今月の学校図書館

こんなことをやっています!

東京学芸大学附属世田谷中学校

2022-04-10 13:42 | by 村上 |

 今月の学校図書館は、東京学芸大学附属世田谷中学校です。

 2020年からのコロナ禍のなかで、生徒が集う場所であった「学校図書館」に、三密を避けるために利用制限がかけられ、思うような活動ができなかったのは、本校も同じです。それでも、少しずつ制限が緩和され、休み時間や放課後、生徒の利用が増えてきて、昨年の秋以降は、「図書館」での活動が必須であるなら、換気に気をつけながらの授業利用が可能となりました。そこで、司書教諭でもある家庭科の先生が、以前から取り組んでみたいと考えていた、絵本を活用した保育の授業を思い切って行うことになりました。(写真右はNPOブックスタートの方のお話に聞き入る中学3年生)

 この授業については、昨年12月に実施した「文科省事業報告会 みんなで使おう!学校図書館VOL.13で報告し、実践事例A0400 にも掲載しましたので、そちらをご覧いただけたらと思います。今回紹介するのは、その授業から広がった教科連携の取り組みと、あらたな地域とのつながりです。(こちらの事例も、後日掲載予定です。)

 


 家庭科の授業として、各自が1歳、2~3歳、4歳、5歳~6歳という年齢の幼児のために選んだ1冊を、国語科の授業でひきとり、書店もしくは図書館に本と一緒に飾ってもらうことを想定して、POPを描くというものです。ただし評価の対象は、POPを描くにあたって書き込むワークシートのみというのが国語の先生の方針です。

 

 そこで出来上がったPOPは図書館や書店に実際に飾ってもらえる場所を司書が探しました。こんな時、頼りになるのが、司書のネットワークです。図書館としては、絵本を大量にお借りしたお隣の附属世田谷小学校の図書館と、赤ちゃん絵本を借りにいった世田谷区立深沢図書館で、全員のPOPが飾ってもらえること。書店に関しては、柏市の児童書専門店「ハックルベリーブックス」と、丸善丸の内本店の児童書売り場で、商品と並べて飾るにふさわしいPOPを選んで飾ってもらえることを生徒に伝えました。


 受験を控えた3年生ということもあり、3時間の授業時間でPOPを仕上げてもらう予定だったのですが、いざワークシートに向かうと考え込んでしまうのか、生徒が実際に描き始めたのは3時間目になってから。そこで、受験勉強の合間の気分転換に描くことを奨めて、提出は2学期の終業式となりました。(右写真は、ワークシートに向かう生徒の様子)


 展示を依頼した司書としては、どんな
POPが仕上がるのか、心配だったのですが、杞憂でした。提出された、それぞれに味のあるPOPを一同に並べると、実に楽しい雰囲気が醸し出されます。まずは、全点図書館に展示してみました。

 POP
は先生がデジタル画像に変換し、それを書店の方には送って、選んでもらいました。丸善丸の内本店児童書売り場担当の兼森理恵さんには32枚、ハックルベリーブックスの店長、奥山恵さんには11枚のPOPを印刷してお送りしました。3月に入ると、早速展示しましたよ!というご連絡と一緒に写真が送られてきました。書店にPOPを飾るということは、どの本を何冊ぐらい仕入れるかという経営に関わること、とくに平台に置く場合は、複数冊の本を注文することになります。そういう意味でも、ご厚意で置いていただけたこと、ありがたかったです。
 

 丸善丸の内本店児童書売り場(左側)と、ハックルベリーブックス(右側)に飾られたPOP




 










 世田谷区立深沢図書館では、入り口の展示と、児童書コーナーにそれぞれ飾ってくださっていました。全点いっぺんには飾れないので、入れ替えをしてくださるとのことでした。展示を作ってくださった児童担当の方が、「急に、長新太さんの『キャベツくん』が動きだしたのは、入り口の展示を見からかなぁと話していたんですよ」と嬉しいお言葉を!
(写真左下 図書館入り口の展示      写真右下 児童コーナーの展示)














 書店に関しては、地元の児童書専門店「ぱっきゃらまーど」にも繋がることができました。店主の山本陽子さんは、以前から地元の学校と繋がりを持ちたかったとのことで、なんと、生徒のPOPを全点飾っていただけることになりました。


 「展示期間中、お客様に、POPを見て心をつかまれたら青いシール、お買い上げいただいたら赤いシールを貼ってもらってもいいですか? シールが多かった生徒さんには何か、プレゼント差し上げたいです。」と新たな提案をいただきました。(左写真 「ぱっきゃらまーど」に飾られたPOPの一部)

 春休み中、たまたま学校にやってきて、山本さんからのプレゼントを渡すことができたふたりに、今回の取組について感想を聞いてみました。

「POPは人と本を繋げてくれます。私は中学校3年間図書委員、そして文芸部として過ごし人と『物語』、そしてまた人とが結ばれていく尊さを実感しました。そんな中で、こうして実際に自分自身が制作したPOPが結び目となれたこと、とても嬉しかったです。『物語』を慈しむ心がこれからもずっと世界に溢れることを願いながら、次世代の担い手としてその良さを伝えられるように、学び続けていきます。」(川上真央さん)

「幼児のための絵本を選んでPOPにするという、家庭科と国語の授業から生まれたPOP制作。幼児の目線と、絵本を選ぶ大人の目線を考えて、本の魅力が伝わるように、心をこめて描きました。」(山本麗愛美さん)


  期間中は、POPを描いた生徒や保護者、他学年の親子、それに本校の先生方も何人かお店を訪れ、さらに交流が深まりました。このような試みは、初めてのことでしたが、とてもいい経験をさせていただきました。今後も、このような繋がりを活かして、新たなことができたら楽しそうです。

 ぱっきゃらまーどさんの、小さくても温かみのある素敵な空間を訪れ、自校図書館の片隅にあったえほんコーナーをもっといい場所に!と思いつき、移動しました。今は、入るとすぐにたくさんの絵本が迎えてくれます。(右写真)

 絵本を小さな子どもだけのものと考えるのはもったいない! そういえば、丸善本店児童書売り場には、仕事に疲れた大人が自分のために絵本を買っていく姿がよく見られると、兼森さんに伺いました。中学生が疲れている…とは思いたくないですが、いろいろな読み方ができるのが、「絵本」の魅力です。中学校の大切な蔵書として、今後も充実させていきたいと思います。

(附属世田谷中学校司書 村上恭子)

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