今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京都杉並区立桃井第三小学校

2021-10-01 08:41 | by 金澤(主担) |

 杉並区立桃井第三小学校は、平成23年度から「ICT活用」をテーマに、校内研究に取り組んでいます。月8回程度、区から派遣されるICT支援員(ベネッセからの契約社員)とも連携し、「情報活用能力」をどのように育成しているかを、主任教諭で情報担当の大山努先生と学校司書の土屋文代さんに、執筆いただきました。 (編集部)



1.はじめに

東京都杉並区立桃井第三小学校(校長 末永弘)は、1~6年生16学級、特別支援学級2学級からなる中規模校です。中央線の駅から近く商店街と隣接する学校には、明るく人懐こい子供たちが450人ほど通っています。本校は、平成23年からICT活用の校内研究が始まり平成24年から平成27年までは杉並区の教育課題研究指定校として研究発表を行いました。それ以降も現在まで10年間ICT活用の校内研究を継続しています。

 最近は学習指導要領にある「主体的・対話的で深い学び」を実現するための効果的なICT活用が研究のテーマです。主体的(子ども自らが)対話的(自分の考えをもって人と関わり)深い学び(学びに意味や価値を見出す)と捉えると、そのためには学習の中に、立ち止まったり、壁を感じたり、自分事に感じたりする場面を作ることが必要です。本校では、ICT活用が学習の効率を上げるためだけではなく、どのように活用すると、どんな力がつくかという視点を大切にした授業を考えています。
 また、タブレットを活用する場面は、文房具として使う時と情報源として使う時
を分けて考えます。文房具として使う時は制限し過ぎずたっぷり触らせて、使い方を子供自身に考えさせながらスキルを上げていきます。そのためには時間の確保も課題の一つです。一方、情報源として使う時はいきなり検索サイトを使わせることはしません。まずは低学年のうちに参考図書の使い方、図鑑や科学読み物の読み方など、発達の段階に応じた学習を行いながら情報リテラシーを上げていきます。
 その上でインターネットの情報検索を行う前にも必ず利用指導を行います。検索の質を上げることで、児童は、的確な情報を収集することや、情報を比較することを意識するようになるからです。

このように情報活用能力を高めるための指導は、1年生から始まり、6年間の中で発達の段階に合わせてタイミングよく積み上げていかなくてはなりません。そのためには担任、情報担当教諭、学校司書、ICT支援員の連携が大事になります。

2.情報活用能力を育成する ~時間の確保とタイミング~

 平成25年度から導入され始めた児童用タブレットは、昨年度まで高学年が11台使用していましたが、今年度からは全校児童11台の配備となり、3年生以上は家庭への持ち帰りも始まりました。子供たちは、朝登校すると電源を立ち上げ、学習道具として授業や学級活動などで使用します。この急激な変化に備えるためには、利用指導が必要です。本校では情報担当教諭と学校司書がこの問題を共有したうえで、昨年度10月から情報スキル・情報モラルの学習を開始しました。まず情報担当教諭が学年ごとに内容を決めた計画をたて、朝モジュールの時間(1時間目開始前の15分間)にスズキ教育ソフト『あんしん・あんぜん情報モラル』、NHK for School『スマホ・リアル・ストーリー』、東京都教育委員会『SNS京ノート』などの教材を使用して短時間でポイントを押さえました。今年度は情報リテラシーを向上するための時間として広義に捉え、読書や新聞タイムの時間も加えて「情報活用能力指導計画」を作成し、継続しています。

 短時間でインプットしたスキルは、授業の中で活用してさらに深めます。具体的には、教科の中で調べ学習を行う時に、情報の選び方、集め方、信憑性、まとめ方、出典の書き方などについてタイミングよく利用指導を織り交ぜています。全ての調べ学習を学校図書館で行うことは難しいので、重点項目とそれを学習する学年を決め、担任、情報担当教諭、学校司書、ICT支援員が協働して行います。
 
