プラス
〇『日本の現場:地方紙で読む2016』早稲田大学ジャーナリズム研究所ほか/著 早稲田大学出
版部
〇『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』織田朝日/著 旬報社
〇『全国データ SDGsと日本―誰も取り残されないための人間の安全保障指標』NPO法人「人間の安全保障」フォーラムほか/編 明石書店
〇『ニュース年鑑2019・2020』池上彰/監修 ポプラ社   他
〇朝日中高生新聞 
〇読売中高生新聞
〇世界子供白書2019統計データ(日本ユニセフ協会HP) 他

Ⅲ おわりに

  今回は8年生の事例を紹介しましたが、同じ時期に7年生でも学校司書による学習支援を行いました。平和学習と地域学習に関する内容です。この時も、共同編集のスライドへクラウド上でコメント機能を使ってアドバイスをしたり、教室で行っているプレゼンテーションへ学校図書館からオンラインで参加し、デジタル付箋機能を使って評価コメントを伝えたりしました。最後にその場面の一部を写真にて紹介します。

↑共同編集で作成しているスライドへ、コメント機能を使ってアドバイス。

↓ 教室でのプレゼンテーション     ↓学校図書館からオンラインで参加

↑ 評価コメントをクラウド上で共有

 ICTの活用により、新しい形の学習支援・新しい形の学校図書館の活用が始まっています。これからも、皆さんの実践から学びつつ、その可能性を模索していきたいと思います。

兵庫県姫路市立豊富小中学校
 教頭   井上 幸史
 教諭   井上 佳尚
 学校司書 稲留 麻衣子

  *後日、学校司書の稲留麻衣子さんに伺ったことを補足します。

 

 姫路市では、現在59名の学校司書が市立小・中・高・小中一貫校に配置されています。学校司書の配置が始まったのは、20155月からです。2校兼務の学校司書が大多数で、推進校だけが1校専任で置かれています。勤務時間は6時間/日で、夏・冬・春休みは勤務がありません。研修は、春は就業前の実務研修、秋は実践報告を中心に行っています。

 豊富小中学校のような義務教育学校は市内に3校あり、いずれも図書館は小学校(前期)用と中学校(後期)用と2つあります。豊富小中の場合、前期の12年生が毎週1時間「図書の時間」があるため、週3日は前期図書館に在中し、前期の授業支援。残りの2日は後期図書館に在中し後期の授業支援をしています。司書の不在時には、児童生徒が必要な時に見られるように、Googleの共有ドキュメントに資料情報を入れておくこともあります。後期は放課後毎日開館しています。

義務教育学校として、前期と後期の連携は意識しています。特に、高学年には進級を見据えて、調べ学習の際、後期の資料を積極的に提供したり、後期図書館での図書館ツアーを行いました。希望があれば前期の児童に後期の本を読書用に貸し出すこともあります。

 また、前期の児童が後期に進級した際に図書館が居心地の良い場所のひとつとなれるように、後期の図書館を利用してもらう機会ももうけています。

  職員室が前期後期同じなので、曜日関係なく、どちらの先生方とも打ち合わせができるのはメリットです。Microsoft Teamsにも参加しているので、学校司書からの情報発信もしやすくなりました。Teamsのなかに「実践交流グループ」というのもあり、ここに研修情報や、Googleの活用情報などがあがってくるので、役立っています。

全校生徒がタブレットを利用するようになって感じているのは、「調べる」と「まとめる」が同時進行できるようになったことです。グループ単位の探究であっても、個別で深めることができるようになりました。また、調べる内容によりますが、今まで以上に簡単にネット検索できるようになり、改めて「本」を使う生徒が増えたような気がします。以前から本とPCを使って調べることが当たり前で、タブレット配布後も、教室で調べる際は学年廊下に本を別置するなどして、両方にアクセスできる環境を保障しています。何より先生方の多くが、調べるには、本とタブレットで!…と考えられているので自然と本が置き去りにならないのかもしれません。


【編集部より】

まだ、学校司書が置かれて7年目、活動時間も十分とは言えない中、ICTを上手に活用し、先生方や児童生徒とコミュニケーションをとって、できることをどんどん増やしている姿に、驚かされます。タブレットを使うことで、「本」を使う生徒が増えたというのも、嬉しい発見です。

教頭の井上先生からは、つい先日行われた、稲留さんの学習支援の様子を伝えるHPの記事が「子どもたち、すごく楽しそうで、見ているこちらも明るい気持ちになりました。調べるって楽しいですね」というコメントと共に、送られてきました。

https://www.city.himeji.lg.jp/school/0000012125.html

 今後、実践事例もいただける予定です。お楽しみに!                     


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