具体例を挙げてみましょう。5年生は移動教室に関連付けて総合で「富士の自然を調べよう」という探究型学習を行います。まず各自がマンダラートやウェビングマップで課題を絞ります。このとき、学校司書は思考スキルの書かれたワークシートを作成し支援します。次に百科事典ポプラディアで「そもそも調べ」をして、調べるキーワードを増やします。それから図書資料で調べ始めますが、専門的な地域の情報はインターネットの方が要望に応えられることも多いです。そこで、ICT支援員と学校司書が協働してリンク集を作りました。しかし、このような観光サイトは情報が多く、自分の調べたいキーワードを見つけるまでに時間がかかることが難点です。そこで、図書の時間に情報担当教諭がインターネットサイトの活用についての授業を行いました。

子供たちはホームページの基本的な構造(構成)を理解しサイトマップ等をうまく利用すれば、(子供の学習に特化していない)一般的なホームページでも自分の知りたい情報に最短で辿り着くことができるようになります。授業を終えて、「家でもただポチポチするのでなく、今度からサイトマップを見てみよう。」と嬉しそうに感想を話す姿が見られました。

3.探究する子供を支える学校図書館

 学校図書館では情報活用のための様々な利用指導を重要な学習として位置づけ、その学習で使ったワークシートを「学び方ファイル」に保管しています。このファイルは、6年間継続して積み上げる情報活用のワークシートを納めたもので、学期末などの節目に振り返り、学習内容を意識付ける目的があります。
 本の分類や、図鑑、辞典、年鑑などの参考図書の使い方を知るごとに、子供たちは調べ方が上手になります。テーマの中にあるキーワードを見つけ、短時間に情報を収集する力も以前よりつきました。しかしその先にある「情報を読み取る力」や「情報を分析・整理してまとめる力」にはまだ課題があります。調べる様子を見ていると、本を読むのが苦手な児童はインターネットを見たがるのですが、情報を読み取ることができずに長文を丸写しすることが多いです。これでは楽しく調べることはできません。まずは読めることが大前提なのだと実感します。また、調べた情報を並べてまとめの形にするだけで、情報同士を比較・分析したり、自分の考えと比べたり、新たな疑問が生まれたりという、探究するために必要な思考の深まりがなかなか生まれません。日ごろから自分の考えをもつことが苦手という子供の声も聞かれます。この実態を踏まえて、今年度から朝モジュールの「情報活用能力育成指導計画」(情報モラルを含む)に取り入れたのが、「新聞タイム」です。いくつかの新聞記事から、興味をもったテーマの記事を選んで読み、自分の考えを書くという学習です。今後、子どもたちの様子を見ながら、効果を確かめていきたいと考えています。

4.組織の中の学校図書館

 1人1台タブレットを手にした子供たちは、そのツールを使いながらどのような力をつけていくのでしょうか。機器を使いこなすスキルだけでなく、聞く・読むことを含めた情報活用能力を育む必要性を誰もが感じることでしょう。しかし、限られた時間の中で何をどうすれば良いのか悩むところではないでしょうか。

本校には、このようなこと話し合う「学校図書館情報部」があります。これは、学校組織の教育環境部の中にあり、各学年1名の教員と、図書主任、情報担当教諭、学校司書で構成された部会です。学期の始めや終わりなど年間数回の集まりを持ちます。短時間でも、タブレットを活用した教科の情報や、実践する中で見つけた問題点を共有できる場があることは有意義なことです。それを、夕会(放課後の連絡会)や職員会議で少しずつでも情報共有することで、共通の認識が生まれます。

今後は教育計画の中に位置づけられた「学校図書館全体計画」「学校図書館年間活用計画」「情報活用年間指導計画」「情報活用能力育成指導計画」を見直す必要性も感じます。教科を横断しながらタイミングよく情報活用の学習を入れ、学年を追うごとに情報リテラシーを積み上げることができるということを、教職員全体で共通理解することが重要だと思うからです。

 

 ICT活用は既に始まり加速化しています。タブレットは文房具として使う時代です。情報活用能力も育成していかなければなりません。あれもこれも、と目いっぱいになりそうですが、子どもたちが今必要な力は何かを捉えて、ひとつひとつ学びを深められるようにしたいと思います。
                (文責 杉並区立桃井第三小学校  学校司書 土屋文代  主任教諭(情報担当) 大山 努)



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